蒼い春も、その先も、

Rg

文字の大きさ
39 / 88
紅梅みたいに色付いて

9-2

しおりを挟む
 遣る瀬無さが無気力を招き、何もしないまま夕方になってしまった。

 痛む体をベッドに転がし、呆然と考える。
 結局、葉月の言葉は日を跨いでもなお、心に突き刺さって抜けることはなかった。
 純粋な優しさや愛情は、時に凶器となる。

 だからこそ、今は椿という存在が必要だった。全てを肯定し、捻じ曲がった愛を表明してくれる椿の存在が。

 彼の顔を脳裏に浮かべて直ぐに、考えていても会いに来るわけではないことに気が付いた。 

 孤独を噛み締めていると、だんだんと薬が飲みたくなってくる。だが手の届く範囲に薬を置いていなかった為、それもすぐに諦めた。

 虚無的な時間は絶望を募らせてゆく。

 穂希は漠然とした苛立ちから、置きっ放しのカッターナイフに手を伸ばした。

 その時、仕組まれたようなタイミングでベルが鳴った。

「椿?」

 無意識に名前を呼ぶと、相手も同様に穂希の名前を口にした。――――間違いなく、椿の声だ。

「……鍵空いてるから入ってきて」

 ベッドに横になった状態で椿を招く。数秒後、遅々と居間の扉が開かれた。椿は穂希の姿を捉えるなり、その元に駆け寄った。

「穂希君! ……大丈夫!?」
「……大丈夫」

 ゆっくりと上体を起こし、椿の方を向き直る。
 洗練された制服姿は、いつだってこの薄汚れた部屋に似合わない。

「毎日来てくれるね」
「……会いたくて」
「俺なんかにそう思ってくれるんだ」
「もちろんだよ。……好き、だから」

 椿が顔を覆い隠す。
 不慣れな言葉を懸命に口にする様は、学習時や学校で円転自在に話す姿とはまるで違った。

 穂希は微笑み、彼を自身の左側に促した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

処理中です...