蒼い春も、その先も、

Rg

文字の大きさ
38 / 88
紅梅みたいに色付いて

9-1

しおりを挟む
 先程来訪したばかりの葉月が、早々と調理に取り掛かる。今日は一段と体が重かったが、穂希も立ち上がり彼女の横に並んだ。

「……この間はごめんね、気を遣わせて」

 俯いたまま、葉月が言う。呟きにも似た口調は、怒声よりもずっと深く胸を抉る。

「……いいよ。それより、何か手伝う」
「じゃあ、野菜洗ってもらっていい?」

 頷き、腕捲りする。刹那、葉月が包丁を握っている手を止めた。

「……最近また辛いの?」
「え?」
「それ……」

 葉月が見つめる先には、昨夜刻んだ切創があった。傷は少し腫れ上がった状態でかさぶたになっている。

「春休みは落ち着いてたのに、学校始まってから酷くなってる。……もしかして、学校で何かあった?」

 穂希は葉月の表情を窺おうとした。だが、身長が低い上に俯いている所為で、確かめる事が出来ない。

「何も無いよ。一年生の時より楽しい」

 これは虚言でも配慮でもなく、事実だ。しかし葉月は、どこか府に落ちない様子で黙り込むだけだった。

 会話を続けるわけでも無く、無言で野菜を洗っていると、やっと葉月が顔を上げた。 

「……私を心配させない為に嘘吐いてるなら、やめてほしい。……私だけ幸せなんて嫌だよ……!」

 葉月の抱く哀しみを、痛切に感じ取る。それがむしろ、苦しかった。

 全て自分が悪いのに実妹にまで気を遣わせているなんて、情けないにも程がある。

 息が詰まり、『大丈夫』や『ありがとう』すら声になってはくれない。
 沈黙が生み出したぎこちない空気の中に、野菜を切る単調な音だけが響いていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

ヒートより厄介な恋をα後輩に教え込まれる

雪兎
BL
大学三年のΩ・篠宮湊は、何事も理屈で考えるタイプ。 ヒート管理も完璧で、恋愛とは距離を置いてきた。 「フェロモンに振り回されるのは非合理的」 そう思っていたのに――。 新学期、同じゼミに入ってきた後輩は、やたら距離の近いα・高瀬蒼。 人懐っこくて優秀、なのに湊にだけ妙に構ってくる。 「先輩って、恋したことないでしょ」 「……必要ないからな」 「じゃあ俺が教えますよ。ヒートより面倒なやつ」 余裕のあるα後輩と、恋に不慣れなΩ先輩。 からかわれているはずなのに、気づけば湊の心は少しずつ乱されていく。 これは、理屈ではどうにもならない “ヒートより厄介な恋”を教え込まれる物語。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

恋愛速度【あっというまに始まった、おれと遊び人の先輩の恋の行方……】

毬村 緋紗子
BL
高校生になったばかりの千波矢は、2コ上の先輩、高城 慶と知り合う。 女の子にモテる慶は、これまでかなり派手に遊んできたらしい。 そんな慶から告白されて付き合いはじめた千波矢だったけれど、すぐに身体を求められて、戸惑い、思い悩んでしまう。 先輩は、本当におれのことが好きなのかな おれは、先輩に遊ばれてるだけなのかな──。 〈登場人物〉 瀧川 千波矢 タキガワ チハヤ 高1 高城 慶 タカシロ ケイ 高3 表紙イラストは、生成AIによる自作です。 エールをありがとうございます!(ω〃)

処理中です...