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三話
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立てた膝に顔を埋めたまま、衣知が言った。
「お風呂入らせて……」
今にも泣きそうな声に、朝陽は本を捲っていた手を止めた。
あぁ、すっかり忘れていた。
思い出したように立ち上がると同時に、その動機について思考を巡らせる。
「まさか、その気になってくれたとか?」
「……は? なにが……」
「口に出すのが恥ずかしいのか、まぁいい。風呂に行こうか」
鎖を持って衣知を引っ張り、脱衣場へ誘導する。
「……分かるからもうついてこなくていいって」
衣知は恥ずかしそうに言ったが、当然、その要求を快諾するわけがなかった。
何故なら世の中に汚された彼が、逃げ出す可能性があるからだ。その結果、また常識や思考を捻じ曲げられてしまったら元も子もない。
衣知が唯一無二の恋人であるために、そうあり続けるために、この束縛は必要不可欠だ。
「俺の前で全部脱いでから入って」
「え!? やだよ……!」
「今更恥ずかしがるなよ」
じっと見つめると、衣知はやや不服そうにシャツを脱ぎ始める。
もしかしたら、冷たい廊下で待つこととなる俺への配慮だったのかもしれない。
朝陽は自身の解釈に、何度か頷いた。
「……やっぱり、あの……そんな見られてると……無理……」
ふと聞こえてきた声に、傾聴する。
目の前では衣知が、ジーンズに手を掛けてぼそぼそと言葉を落としている。
「あとこれも……外してほしいんだけど……」
「首輪?」
「……うん」
「大丈夫だよ、それ水なんかじゃ簡単に外れないから」
「え?」
なかなか寝付けない衣知のために睡眠薬を施した夜、すやすやと眠る彼に跨り、業務用の強力接着剤で首輪のバックル部分を固定した。
それを伝えるのを、すっかり忘れていた。
だがその必要はないようだ。慌てて首輪に触れた衣知が、表情の色を変えた。
暫く黙り込んだあと、もう一度首輪を外そうと試みる。
「衣知、そんなに俺があげた首輪が濡れるのが嫌なの?」
「ち、ちがう!」
もどかしそうに、歯を食い縛る衣知。思ったように愛を伝えられないのは、たしかに口惜しいだろう。
衣知が俺をどんなに愛しているかは、俺が一番よく知っている。
このあと、それを証明してみせよう。
照れ屋な衣知を慮り、そっと身体を翻した。
「お風呂入らせて……」
今にも泣きそうな声に、朝陽は本を捲っていた手を止めた。
あぁ、すっかり忘れていた。
思い出したように立ち上がると同時に、その動機について思考を巡らせる。
「まさか、その気になってくれたとか?」
「……は? なにが……」
「口に出すのが恥ずかしいのか、まぁいい。風呂に行こうか」
鎖を持って衣知を引っ張り、脱衣場へ誘導する。
「……分かるからもうついてこなくていいって」
衣知は恥ずかしそうに言ったが、当然、その要求を快諾するわけがなかった。
何故なら世の中に汚された彼が、逃げ出す可能性があるからだ。その結果、また常識や思考を捻じ曲げられてしまったら元も子もない。
衣知が唯一無二の恋人であるために、そうあり続けるために、この束縛は必要不可欠だ。
「俺の前で全部脱いでから入って」
「え!? やだよ……!」
「今更恥ずかしがるなよ」
じっと見つめると、衣知はやや不服そうにシャツを脱ぎ始める。
もしかしたら、冷たい廊下で待つこととなる俺への配慮だったのかもしれない。
朝陽は自身の解釈に、何度か頷いた。
「……やっぱり、あの……そんな見られてると……無理……」
ふと聞こえてきた声に、傾聴する。
目の前では衣知が、ジーンズに手を掛けてぼそぼそと言葉を落としている。
「あとこれも……外してほしいんだけど……」
「首輪?」
「……うん」
「大丈夫だよ、それ水なんかじゃ簡単に外れないから」
「え?」
なかなか寝付けない衣知のために睡眠薬を施した夜、すやすやと眠る彼に跨り、業務用の強力接着剤で首輪のバックル部分を固定した。
それを伝えるのを、すっかり忘れていた。
だがその必要はないようだ。慌てて首輪に触れた衣知が、表情の色を変えた。
暫く黙り込んだあと、もう一度首輪を外そうと試みる。
「衣知、そんなに俺があげた首輪が濡れるのが嫌なの?」
「ち、ちがう!」
もどかしそうに、歯を食い縛る衣知。思ったように愛を伝えられないのは、たしかに口惜しいだろう。
衣知が俺をどんなに愛しているかは、俺が一番よく知っている。
このあと、それを証明してみせよう。
照れ屋な衣知を慮り、そっと身体を翻した。
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