相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん

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9月になって

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 種芋を畑に植えて一週間、9月に入った頃。
 今度はセルトレイで育成した白菜の苗を畑に植え替えることにした。

 白菜には虫が付きやすい。
 なのに、さほど虫害もなく育てることができたのは、間違いなくレムネアの魔法薬のお陰だろう。

 ゴーレムたちと畑の畝立てをしながらレムネアに礼を言うと、彼女は控えめな笑顔で耳をピコピコ動かして見せた。とても喜んでいる証拠だ。

「セフセフですよ。アブラムシが湧いたときにはどうしようかと思ったものですが」
「一度くっつかれちゃうと、効果が薄いぽいな。駆除効果はないみたいだから、その辺農薬とは違ってそうだ」

 でも、うまく使えば農薬を減らして白菜を育てられるかもしれない。
 無農薬の栽培は地獄と聞くけど、減らせるなら減らしてみたい気はする。

 怖い物知らずな素人ほど、無農薬とか減農薬の栽培という物に憧れるものなのだ。
 はい俺です。

 都内に住んでいた頃、無農薬野菜を使うレストランで野菜を食べたことがあるんだけど、確かに美味しかった。人参、全然エグさがなくて甘みがあったもんな。

 そういう野菜を作ってみたいな、という願望はやはりあるんだよね。

「ケースケさまがやりたいことでしたら、この私がどんなことでもお力になりますとも!」

 俺がちょっとしたお気持ちを吐露すると、レムネアが手を腰に当てて胸を張った。
 えっへん、というポーズだ。
 自信ありげになってきて、なにより。彼女もだいぶ変わってきた気がする。

「そうだな。頼らせてもらうよ」
「頼ってください!」

 午前中。
 10時になり、休憩に入る。今日は木陰でお茶と甘い物を食べることにした。
 甘味はモナカ。
 確か和菓子は初めてなんじゃないかな、レムネア。

「わあっ、かわいい」

 モナカの皮がデフォルメされた動物の顔の形になっている。
 食べるのが勿体ない、と笑う彼女に率先して、俺は一つ口にした。ぱくり。

「んー、甘いアンコが疲れた身体に沁みるー」

 そして水筒から紙コップに注いだ冷たくて濃い緑茶をグビリ。
 この組み合わせって最強の一種だよなぁ。
 緑茶の苦さとアンコの甘さが丁度良くマッチして、口の中がさっぱりする。

 俺が二つ目のモナカに手を伸ばそうとすると。

「ず、ずるいですケースケさま」

 慌ててレムネアも続いてきた。
 モナカにぱくりと齧りつく。

「ぁま~い!」

 緑茶を飲む。

「にが~い!」

 困ったように笑っているのはきっと、この組み合わせが気に入ったからだ。
 何故なら甘い、にがい、を交互に繰り返しながら、恍惚とした表情でモナカと緑茶を口に運び続けていく彼女なのだった。

「気に入って貰えたようで、なにより」
「まだこんな美味しい物を隠していたなんて、この世界はホントにもう!」

 レムネアは、片手にモナカ。片手に緑茶。
 おいおい食いしん坊か。食いしん坊だった。すごい勢いで食べてくぞこいつ。

「はー、お腹がいっぱいです」

 食べ終えた頃には、俺の四倍くらいモナカを口にしている。
 元気の証明で良いことだけどな。俺は苦笑しながら話題を変えた。

「苗の植え替えが終わったら、虫よけをもう一回してもらうか」
「まだ魔法薬の効果が切れる頃じゃないとは思いますが……」
「そうなのか? それじゃその辺の時期はレムネアに任せるとして――」

 虫除け網を張ったり芽の選定をしたりとか、あれやってこれやってと忙しくなりそうだ。
 木陰に二人で座りながら、今も働き続けてくれているゴーレムさんたちを眺める。
 あいつらはこの暑い中でも文句一つ言わずに動いてくれるなぁ。
 凄い労働力だよ。ゴーレムさん、ひいてはレムネアにも、感謝の気持ちしかない。

「白菜、うまく育ってくれるといいですねぇ」
「そうだな。ジャガイモと違って育成が難しいらしいから、頑張らないとな」
「難しいんですか?」
「野崎さんの話だと、虫害を受けやすくて大変なんだそうだ。だからレムネアには特に頼らせて貰うよ」

 俺がそう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべて。

「はい! 頼ってください!」

 と嬉しそうに俺の顔を見た。
 つい苦笑してしまう俺。

「はは、なんでそんな嬉しそうに言うんだ」
「……私は前の世界ではあまり頼られたりしませんでしたから。ちゃんとケースケさまのお役に立てて、一人前扱いされることが嬉しいんです」

 真顔で言われてしまった。
 そっか、そういうものなのか。うまく返事をすることができず、俺は思わず空を見上げた。

 ミーンミーンミーン。
 蝉の声。

 9月になりたてとか、まだ真夏と暑さは差して変わりがない。
 こうして木陰で風に吹かれていても暑さがジワジワ身体を蝕んでくるほどだ。

「……こう暑いと、プールでも行きたくならないか?」
「? ぷーるというのは、なんですか?」

 ああそうか、いかにも異世界には存在しなさそうなレジャー施設だわな。
 俺はレムネアにプールというものを説明した。

「水がたくさんで泳げる施設……ですか」
「レムネアは泳げる?」
「一応。というかどちらかと言えば得意な技術ですね」
「技術って、なんか大げさだな」

 思わず苦笑してしまうが、レムネアは至って真面目な顔を崩さずに。

「そりゃあ、冒険者にとっては大切な技術ですよ。水辺の魔物の中には、私たちを水中に引きずり込む輩もいるのですから」
「河童みたいな奴だな」
「――! こちらの世界にもやはり水辺の魔物が!?」

 クワッと目を見開いて反応してくる彼女に、重ねて苦笑する俺だった。

「居ない居ない。まだ科学が発達してなかった大昔の伝承だよ」

 ソウデスカ。
 と棒読みで返してくるレムネアだった。
 ちょっとシュンとして見えるのは何故だろう。

 俺は少し聞いてみた。

「……やっぱり、冒険者としての能力を発揮する場がないってのは寂しいものか?」
「え、いえ! そんなことはありませんよ!?」

 慌てた顔で否定するレムネア。
 どうやら図星ではあるらしい。

 といって、その欲求を満たしてやることは、俺にもできない。
 なにせこの世界には魔物なんて居ないんだからな、なにかと戦ったりする場面なんかそうそうあるものじゃない。
 俺はちょっとだけ話題を変えた。

「泳ぐの得意って言ってたけど、どれくらい得意なんだ?」
「魔法を使いますが、20分ほどは水に潜ったままで居られます」
「え、すご」

 シンプルに驚いてみせると、気を良くしたのかレムネアは笑顔を見せた。

「溺れる心配のない状態で泳ぎも練習してますから、たぶん上手と言ってよいレベルだと思いますよ。水の中をスイスイです」
「マジかー。俺も一応泳げるけど、そんな上手くはないからなぁ」
「なんなら水の上を歩くこともできます!」

 えっへん、と胸を張るが、それはもう泳ぎじゃない。興味はあるけど。
 にしても、そうかレムネアは泳ぎが得意だったのか。
 ちょっと見てみたい気がするな、泳いでいるレムネアのこと。

「……白菜の植え替えが一段落したら、皆でプールに行ってみるか?」
「え?」
「レムネアは泳ぎが得意なんだろ、あの三人娘にコーチでもしてやれよ。なんなら、俺もコーチして欲しいくらいだけど」
「い、行きたいです、ぜひ!」

 レムネアが目を輝かせる。
 おおっと、そんなに喜ぶとは思っていなかった。

「よーし。レイジにも話を通しておくよ、この辺にプールがあるか聞いてみないとな」
「はいっ!」

 ◇◆◇◆

 一週間後、レイジが大きなバンに乗って俺の家へと顔を出した。
 三人娘も乗っている。

 今日はプールに行く日だ。
 この日の為に、レムネアの水着も買いにいった。

 例によって「しまむらさん」という大衆ブランドだ。この辺、俺はあまり詳しくないのでレムネアを連れていけるところがワンパで申し訳ない。

 女性店員さんがレムネアの対応をしてくれて(前回と同じ店員さんだったぽく、覚えられていた)、最後はまたニンマリした笑顔で「美人のお嫁さんで羨ましい限りです旦那さん」などと冷やかされたものである。

「準備はいいようだな」
「オッケーだ。にしてもデカい車だな、駄菓子屋って儲かるのか?」
「本業は他にあるって言ったろ」

 そうだった。
 本業を聞いてみたのだが、笑って答えない。
 なんだよ闇の商売でもやってるのかコイツ。俺が苦笑すると、レイジは肩を竦めてみせた。

「その辺はまあ、おいおいな。よーし、おまえら準備はいいかー! 出かけるぞー!」

 おー、と元気よく応えたのは後部座席に乗っている三人娘だった。
 それぞれさっそくカバンから駄菓子を取り出して、レムネアに渡し出す。

「レムネアおねーちゃん、これ美味しいから!」
「おねえ……さん。こっち、も」

 リッコと美津音ちゃんに詰められて、レムネアが困った顔でこちらを見る。
 俺は笑ってみせた。

「貰っとけ貰っとけ。駄菓子なんてものは皆で食べた方が美味しいんだから」
「ケースケお兄さん、わかっていますね。ご褒美にこれを差し上げます」

 後部座席から身体を乗り出してきたのはナギサだった。
 手渡されたのはうまか棒スナック、サラミ味。

「おいおい、俺にはないのかよナギサぁ」
「レイジさんは運転があるから。危ないので」
「ひでえ!」

 車内に笑い声が響く。
 さあ、今日はプールだ!
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