彼は誰

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四話

4-2

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「そんな暗い顔してクレープ食べるやつ初めて見た」

 向かい側に座って、まるで失恋でもしたかのような顔でクレープを食べる衣知が可笑しくなって、朝陽は堪らず笑った。
 空腹が限界に達していたのか手が止まる様子は見られないが、ひとくちが乙女のように小さく、大分時間が掛かっている。

「服でも買ってあげようか。俺のだとちょっと大きいだろ、好きなの選ぶといいよ」

 人に金を費やすのは嫌いじゃない。むしろ、好きなほうだ。愛を伝えられる方法が100あるとしたら、全て実行してみたくなる。
 ――――きっと衣知も喜んでくれる。

「……いい」
「え? そんな遠慮しなくても……」
「……いらない……お前なんかに買ってほしくない」

 胸がざわついた。
 自分でも形容し難い、不可解な感情だった。
 照れ隠しと言うには少し無理がある彼の声色が、脳内で何度も反響している。



 何時もの部屋に、ゴン、と鈍い音が響いた。
 足元で蹲る衣知が、苦しそうに低い声で唸っている。

 衣知が拒絶したことに立腹しているわけではない。彼をそうさせたこの世界が、憎らしかった。
 世界に染められてしまった衣知を理想の恋人へと仕上げるには、愛の鞭も厭わない。

 理解させなければいけない。
 自分が誰のものなのか。
 恋人とはどういった存在なのか。

 倒れ込んでいる衣知の腰に跨り、首を優しく包み込むようにし、一気に力を入れた。

「今日の夜ご飯なにがいい?」

 返答はない。代わりと言うように、彼が苦悶し手足をばたつかせている。
 そうだ。今日は衣知の好きなえびグラタンにしよう。
 首輪の金具部分が、少しだけ熱を帯びていた。
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