嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん

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飛行魔道具コンテスト

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「ミューゼア嬢にお聞きしたいのですが」

 とある冬の日の午後、俺は食事の席で彼女に聞いた。

「――はい? なんでしょう」
「新街道を作る際に使っていた精巧な地図あったじゃないですか、ミューゼア嬢がお作りになったという」
「ああ、はい。三角測量を使ったものですね。空を飛べる魔族の方に手伝って頂いたお陰で作業が捗りました」
「ああいった地図を、もっと広い範囲で作ることはできませんか? 人も増えてきましたし、そろそろ町の防衛にも力を入れていきたいのですよ。その際には正確な地図があると便利なので」

 これはセバスからの受け売りでもあるが、詳細な地図は軍事機密として扱うべきレベルで重要な情報なのだと言う。
 昔それを聞いたときには「ふーん」と流していたものだけど、今なら俺もわかる。まーそりゃそうだよ、戦力の配置や外敵の進撃ルートなど、地図が正確であればあるほど予測しやすい。攻め込む側としても、良い地図があるなら効率よい攻め方を考案しやすい。

 要は攻めにも守りにも重要な情報なわけだ。
 ミューゼア嬢が作った地図も、今は大事な機密として屋敷の隠し金庫に保管してあるのだが、つまりはこの精度の地図をもっと広い範囲で作れないか、という話である。

「うーん。長時間の空中移動が必要ですからね……。空を飛べる特殊能力を持った魔族さんにもあれは重労働だったらしく、地図を作っている最中に寝込んでしまったのですよね。あれをまた手伝って欲しいとは、なかなか言い出せません」
「地上からコツコツ作ることは?」
「出来なくはないですけど、前とは比べ物にならないくらい、かなり時間が掛かると思います」
「そっかぁ、じゃあ無理か」

 しゅーん。うな垂れてしまう俺だった。
 あの地図、ほんと便利そうだったんだけどなぁ。
 と、たぶん俺がわかりやすく残念がっていたら、ミューゼア嬢がなにやらブツブツと呟きだした。

「……えっと、ああ。そういえばこの時期は確か……、うん、そうでした。アレの時期だったはず」

 こちらの目を気にしないで考え込むこの仕草も、最近少し慣れてきた。馴染んできたというべきか。これはきっと、あの言葉が出てくる前触れだ。そう、あの言葉。

 ミューゼア嬢が時折り口にする謎の言葉、『ゲーム知識によると』。
 彼女は俺の方を向き直ると語り出す。

「飛行魔道具コンテスト、を開いては如何でしょうか」
「ん? ああ。つまりコンテストで地図作りに使えるレベルの飛行魔道具を探せないか、ということですか?」
「そうです」
「うーん」

 俺は腕を組んでみせた。
 飛行魔道具は存在もレアな上に、移動などの実用レベルで使えるものはさらに少ないと聞いたことがある。ミューゼア嬢が望むクラスの飛行魔道具なんか、この世界に存在しない可能性すらあるだろう。

「大丈夫です。私のゲーム知識によりますと――」

 よし、やっぱり出てきた。ミィーゼア嬢の『ゲーム知識』!
 最近やっとわかってきたのだけれど、ミューゼア嬢が「ゲーム知識では云々」と言い始めたときはだいたい『予知』絡みの話題だ。そしてそれらは、俺たち自身やライゼル領にとって重要な出来事に繋がっていることが多い。

 俺はワクワクして彼女が続ける言葉を聞いてゆく。

「この時期、『UR級の凄い飛行魔道具』が発見されるはずなんです。だから、開いてみる価値は十分あるんじゃないかと」
「ほうほう」
「ライゼル領の魔道具コンテストは、今や一つの名物として旅商人や冒険者にも認識されています。もしかしたら、UR級魔道具を持った人が現れるかもしれません」

 ここで彼女の『ゲーム知識』という言葉が出てくるのは良いことだ。
 ライゼル領周囲の地図作り、これが「ライゼルや俺たちにとって重要」なことに繋がる証明みたいなものだ。
 俺はにんまり笑いながら、周辺の町々へコンテスト開催の布告をする決意をした。

「いやぁ、今回はどのようなことが起きるのでしょうね。期待に胸が膨らみます」
「あの、いえ、ギリアムさま。UR級飛行魔道具の発見イベントは、パターンが幾つもあるランダム性の高いものでありまして……たとえば敵を倒して手に入れたり、バザーで購入したり、宝箱から発見されたり、つまり無駄骨になる可能性もゴニョゴニョ」

 ミューゼア嬢が小声の早口でなにか言ってるけど、気にしない。
 うーん楽しみだ。彼女が来てこちら、俺もライゼルも忙しなく変化を続けている。きっとまた、なにか嬉しい変化があるに違いない。

 ついついワクワクが内から湧き出て、苦笑してしまう。

「ミューゼア嬢は、いつもライゼルに刺激をくださいますね」
「刺激という意味では毎回ギリアムさまの方が!」
「そうかな」
「そうですよ!」

 だとしても、俺の刺激とやらのキッカケはミューゼア嬢だと思うんだけどなぁ。
 俺が腕を組んで考え込んでいると、食後のお茶を給仕しながらセバスがミューゼア嬢に微笑み掛ける。

「ミューゼアさま。ギリアムさまはこう仰りたいのです、『このライゼルが良い方向に向かっているのは、全てミューゼアさまのお陰です』と」
「セバスの言う通りです。始まりは、いつも貴女なんですよね」

 そも俺がライゼル領の為を思うようになったのだって、彼女のお陰。

「そんな大層なものじゃないです! 私は破滅フラグから逃れるために必死だっただけで。今だってセルベール家からもたらされる破滅フラグを回避する為に、ライゼル領の発展を望んでいるだけですし……!」

 あたふた答えるミューゼア嬢を見てると、思わずクスクス笑いが漏れてくる。
 ああこの人は不器用な人なんだなぁ、と。

「貴女が自分の利益だけ望んでるわけじゃないことくらい、さすがにもう、見ていればわかります。そんなに顔を真っ赤にしてテレなくても」
「いえ、ほんとに私なんて、大したものじゃなくて……」

 彼女は誇らない。
 だが、そんな彼女の隣に居られる俺は、誇らしい。

「守りますよ」
「え?」
「俺は貴女をどんなことからも守ります。だってほら、俺たちは運命共同体なのでしょう?」

 彼女はそう言って、ヴェガドとの戦いにもついてきた。危険なはずなのにね。
 自分の利益だけを重視する人にできることじゃないんだ。

「未来の妻を守る決意、ですか……ギリアムさま」
「い、いやセバス! これは別に妻がどうとか言う話でなく!」
「はは。失礼、わかっております。お二人を見ていると、婚約者同士という枠を超えた『相棒』なのだろうと感じてしまいます故」

 なるほど、相棒か。

「相棒……」

 ミューゼア嬢が、ぼんやりとした声で反芻する。
 どうやら彼女もこの響きが気に入ったらしい。うん、俺たちは運命共同体、相棒なのだ。思わず零れてくる笑みを抑えながら、俺は頷いた。

「いいですね、俺たちは相棒だそうですよミューゼア嬢」
「はい光栄です、ギリアムさま」
「ですので、ミューゼア嬢は安心して『予知』による『フラグ』を立ててください。俺が全て折ってみせますから」
「……わかりました。私の『ゲーム知識』に引っ掛かるものがありましたら、これからもズケズケ発言させて頂きますね!」

 うむ。ズケズケ発言して貰おう。
 それはきっとライゼルの為になり、俺たちの為にもなる。
 俺は思わず笑った。この人の隣にいるのは、面白いな、と。

 心の底から、そう思えたのだった。

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