蒼い春も、その先も、

Rg

文字の大きさ
70 / 88
花霞の中に見える君の顔

17-5

しおりを挟む
 結局、昨日は穂希のことばかり考えてしまい一睡も出来なかった。明らかにコンディションが悪く、それが更なる自己嫌悪を招く。
 今日一日は何とか遣り過ごしたが、こんな状態が続くと思うと、気が気でなかった。

「佳澄先輩、今帰りですか?」

 疲れた背中に不図訊ねられ、振り向く。葉月だ。彼女は近付いてきて、丁寧に一礼した。

「昨日はありがとうございました、その、兄のところにいてくれて」

 どうやら、穂希との間に只ならぬ雰囲気があったことはばれていないようだ。
 安堵し、普段の表情に笑みを含める。

「穂希君、調子どう?」
「あ、昨日病院で見てもらったんですけど、貧血だったみたいです」
「そう」
「薬も貰ったし、もう大丈夫だと思います」

 自然と『よかった』と言う言葉が零れる。倒れていた時は死相と言っても過言ではないほど顔色が悪かったのだ。

「今はもう家に居るので、良かったら顔出してあげてください。きっと喜ぶと思うから」

 葉月は純一無雑な微笑を浮かべた。当たり障りのない返事をして彼女を見送ると、忽ち焦りが込み上げてきた。

 立ち尽くしていると、部活動を終えたばかりの千冬がやってきて、横並びになった。
 千冬の下駄箱はこの辺りではない。ゆえに、何か言いたい事があるのはすぐに分かった。

「行ってあげたら? 彼氏でしょー」
「早く帰って勉強しなきゃ」
「えー!? 嘘でしょ、穂希君病み上がりなんじゃないの? 何があったか知らないけどさ、椿が一方的に避けてるようにしか見えないんだけど」

 その口調は僅かに怒気を含んでいた。時々、千冬の察しの良さに驚かされることがある。

 図星を突かれ、もう逃げられないと悟った椿は、別れの挨拶だけを置いて足早に校舎を出た。

「穂希くん絶対待ってるよ!」

 後ろで、千冬が叫ぶ。彼女の言う“絶対”は、今回ばかりはきっと嘘ではない。

『傷作って待ってたよ』

 穂希の言葉を思い出し、再び胸がざわめき出す。

 ――――夏休みの間、穂希に会わない日々を経て気付いた事がある。
 多分自分は、傷が有るとか無いとかではなく、穂希自身が好きなのだ。

 勿論、傷や怪我に対しての性的な欲求が無くなったわけではない。だが、傷を見ても『嬉しい』や『美しい』といった感情だけではなくなったのも、また事実だった。

 君自身を愛している。

 その発言を阻んでいるのは、穂希と築き上げていた関係性そのものだ。

 あれだけ振り回しておいて、今更自傷行為をやめてほしいなどと言える勇気は、どこにも無かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

恋愛速度【あっというまに始まった、おれと遊び人の先輩の恋の行方……】

毬村 緋紗子
BL
高校生になったばかりの千波矢は、2コ上の先輩、高城 慶と知り合う。 女の子にモテる慶は、これまでかなり派手に遊んできたらしい。 そんな慶から告白されて付き合いはじめた千波矢だったけれど、すぐに身体を求められて、戸惑い、思い悩んでしまう。 先輩は、本当におれのことが好きなのかな おれは、先輩に遊ばれてるだけなのかな──。 〈登場人物〉 瀧川 千波矢 タキガワ チハヤ 高1 高城 慶 タカシロ ケイ 高3 表紙イラストは、生成AIによる自作です。 エールをありがとうございます!(ω〃)

処理中です...