嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん

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魔族の少女

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 コンテスト開催を決めたあと、セバスが『宝物庫に飛行魔道具がある』と腕輪を出してきてくれた。性能は最下級、残念なものらしいが、それでも宝物扱いだ。飛行魔道具の希少性を思い知らされた。

 コンテストで性能の良い飛行魔道具を持つ者を見つけても、雇ったり買い取ったりにはかなり金を使うことになりますよ、とセバスに念を押されてしまった。

 だけどまあいい。
 ミューゼア嬢が精密な地図を作る上で必要と言うならば調達したいのだ。正直、彼女が作った地図を初めてみたとき、俺は感動した。
 これまでの雑な地図とは違う、あの地図。俺はこの世界の真の姿を知れた気がして、すごい高揚感を覚えたのだ。

 是非とも、もっと広い範囲でこの土地の精密な姿を知りたい。
 軍事的な用途も当然重視しているけど、半分は俺の欲求だ。知りたい、は楽しい。

 そう言うわけでというか、どう云うわけで、というべきか。
 俺は今、魔物の森に来ていた。
 性能が悪いとはいえ、せっかくの飛行魔道具。飛べるというなら、是非とも試してみたくなる。ならないか? 楽しそうじゃん、プカプカ浮けるんだぜ?

 まあさっきから何十回と試しているのに、未だ一メートルの高さも浮かび上がることが出来てないわけだが。

 うーん、これ、めちゃくちゃ難しい。
 魔力の注入や身体のバランス取り、一つ間違えるとすぐに落ちる。というか転ぶ。飛行魔道具の使用には習熟が必要だとは聞いていたが、これほどまでとは。

 セバスが「ひとけのない森で練習してくださいギリアムさま」と言ってた理由がよく分かったよ。こんなの、ちょっと慣れてきたつもりで高くまで上がれたとして、ミスったら落ちちゃうんだろ?
 町中で練習なんかしたら、下に居る人を巻き込んで怪我させちゃう可能性大だわ。おお怖い。

 だからここは魔物の森の奥。
 故に、誰もいないはずだったんだよな。
 鋼黒竜ヴェガドが去り森に魔物はほとんど居なくなったけど、なにせ冬だしさ。これまで魔物だらけで狩りが難しかったのもあり、厳しい冬の狩りをこなせるほどの猟師もライゼルにあまり居ないわけで。

 なので、バランスを崩す度に転んでいたところで視線を感じたのはビックリした。木の陰から、誰かがこちらを見ている。魔族の少女だ。

 俺と目が合うと、その少女は木の陰に隠れた。俺はしょんぼりした顔を作り。

「なんだよ隠れることないじゃないか、なんか傷つくぞ」

 声を掛けてみる。
 が、反応がない。魔族少女は隠れたままだ。

「おーい、それマジで傷ついちゃうから。お願いだから顔出してくれよ」
「……族」
「ん?」
「ボク……魔族、だけど」

 そんなの見りゃわかる。俺はなに言ってるんだと肩を竦めた。

「ツノが生えてるからな。確かに魔族だ」
「イヤじゃ……ないの?」
「なんで?」

 俺が疑問を口にすると、おずおずとその魔族少女は木の陰から姿を現した。
 歳の頃、15、6……かな? 小さなツノを赤髪ショートの頭に生やし、マントを羽織った旅装束を纏っていた。
 彼女はジトっとした半目で、無表情に俺を眺めると。

「なに……やってたの?」

 えっと、なんて答えよう。飛行魔道具の練習、と言って通じるものなのかな。などと答えあぐねていたら。

「転ぶのが好き……なの? マゾヒスト?」

 なんと失礼な、確かに転んでばかりの練習だったけど。「えっとね」俺は表情をあまり変えず、口の端だけで笑ってみせて応えた。

「受け身の練習をしてるんだ」
「受け……身?」
「そう。低いところから落ちて転んでも、いつだって怪我をせずに居られるようにね。受け身は大事なんだぞ?」

 彼女は眠そうなジト目を俺から放さず。

「ふーん。ボクはてっきり、飛行魔道具を使う練習でもしてるのかと……思ったです」
「わかってるんじゃん! なら変な風に聞くなよ!」

 思わずツッコみながらも、俺は別の意味でまた驚いた。
 へえ、この子、それがわかるんだ。飛行魔道具なんて、そんなメジャーなモノじゃないだろうに。

 なんでわかったのか聞こうと思っていると、彼女が言う。

「身体に無駄な力が……入りすぎ。それじゃ、すぐバランス崩す」
「なに? 結構抜いてたつもりだけどな」
「もっと自然にしてくの。こんな……感じ」

 突然少女の身体が、ふわり、と浮き上がった。

「うおっ!?」

 とりあえず二メートルくらい。俺のことを見下ろしながら、だらん、と手足を伸ばしている。

「おまえは浮かぶときすぐ全身に力が入っちゃってる。それだと……落ちる」
「すごっ! めっちゃ浮かぶじゃん! もしかして飛行魔道具の達人か!?」

 俺は思わず拍手してしまった。
 まだ若い子供なのに、年季を感じる。

「こんなの……基本」
「いやいや。その基本っつーのが出来なくて俺はバランス崩しまくってたわけだから。言うほど簡単じゃないのはわかるよ!」

 拍手拍手。大拍手。
 なるほど。飛行魔道具を持ってる子だったのか。
 ライゼルでコンテストをやるって方々の町に告知したからな。どうやら参加者といったところらしい。

「それほどでも……ない」

 淡泊そうな声だけど、なんだか喜んでそうなのが分かる。
 その証拠に彼女は、そのまま空中でクルクル回ってみたり、小さく宙返りなんかもしてくれたのだ。

「なあ、よかったら俺にコツを教えてくれないか?」
「え?」
「頼むよ、俺も気持ち良く宙を舞ってみたいんだ。礼ならするからさ」
「いいですよ……です。少しだけ……なら」
「やった。じゃあ礼の一部先払い。ちょうどお昼どきだ、一緒に飯でもどうだ? 弁当たくさん持ってきたんだ」

 俺がそう言うと、彼女の腹がグゥと鳴る。
 目を合わせたままで居たら、ほんのり顔を赤らめた気がする。あまり感情を表に出さないタイプみたいだけど、良く見てるとちゃんとわかるなこれ。

「ボク、魔族だけど……いいの?」
「だからなに言ってんだ。当たり前だろ」

 今日の弁当はサンドウィッチ。
 鶏肉やハーブ、野菜を挟んで、そこに塩を加えてベリーを煮詰めた甘じょっぱいジャムを塗り、パパラ米で作った白パンにて挟む。卵サンドと一緒に、サンドウィッチボックスの中にたくさん入ってる。

「……これ美味しい、です」
「パンのモチモチ食感が良いだろ? ライゼルの名産なんだ」
「ジャムも、食べ慣れない味。だけど、凄く美味しい」
「食べ慣れない味? 魔族領でよく採れるパヤパヤの実だけど、あれ、おまえ魔族領から来たんじゃないのか?」

 訊ねると、黙ってしまった。聞かれたくなかったことなのかな?
 俺は話題を変える。

「これ、俺の婚約者が作って持たせてくれたんだよ。練習したらお腹が減るだろうから、ってこんなにたくさん」
「確かにたくさん……。一人で食べきるの、大変そうな数。愛が、重そう」
「いやそんなことはないけど」

 俺は苦笑すると、彼女は「でも」と続けた。ことさら無表情なジト目を何故か俺から逸らして。

「……愛されてる、です」
「お、おう?」
「なんですかその困り顔は?」
「いや、改めて他人から言われると、なんだかテレるもんだなって」

 それになんか、いま俺は凄く羨ましがられたように感じてしまったのだ。しかもそれが彼女にとって、とても切実な気持ちに思えてしまい、一瞬なんと反応すればわからなかった。困った俺は、少し話題を逸らすことに決定する。

「まあでもとにかく、この量は俺が腹を空かせるだろうから、って彼女がね」
「その人、おまえのお腹をマジックボックスか何かと勘違いしているです……か?」
「そうかも」

 マジックボックスとは、大量にモノを収納できる魔法の箱のことだ。
 彼女はどうやらクスリと笑ったようだ。ジト目をほんのり柔らかくさせて。

「じゃあ今日は、ボクがおまえのマジックボックスになって……あげます」
「ああ頼んだ。たくさん食べてくれ」
「まかせるです。お腹空いてたから、ドンと来る……ですよ」

 和やかに食事をしたあとは、飛行魔道具に慣れる為の訓練が始まった。
 けっこう厳しい。なにが、って、彼女の言葉には容赦がない。

『とにかく反復です。あ、力を入れるなといったです……よね?』

 ピシャリと尻を叩かれた。

『飛び上がった後に気が抜けてバランス崩す癖、それは性格由来の雑魚性質ですか?』

 ジト目で眺められつつ肩を竦められた。

『考えられないのなら墜落を繰り返して、身体に覚えて貰う……しかないです』

 落ちて転がって俺を仁王立ちで見下ろしながら、そう言い切る。
 ミューゼア嬢から聞いた覚えがある。こういう厳しい教え方を「スパルタ式」というのだ。遠いどこかの国の、厳しい教育方法を指した言葉だそうな。うおおお頑張るぞ、絶対コツを飲み込んでやる。

 ……最初はまったくダメで、頑張っても頑張っても進展がなかった。
 ちょっと浮かぶ、バランスを崩す、地面に落ちる。その繰り返し。やっぱり青アザが増えていく。

 一向に要領を得ない俺に、でも彼女は呆れるでもなくジト目で見つめながら付き合ってくれた。
 何十回墜落したかわからない。それでも繰り返し、俺の姿勢をチェックし続けてくれたのだった。――結果。
 唐突にコツが飲み込めたのは、夕方も近づいてきた頃だ。

「おっ、おっ、おっ!? 先生、飛べてます。俺、飛べてます!」

 滞空時間、実に一分とちょっと。
 二メートルの高さまで浮かび、それを維持できた。

「その調子。悪くない……ですね」

 それを皮切りに、一気に安定してきた。
 最高三メートルまで浮かび上がることが出来て、時間も三分くらい維持できた。

「よし、もっともっと高く飛びたいぞ!」

 俺が高揚した声でそういうと、彼女はちょっと困ったような顔をした。

「それは無理」
「え?」
「今まで見てたけど、その飛行魔道具の性能じゃ、それくらいが限界そう」
「そんなぁ……!」

 確かにセバスも「性能は最下級」って言ってたけど!
 うーん残念だ。この程度じゃ、俺が体技でジャンプした方がよっぽど高く飛べる。

「せめて森を上から眺められるくらいの高さまで飛んでみたかった」
「無理。諦めるです」

 はぁぁ、まあ仕方ないか。
 ここでガッカリした顔のままってのは、時間を使ってコツを教えてくれた彼女にも失礼すぎる。俺は前向きに考えることにした。

「でもまあこの性能でも、ちょっとした谷を越えたり、崖から安全に降りることもできるか。使える使える、考えてみたら割と便利」
「強がってるですね」
「うああ、バレバレだー!」

 俺が頭を抱えてしゃがみ込むと、見下ろしてる彼女がクスリと笑う声が聞こえた。

「わかったです。特別ですよ?」

 そう言って、俺の後ろに回り込んで背中側から腰に手を回された。
 えっ、なに? と、疑問に思う間もなく。

「うわわわわっ!?」

 俺の身体は彼女に抱えられたまま上昇して、森の木々を見下ろせる高さを超えた。

「おおお?」
「まだまだ……いくです」
「うおおおお!?」

 凄い。そこは雲まで届かんという高さ、空の中だった。
 風は感じない。
 彼女の飛行魔法具はよほど高性能なのだろう、防護の魔法も掛かっているようだ。
 足元に枯れ木の森が広がっている。横を見れば小さくライゼルの町が見えた。あっちは街道へと続く道か、馬車を引いている商人の姿がちらほらと見える。豆粒みたいだ。

「どう? 満足です?」
「ああ、気持ちいい。凄いなおまえ、コンテスト優勝間違いなしだ」
「コンテスト?」
「飛行魔道具コンテストだよ、ライゼルの。それに出るために来たんだろ?」
「違う……です、けど」
「え、じゃあなにしにライゼルに?」
「…………」

 彼女は俺の問いに応えず、降りだした。あれれ? なんか俺、気分を害するようなこと言っちゃったのかな。

「えっと、おい、その……」
「気にするなです。おまえには関係ない仕事で来ただけですよ」
「そ、そうなのか」

 ちょっと微妙な空気に耐えられず、俺は笑ってみせた。

「まあ、その仕事とやらの合間でもいいからさ、コンテストに出てみろよ。きっとおまえなら優勝だぞ?」
「考えて……おくです」

 しばしの空中遊覧を終え、無事着地。
 仕事の話をしてから、ちょっと彼女の雰囲気が変わった。なんというか、余人を近寄らせようとしない空気を纏っている。さっきまでの、表情こそ乏しいものの、裏に豊かな感情を秘めてそうだった少女とは思えない。

「飛べるようになれて良かったですね。じゃ、ボクはここで」
「あ。すっかり気にしてなかったけど、俺たちまだ名乗り合ってもいなかったな」
「名前なんて……。通りすがり同士、で良いじゃないですか」
「そう言うなよ。俺はギリアム、おまえは?」

 名乗って、ギョッとした。
 眠そうだった彼女のジト目が大きく見開かれて、俺を凝視していた。

「ギリ……アム? もしかして、ギリアム・グイン? ライゼル領主の?」
「え、あ? そうだよ、俺がライゼルの領主だけど……」
「そう、おまえが……ですか」

 睨まれている。わけもわからぬ敵意を込められた目で、いま俺は睨まれていた。
 だけど怯まずに、俺は聞いていく。

「で、おまえの名前は?」
「……ルナ」
「そっか。ルナ、今日はありがとうな。お陰で少しだけど、飛行魔道具の扱い方がわかってきた気がするよ。教えて貰えて嬉しかった」
「ギリアム・グインと知っていたなら、教えなかった……です」

 やっぱり敵意を込められた声でそう言うと、ルナはこの場から去っていった。
 あの方角……ライゼルに向かってるのは間違いなさそうだ。

「気になる子だったな。……ルナ、か」

 俺は頭を掻きながら、もう少し練習を続けることにした。
 どうやら俺はなんらかの理由でルナから拒絶されたわけで、ライゼルに帰る道で彼女と再会してしまったら嫌がられそうだしな。

 だけど、また出会うことになる予感はあった。
 それが良い再会になるのか、悪い再会になるのか。このときの俺にはまだ、知りようもなかったのだった。
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