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第1話
しおりを挟む「テルー!ちょっと聞いてよ。あの男最悪っ!」
朝からテンションが高い幼なじみは、周りの視線なんかお構いなしに大音量で叫びながら教室に飛び込んでくると、わぁっと机に突っ伏して泣きだした。
クラスの奴らも多分この状況に慣れただろう。
なにしろこの2週間でもう4回目だ。
授業が補修含め週6日とすると、3日に1回のペースで巡っているわけだ。
『尾上も大変だな』とか『親友がモテると辛ぇな、色んな意味で』なんて、慰めの言葉をくれていた友人たちも日常的風景になりつつあるコレに、もはやなんの関心も無いようだ。と、いうか、うっかり巻き込まれでもしたら面倒になることは分かりきっているので、触らぬ神に~状態だった。
「今日は何だよ」
ぺんぺんと、幼なじみである橋本みゆきの頭を叩くように撫でながら、はぁと溜め息をついた。
内容の詳細は分からないが、原因は分かっている。
「りゅーじのヤツ、昨日のデートを断ったと思ったら別の女と遊んでたのよー。どう思う!最悪でしょ!最悪なのよっ!」
はい、来た。
もういい加減に理解しろ。
アイツはそういうヤツだ。
友人にするなら何の問題もない……ことも無いが、確実に恋人には適さない。
超節操無しの遊び人と公言して憚らない男は、あっちの女、こっちの男と、不特定の相手と関係をもっている。
えーとあれは……隣のクラスの……森さんだったか?
昨日さ、あいつと喋ってたのは。
「ゆり子もゆり子よー!あたしが龍二と付き合ってるの知っててー」
ああ、そうそう。森ゆり子だ。
遊び慣れてるカンジの女子だな。
黒髪の美人系。
黒い髪は、あいつの好みだ。
机に肘つき記憶を辿る。
その前は、三年の井出先輩、女子。
その前は、他校の……確か男子校の生徒だったはず。
その前は他校の女子で、その前が大学生、これは女性。
それからOL。
その前が、中等部の男の子だったけど、コレは3日で振ったんだか振られたんだか。
「ホント最悪よー」
うん、ホント、最悪だな。
最低って言わないところは、お前の優しさだな、みゆき。
最低で最悪で、無節操で不誠実で、外面はサイコーにセクシーでサイコーにカッコイイ。
遊びでもいいから付き合いたい。
抱かれたい男No.1(当校に限る)
街頭アンケートをとるなら、集計結果はそんなところだろうね。
そして、そんな厄介なサイアク男の"現在"の彼女が俺の幼馴染みのみゆきだ。
仕方ないから、哀れな幼なじみを慰めてやろう。といっても、月並みな事しか言えないけどね。
「森とのことは、只の遊びだと思うぜ」
「知ってる、分かってる、あたしのことも遊びだもん、でも悔しい」
「一応、彼氏彼女の関係だろ、遊びとか言うなよ」
遊びだろうけど、確実に。
「そうだけど、そんなのただの名称でしかないって言われてるもの」
「……まじで」
「そうよ。りゅーじにとっては遊びと同じ。ただ、誕生日とかクリスマスは二人で過ごす、ちょっぴりの特権がついてくるだけなの、龍二の恋人ってそういうコトなの」
何て言うかあの男はホントに不実で、同時にあいつ的意味で誠実だ。ちゃんと名称以上の意味はないよと宣言するところが誠実で、そんな関係を続けることがそもそも不実だ。
恋人なんて目的のための手段でしかない、と笑って吐き出すアイツらしい。
それにしても……ちょっぴりの特権か。
ちょっぴり、ね。
俺から言わせると、十分贅沢な特権です。
何だかんだ言ってもさ、アイツは女の子には優しいんだ。
「特権はタダだろ?」
呟くように訊ねると怪訝な顔をされた。
しまった、ついつい口が滑ったよ。
我が身がカワイイなら、下手に突っ込んだ質問なんてしないに限る。
ただでさえ微妙な関係なんだからさ、下手を打って機嫌を損ねでもしたら、口すらきいて貰えなくなる。
まぁ、もうほどほどに手遅れかもだけど……。
何でもないから気にするなとみゆきに手を振ってしめした。
単純なみゆきは、どうやら特に興味も抱かなかったらしく「それでね!」と我が身の不幸話に戻った。
お前の頭が単純でホント良かった。
ちょっぴり失礼な安堵には気づきもせず、みゆきは彼氏のサイアクさについて熱弁する。
だからさ、アイツのサイアクさは今に始まったことじゃねぇだろ?
優柔不断で自由奔放なあの男を、イベントがある度に対価なしで独占できる。
それが恋人の特権なら十分じゃね?
「別れちまえば?」
この提案は何度目になるか分からない。
首を横に振るみゆきを見るのも何度目だろうか。
「いや、絶対いや。まだ1ヶ月もたってないの。最長記録はあたしがつくるの!誰にも負けないわ」
久賀龍二と誰が一番長い期間つき合えるか……という実に下らないコトが女子の間で流行っている。
男子の間では、つきあってる相手と何日で破局するかという賭が流行っている。
絶対に負けないわと、握り拳をつくるみゆきに、それは本当に恋ゆえか?と心の中で問い掛けた。
当然、答えが返ってくることはない。
「まぁ、傷つかない程度に頑張れ」
頭を撫でてやると、みゆきが丸くて大きな目で見つめてくる。
あー…………こーゆー目が、好みなのか、と幼馴染みを見ながら思う。
「あたし、テルを好きになれたら良かったのに」
「俺は良くないです。いらねぇ」
白状すると、淡い初恋の相手であったみゆきにそう言って貰えて悪い気はしなかった。が、現在俺を揺るがすのは彼女ではなかった。
緩やかな巻き髪でも、小さな手でも、細い肩や首でもない。
ふっくらピンクの唇でもないし、バシバシマツゲの二重でもない。
赤い髪と、想像していたよりも細い腰と、少し上がった目尻。射抜かれそうな眼光。
意地悪く上がる口の端と、薄く開いた唇から覗く赤い舌。
思考を埋め尽くそうとするそれらを、端っこの方に無理矢理追いやった。
想っても、想っても、どうにもならないのに、それでも捨てられない感情がある。
僅かばかりの嫉妬を胸の中へと押し込めながら、しっしっと手で払う仕草をすると、単純で単細胞な幼なじみは怒って立ち上がった。
因みに、単純で単細胞とは、みゆきの彼氏さまのお言葉だ。
どこまで本気かしらないけど。
「冗談よ!あたしが好きなのは龍二だけだもん」
だから、それは本当の恋で、愛なのか?
いや。そもそも、真実の愛ってなんだ?ま、そんな崇高なモノを掲げでも、お前の彼氏は鼻で笑うだろうね。
「ま……ガンバレ。ちなみに俺は2ヶ月破局に賭けてるからヨロシク」
「あたしの目標は半年なの!」
叫びながらみゆきが教室から出て行った。嵐のような女だな。
幼なじみを見送った俺は、次の授業の教科書を準備しながら、深い溜め息をついたのだった。
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