君の傷はさめざめと

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3話

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 翌朝、珍しく8時に起きてきた君がぎこちない挨拶をした。
 そうするつもりはなかったのに、僕の返事も素っ気無くなってしまった。
 異様な空気が漂う中、黙って双方が席に着く。

「……朝起きてくるなんて珍しいね。眠れなかった?」
「なんだか、すごく寂しくなって……」

 君は目を逸らしながら、そう言った。
 心がざわついている。『僕がいるでしょ?』と言い掛けた口を噤んで、僕は昨夜よりも遥かに柔和な声で、君の名前を呼んだ。

「あのさ、僕たちの関係って何なんだろうね?」

 カーテンがさらりと揺らいだ。朝の静けさで、一層静寂が深まる。
 返答が何であろうと、関係を終わらせるつもりだった。

 君の事を愛しているけど、君の為には生きられない。それを悟ってしまったから。

 君は唇を噛んで、いつもみたいに左手首を握っている。
 一緒にいる事なのか、離れる事なのか、君がどちらを拒絶したいのかを、僕はもう理解しようとも思わなかった。

 結局答えを聞かないまま、僕は気まずさだけを残して仕事に赴いた。

 

 君の好きな曲を聴きながら、帰路につく。

 帰宅を躊躇する心が、次第に歩幅を狭めてゆく。寄り道をして、コーヒーを買って、敢えて立ち止まりゆっくりと味わってみる。
 久しぶりに星空を眺め、ふと、君が隣にいる事を想像する。

 何食わぬ顔で、ただいまと言ってみようか。
 一緒に暮らし始めた頃のように、隙を突いて甘いキスでも仕掛けてみようか。

 気が付けば、僕はそんなことを考えていた。

 君のために生きられなくても、君の全てを理解できなくても、やはり僕は君が大好きなのだ。
 帰ろう。そして、謝ろう。
 関係を終わらせるのは、きっとそのあとでも遅くはないはずだ。
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