69 / 88
花霞の中に見える君の顔
17-4
しおりを挟む
保健室に同行し、漸く一息吐く。たった数分間の出来事だったが、非常に慌しかった。
しかし、倒れていたのが穂希じゃなければ、こんなにも激しく動揺することは無かっただろう。
椿は息を殺して、カーテンの隙間を覗き込んだ。
教師が駆けつけた頃には穂希の呼吸も落ち着き、本人が救急車は不要だと判断した為、現在彼は普段と同じようにベッドで眠っていた。
穂希の無事を見届けて、保健室を出る。だが、すぐに引き返してしまう。
やはり、彼のことを放っておけない。
ベッドの近くに置きっぱなしになっていた丸椅子に腰を掛けて、椿はあらためてその姿を凝視した。
――――明らかに、傷が増えている。
決して錯覚などではなかった。何故なら、顔や首、手の甲、手指といった誰が見ても分かるような場所に、生傷や創痕があったからだ。
くっきりとした切創も、広範囲に滲んだ痣も、古い傷が治る前に重ねて付けられたものと見受けられる。
絶望感が胸に流れ込み、椿は思わず背中を丸めた。布が擦れる音がしたのは、ちょうどその時だった。
「椿、居てくれたの?」
嬉しい、と穂希が微笑む。
一方的に突き放し、逃げた相手に向けるものとは思えない笑顔に、寧ろ心苦しくなる。
「会いたかった」
穂希は上体を起こし、傷だらけの手を伸ばした。素直に彼を迎え入れる事が出来ずに、口を結ぶ。
「……傷作って待ってたよ」
囁くほどの声が頭の中に鐘の如く響き、ドキドキと心臓が鳴った。心音に寄り添うように、穂希は椿を抱き寄せた。
「穂希君……もう、こんな事やめて……」
「前みたいに喜んでくれないの?」
何を言うでもなく、ただ首を横に振って、穂希をゆっくりと押し退ける。
――――傷は魅力的に映るのに、心はこのまま死んでしまうんじゃないかと思うくらいに苦しい。
カーテンの内側が、静寂に包まれた。
そこへ、テンポの速い足音が近付いてくる。
「お兄ちゃん、葉月だけど入っていいかな」
歩調とは裏腹に、葉月は最大限に声量を沈めて言った。恐らく、まだ眠っているかもしれないという配慮から、自然と声が小さくなったに違いない。
何事も無かった風を装って、カーテンを翻す。
視界にちらついた憂いに満ちた表情を、無数の生傷が際立たせていた。
しかし、倒れていたのが穂希じゃなければ、こんなにも激しく動揺することは無かっただろう。
椿は息を殺して、カーテンの隙間を覗き込んだ。
教師が駆けつけた頃には穂希の呼吸も落ち着き、本人が救急車は不要だと判断した為、現在彼は普段と同じようにベッドで眠っていた。
穂希の無事を見届けて、保健室を出る。だが、すぐに引き返してしまう。
やはり、彼のことを放っておけない。
ベッドの近くに置きっぱなしになっていた丸椅子に腰を掛けて、椿はあらためてその姿を凝視した。
――――明らかに、傷が増えている。
決して錯覚などではなかった。何故なら、顔や首、手の甲、手指といった誰が見ても分かるような場所に、生傷や創痕があったからだ。
くっきりとした切創も、広範囲に滲んだ痣も、古い傷が治る前に重ねて付けられたものと見受けられる。
絶望感が胸に流れ込み、椿は思わず背中を丸めた。布が擦れる音がしたのは、ちょうどその時だった。
「椿、居てくれたの?」
嬉しい、と穂希が微笑む。
一方的に突き放し、逃げた相手に向けるものとは思えない笑顔に、寧ろ心苦しくなる。
「会いたかった」
穂希は上体を起こし、傷だらけの手を伸ばした。素直に彼を迎え入れる事が出来ずに、口を結ぶ。
「……傷作って待ってたよ」
囁くほどの声が頭の中に鐘の如く響き、ドキドキと心臓が鳴った。心音に寄り添うように、穂希は椿を抱き寄せた。
「穂希君……もう、こんな事やめて……」
「前みたいに喜んでくれないの?」
何を言うでもなく、ただ首を横に振って、穂希をゆっくりと押し退ける。
――――傷は魅力的に映るのに、心はこのまま死んでしまうんじゃないかと思うくらいに苦しい。
カーテンの内側が、静寂に包まれた。
そこへ、テンポの速い足音が近付いてくる。
「お兄ちゃん、葉月だけど入っていいかな」
歩調とは裏腹に、葉月は最大限に声量を沈めて言った。恐らく、まだ眠っているかもしれないという配慮から、自然と声が小さくなったに違いない。
何事も無かった風を装って、カーテンを翻す。
視界にちらついた憂いに満ちた表情を、無数の生傷が際立たせていた。
30
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた
雪兎
BL
あらすじ
全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。
相手は学年でも有名な優等生α。
成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに——
めちゃくちゃ塩対応。
挨拶しても「……ああ」。
話しかけても「別に」。
距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。
(俺、そんなに嫌われてる……?)
同室なのに会話は最低限。
むしろ避けられている気さえある。
けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、
その塩対応αだった。
しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。
「……他のαに近づくな」
「お前は俺の……」
そこで言葉を飲み込む彼。
それ以来、少しずつ態度が変わり始める。
距離は相変わらず近くない。
口数も少ない。
だけど――
他のαが近づくと、さりげなく間に入る。
発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。
そして時々、独占欲を隠しきれない視線。
実は彼はずっと前から知っていた。
俺が、
自分の運命の番かもしれないΩだということを。
だからこそ距離を取っていた。
触れたら、もう止まれなくなるから。
だけど同室生活の中で、
少しずつ、確実に距離は変わっていく。
塩対応の裏に隠されていたのは――
重すぎるほどの独占欲だった。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
恋愛速度【あっというまに始まった、おれと遊び人の先輩の恋の行方……】
毬村 緋紗子
BL
高校生になったばかりの千波矢は、2コ上の先輩、高城 慶と知り合う。
女の子にモテる慶は、これまでかなり派手に遊んできたらしい。
そんな慶から告白されて付き合いはじめた千波矢だったけれど、すぐに身体を求められて、戸惑い、思い悩んでしまう。
先輩は、本当におれのことが好きなのかな
おれは、先輩に遊ばれてるだけなのかな──。
〈登場人物〉
瀧川 千波矢 タキガワ チハヤ 高1
高城 慶 タカシロ ケイ 高3
表紙イラストは、生成AIによる自作です。
エールをありがとうございます!(ω〃)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる