嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん

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乱入者

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「なぜ……その名を知っているのかと……ボクは聞いています」
「そっか。いきなりのことでビックリしちゃったけど、この世界での『UR級飛行魔道具発見イベント』は暗殺者てきを倒した際のドロップとして……」

 ブツブツと独りごちるミューゼアを、ルナは表情の乏しいジト目で見つめた。

「なに、わけわからないこと言ってるです」

 なぜこの首輪、飛行魔道具『イカロス』の名を知っているのか。
 ルナの心中は穏やかでない。

 知る者などいないはずなのに。
 自分は誰にもこの名を教えたことがない。何故ならこの魔道具を発動させるには、魔力を込めながら心の中で『イカロス』と唱える必要がある。

 誰にも言うな、と念を押された。
 名も、使い方も。
 それが貴女の命を守ってくれるから、と。この首輪を彼女に嵌めたその人は、別れ際にそう言った。この首輪をつけて奴隷になる代わりに、生きるチャンスを得られるはずだ、と。

 だから『イカロス』の名は、ボクを奴隷として買い上げたセルベール家の家臣ですら知らない。それなのに、なぜ。

 ルナは動けなくなった。

「……もしかして、あの人のことを知ってるですか?」
「あの人? 誰?」

 キョトンとしたミューゼアを見て、彼女に心当たりがなさそうなことをルナは悟った。そうだ知ってるわけがない。ターゲットは大貴族、セルベール公爵家の娘だ。そんな者が魔族の一奴隷などと係わりあるわけない。

「むあー! 無視するでない!」

 ガリアードレが壇上で地団駄を踏んだ。
 イカロスの力で宙に居るルナに向かって指さして。

「降りてこいなのじゃ! なぜいきなりミューゼアを狙ったのじゃ、意味わからぬ!」
「……降りない。だってほら、コンテストだし。優勝賞品は……ミューゼア・セルベールの命にして貰う……です」

 ヒュン。
 ルナが素早く空中を移動した。位置は、ミューゼアの真上だ。
 頭上90度から、直下に魔法の光弾を撃ち落とす。

「なんとも小賢しい真似じゃの!」

 咄嗟にミューゼアの身体を担ぎ上げ、ガリアードレは逃げた。
 この角度から魔法を撃ち込まれると、ミューゼアを庇いにくいのだ。『こやつ、空中から攻撃するのに慣れておるわい』と内心でガリアードレが舌打ちする。

「皆さん避難してください、危険です!」

 抱えられながらミューゼアが声を上げる。壇上の床で魔法が爆発したのを見て、観客が逃げて距離を取った。だが、この場から完全に散ったりはしない。壇上を中心に広間に大きな無人空間が出来て、そこで三人がやりあっている形となった。

「なんなんだアイツ、俺たちのミューゼアさまを!」
「やっちゃえガリアードレー! 俺たちが付いてるぞー!」

 コンテストの観客が、そのまま戦いの観客になった。
 ライゼルの領民は突発的な騒ぎに慣れている。町にはよく魔物が襲ってきていたし、最近だと突然ガリアードレが腕試しと称して冒険者に活を入れたりもしていたからだ。

 もちろん、ライゼルの人間だけでなく魔族領の魔族たちもそれは同じで、どちらも口笛をピューピュー鳴らしたり、両手を上げての喝采で三人の戦いを見守っている。

 その目は、ミューゼアが今ここで害されるなどと、微塵も考えていないものだ。
 イベントとして楽しむ余裕があるくらいに、ガリアードレのことを、そしてもしかしたら、この場に今はいない誰かのことを信頼している観客たちだった。

 ルナは何回目かの魔法弾をミューゼアたちの頭上から撃ち降ろした。
 ガリアードレが機敏に避ける。爆発の範囲も予想して、担いだミューゼアに害が及ばぬように余裕を持って避けている。

「何発撃とうと無駄じゃぞ! その程度の魔法弾なら、わしは全て避けてみせる。話せ、なぜミューゼアを狙う? 同じ魔族の話じゃ、わしには聞く義務がある!」
「は? なにを言ってる……です? 義務?」
「そうじゃ義務じゃ、なぜならわしは魔族の王だからの」
「魔族の……王?」

 ――この子が? この幼女の姿をした魔族が?
 いや、確かにこの幼女は、見た目通りの年齢ではあるまい。一目でわかった、強さも群を抜いている、と。辺境であるライゼル領の先に、魔族が生息している領地があるというのも調べていて知ってはいた。
 そうか、彼女がその領地を統べる王。

「このミューゼアは、魔族にとっても大事な娘じゃ。それになによりもわしの大事な友、彼女を狙ったお主は許せぬ。だがわしも、中央での魔族の扱いは耳にしておる。彼女を害するのは誠にお主の意思であるのか?」
「…………」
「無言か。もしもなにか、仕方ない理由があるのならば、わしが――わしらがそれを解決してみせようぞ」

 魔族王の言葉に、観衆の魔族たちがざわつく。

「そうだ……ガリアードレさまは、ライゼルと組むことで魔族領の貧民街の改革もしてくださった」
「俺たちも、困っている同胞には力を貸さねばなるまい」
「中央の同胞全てをどうこう、というわけでなく、目の前の同胞を一人づつ」

 おおおおお、と魔族を中心に雄たけびが上がった。
 ライゼルの領民たちもまた、魔族たちの言葉に頷いた。
 ガリアードレの言葉は、ギリアムがときおり口にすることと同じだ。

『目の前にいる奴の幸せを考えていく。その結果仲間が増えていき、幸せは広がっていく』

 ライゼルはこれまでそうやってきたのだ。
 領主ギリアムの下で。
 だから、ガリアードレの言葉に皆歓声を上げて同意した。

 ――のだが。

「……うるさいですね」

 ルナは不快に思った。
 眼下に居る二人が、ここまで領民たちの信頼を得ていることに。
 モヤモヤとした気持ちが広がっていく。そのモヤモヤを言語化すると、『どこまで平和なのだ、この町は』という反発に近い気持ちになるのだけれども、彼女はそこまで気づけない。

 よしんば気づいたとしたら、こんなことを言うかもしれない。

『こんなたくさんの魔族が人と一緒に平和に暮らしているなんて、ズルい』

 ――と。自分たちは中央で苦労しているのに。
 奴隷に身をやつして、今日を生き抜いてきたのに。ああ妬ましいです。――と。

 ここに居る領民たちを、とりわけ魔族たちを黙らせてやりたい、と彼女は思った。
 泡を吹かせてやりたくなったのだ。平和に観客などしている、こいつらに。

 だが、ガリアードレと正面からやりあって勝てる気がしなかった。
 ならば。

「ここはいったん退き……ます」

 闇に紛れ人ごみに紛れ、暗殺の機会を伺い直すしかない。
 ルナは飛ぶ高度を上げて、この場から逃げることにした。

「あ、こりゃ! 待つのじゃ!」

 慌てたガリアードレがミューゼアを下ろし、その身体能力で大きくジャンプした。
 ――が、届かない。高空すぎて、ルナの身には到底届かない。

「くっ、あの高さまで行かれると、わしでもどうにもならぬ!」
「ガリアードレさま、あの『イカロス』は魔力消費が激しいはずです、追い掛け続ければあるいは!」
「ミューゼアの助言を信じよう。追い掛ける!」

 そう言って地上を走り出すガリアードレ。が、イカロスでの空中移動は速かった。

「おいおい、嘘じゃろう?」

 追いつけそうもない。ガリアードレが舌打ちをした、そのとき。

「エントリーナンバー99、俺だ!」
「ギリアムさま!?」
「やあミューゼア嬢。せっかく貴女が開いたイベントです、やっぱりトリは俺が締めなきゃと思いまして!」

 控え席から飛び出したギリアムが、宙を舞う。
 コンテストの参加者から飛行魔道具を借り受けて、空に向かって飛び上がった。

 一個づつの飛行魔道具の飛行可能時間は短い。だがそれを複数個、とっかえひっかえ使えば。

「うおお、安定しないな!?」

 言いつつも、高く高くギリアムが舞い上がっていく。だが、それでもまだイカロスの高度には届かない。

 逃げようとしていたルナの動きが止まった。驚きの表情で、宙を飛んでくるギリアムの姿を見て。

「……まさか、複数の飛行魔道具を使いまわして……高度を得るなんて」

 その見開かれたジト目を、飛んでくるギリアムの姿から外せなかった。
 今まで、こんな方法で自分に追いついてこようとした人間など居ない。こんなことなら昨日、この男に飛行魔道具の使い方なんか教えるんじゃなかった。

「ルナ!」

 とギリアムが声を掛けた。

「話は聞かせてもらったぞ、逃げずに話をしていけよ。悪いようにはしないから」
「悪いようにしない……どうするつもりです?」
「我がライゼル領は、ただいま長時間高いところを跳べる飛行魔道具の使い手を大大大募集中だ! これは国の重大事業に使うから、ルナの犯罪行為を特赦した上に、おまえの居場所だって作ってやれる」
「取引をしろ、と?」
「悪い話でもないだろ?」

 ひょうけた顔で肩を竦めるギリアムだ。ルナはジト目をさらに細めて、「はっ」と呆れた笑いを浮かべる。

「……もしボクが、ボク自身の意思でミューゼア・セルベールを殺したいと思ってたなら、どうするつもり……なんです? その場合、取引が美味しくても乗っていかないよね」
「でも別に、おまえの意思で彼女の命を狙っているわけじゃないんだろ?」

 ――ああなんだ、こいつも。
 予想外の行動にびっくりはさせられたけど、やっぱりこいつも、ここの他の奴らと同じ。
 ルナは無表情に肩を竦めてみせた。

 こいつらは、なぜボクがなにかの事情でターゲットを狙っているだけだと思い込んでいるのだろうか。中央で虐げられている魔族だから、奴隷だから、なにかに命令されているだけと決めつけているのかな? 確かにそれは正解なのだけれども、事情も知らずにそう思い込まれるのは、不快だ。

「その条件は……飲めない。ボクにとっての『悪いようにしない』はミューゼア・セルベールを殺したいという願いを叶えてもらえること、です。それは、無理なんだよね?」
「そうだな、それはできない。俺が困ってしまう」
「じゃあ、嘘つきだ。ボクの『悪いように』はしないでくれない」
「確かに」
「納得しちゃう……んだ」
「まーね」

 はは。とルナはちょっとだけ笑った。納得されてしまうのは予想外だった。

「じゃあ、話しをする意味ない……よね。このままボクはいったん去るよ。また機会を見つけて、ミューゼア・セルベールを殺させて……もらう」
「それじゃ困る」
「は?」
「凄く困る」

 そりゃあ、ミューゼア・セルベールの身を警護し続けないといけなくなるんだから、困るだろうけど。暗殺者当人であるボクの前で、そんな真剣に困られても。

「困るんだ。俺は視界に入った限りできるだけ多くの奴に幸せになって欲しいから」
「え……そっち? この後に及んで、まだ夢みたいなこと言うの? 馬鹿なの? 人の話を聞いてなかったり……する?」
「だっておまえも嘘つきだろう? ミューゼア嬢を望んで殺したいとなんて思ってもいないくせに」
「決めつけないで欲しい。なにもボクのことを知らないくせに」
「知ってる。昨日、一緒にサンドウィッチを食べた仲だしな」
「バカバカ……しいです。それくらい、で」
「それくらいだろうがなんだろうが、わかっちまうんだよ。そもそもさ」

 ギリアムは、それこそ『なにを言ってるんだコイツは』という表情で、ルナのことを『決めつける』。

「おまえ、好き好んで人を殺すような顔してないよ。なあガリアードレ?」
「その通りじゃな」

 大きくジャンプしたガリアードレが、ギリアムの真下に居た。

「――なっ!?」

 話に夢中で気づかなかった。
 いつの間に? という思いと、なにするつもり? という思いがルナの胸の中でとぐろを巻く。

「行け、ギリアム!」
大地を揺るがす一撃レビ・デアドス!」

 腰から剣を抜いて、ギリアムはガリアードレが突き出した巨大な右鉄拳をぶっ叩いた。反動でギリアムの身体が、凄まじい勢いでルナに向かって飛んでいく。

「あ」

 とルナがジト目を見開いたときにはもう遅い。
 高速のタックルが彼女の意識を奪ったのだった。

 地上では、ギリアムたちを追い掛けてきていた観衆が喝采を上げた。

「さすがギリアムさま、まさかあんな方法で捕まえてしまうなんて!」

 と。

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