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四話
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「衣知、いい加減出てこいよ」
衣知が口を聞かなくなってから4日が経つ。そろそろ愛し合った余韻も消える頃なのに、彼は何故、顔も見せてくれないのだろうか。
枕元に置いてある炭酸飲料は減っているが、食事も疎かになっている。
朝陽は衣知の眠るベッドに凭れ掛かり、天井を見つめた。
呆然と時間を遡ってみれば、彼との日常が蘇る。ただそれだけで、これといった原因は見つからない。
「あ、もしかして……」
そっと布団を捲る。
衣知はさらに顔を隠すように蹲った。
「……この間のことで怒ってるんだよな? 痛かったのならそれは謝る。悪かったな」
愛しさのあまり自分だけが先走ってしまった事を謝罪するが、相変わらず黙り込んだままだ。
捻くれるのもきっと甘えの一種だろう。感情を前面に押し出している言動こそが、愛の表明だと言っているようなものなのだ。
「衣知、外の空気でも吸いに行かないか」
返事がない。
大人しそうに見えて、強情で。そんなギャップもまた、彼を愛する理由のひとつになる。
朝陽は衣知の腕を引っ張って半ば無理矢理に起き上がらせた。
虚ろとした双眸が、静かに見つめてくる。
「何か買ってやる」
首輪を隠すために大き目のフリースを着せ、力ないその手を引いて廊下を歩いた。
引き摺られるように外に踏み出した衣知が、太陽の眩しさに目を細めた。
目的地が見えてきた。ここまで来るのに約一時間ほど車を走らせていたが、その間衣知は首輪を気にしているだけで、声をかけても一言も喋らなかった。
「着いたよ、衣知」
助手席のドアを開け、降車を促す。手を引くと、ゆっくりと降りてきた。
「……離せ……」
「じゃあ逃げないって約束して?」
繊細な衣知を気配り、穏やかに笑う。
もちろん、絶対に逃がすつもりはないのだが。
万が一その素振りを見せたら、すぐに捕まえて車の中でもう一度愛を注ぎ込んでやろうと思う。
人目につかない場所で、身体にも、心にもたっぷりと。
シャイな彼の面差をじっと見つめていると、衣知は目を逸らしつつも頷いた。
衣知が口を聞かなくなってから4日が経つ。そろそろ愛し合った余韻も消える頃なのに、彼は何故、顔も見せてくれないのだろうか。
枕元に置いてある炭酸飲料は減っているが、食事も疎かになっている。
朝陽は衣知の眠るベッドに凭れ掛かり、天井を見つめた。
呆然と時間を遡ってみれば、彼との日常が蘇る。ただそれだけで、これといった原因は見つからない。
「あ、もしかして……」
そっと布団を捲る。
衣知はさらに顔を隠すように蹲った。
「……この間のことで怒ってるんだよな? 痛かったのならそれは謝る。悪かったな」
愛しさのあまり自分だけが先走ってしまった事を謝罪するが、相変わらず黙り込んだままだ。
捻くれるのもきっと甘えの一種だろう。感情を前面に押し出している言動こそが、愛の表明だと言っているようなものなのだ。
「衣知、外の空気でも吸いに行かないか」
返事がない。
大人しそうに見えて、強情で。そんなギャップもまた、彼を愛する理由のひとつになる。
朝陽は衣知の腕を引っ張って半ば無理矢理に起き上がらせた。
虚ろとした双眸が、静かに見つめてくる。
「何か買ってやる」
首輪を隠すために大き目のフリースを着せ、力ないその手を引いて廊下を歩いた。
引き摺られるように外に踏み出した衣知が、太陽の眩しさに目を細めた。
目的地が見えてきた。ここまで来るのに約一時間ほど車を走らせていたが、その間衣知は首輪を気にしているだけで、声をかけても一言も喋らなかった。
「着いたよ、衣知」
助手席のドアを開け、降車を促す。手を引くと、ゆっくりと降りてきた。
「……離せ……」
「じゃあ逃げないって約束して?」
繊細な衣知を気配り、穏やかに笑う。
もちろん、絶対に逃がすつもりはないのだが。
万が一その素振りを見せたら、すぐに捕まえて車の中でもう一度愛を注ぎ込んでやろうと思う。
人目につかない場所で、身体にも、心にもたっぷりと。
シャイな彼の面差をじっと見つめていると、衣知は目を逸らしつつも頷いた。
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