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第48話
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空いている方の手で、キスされた場所をおさえた。
文句を言うために開いた口が音を発する前に、西河原の頭に何かが直撃し、ガシャと廊下に落ちて転がった。
「っったぁぁぁぃ!!後頭部に的確な一撃とか殺意しか感じないんですけどぉー!!」
「おぅ。脳みそ筋肉で出来てる割に察しがよくて助かるよ。余計な事をペチャクチャ喋る前にクタバレ」
頭を押さえて西河原は喚く。視線を後方へとやれば、椎名の手から解放されたらしい久賀が、西河原に冷たい視線を向けていた。
え?何が起きたの?と俺は視線をキョロキョロさせて、床に転がったスマホを発見する。
西河原に直撃したのは、これか……。
どうやら、これを投げた犯人は久賀のようです。
スマホ投げるのにもビックリだけど、後頭部狙うとか……リアルにコワイヒトになってるよ、久賀さんってば。
「なんだよー!別に余計な事なんて話してないもーん。どーせ俺がオガミとラブラブしてるのが気にいらないとかそーゆー理由だろー。りゅーのヤキモチやきー」
んべーっと久賀に向けて舌を出す西河原。
久賀のスマホを拾いながら、俺はドキリと胸を弾ませた。
聞き捨てならないセリフがありませんでした?
ありましたよね?
俺と西河原は豆粒ほどもラブラブなんざしていない。まずはそこを否定して、そんなことよりその続きだよ。
誰が誰にヤキモチですって奥さん?
誰だ奥さんって、と脳内で自分自身に突っ込みをいれながら、久賀をガン見する。
久賀は無表情から実にゆっくりと、心底呆れたというカンジの表情になって。
「西河原、眼科行け。もしくは頭の精密検査を受けてこい。多分、異常が発見されるからさ」
これ以上ねぇよってくらいバカにした口調で言った。
うっかりドキドキした俺のときめきを返せ。いや、分かっていましたけどね。
あーだこーだと騒ぐ彼らをスマホを握り締めながら見つめた。
楽しそうだな。俺も久賀とジャレたい。
秘密なんて知らない方が良かったのだろうか。
そうしたら、薄っぺらの嘘だらけの友情だけど、アイツの隣で笑うことが出来たハズだ。
今朝の大山みたいに。じゃれあってたクラスのみんなみたいに。安田みたいに。
うそっぱちだけど楽しくて、偽物だけど優しい笑顔を向けられて、うわべだけの友情を本物だと信じていられた。秘密を知らなければ。
ああ、でも、知らないままなんて、いやだ。
やっぱり……なにも知らないままより、きっと今の方が良い。
「久賀、これ」
久賀に歩み寄り、拾ったスマホを差し出した。
もう流石に、にっこり笑顔では無かったけれど、表情すら無かった。
ひとり静かに、心に傷を負いながら、頭の隅っこで(無表情もキツいですよ久賀さん。あと、そやってると美人従兄弟さんとの血縁関係も納得です)なんて事を考える。
容姿に惚れたわけじゃないけど、やっぱコイツの顔は好きだな、なんて思った。
何にも映さない瞳を見上げた。
何を考えているのか知りたい。
何を感じているのかも知りたい。
何を欲しているのか、何を望んでいるのか。
知りたいくて、近づきたい。
秘密を知ったからこそ、もっとコイツを知りたいと思った。
知らないままだったら、恋にだって気づかずに終わっていただろう。
苦しくて、叶うコトもなくて、悲しいばかりの恋になるだろうけど、それでも、こんなにも誰かを好きになれるキモチに気づかずに終わっていた方が、ずっと辛くて悲しいだろう。
「あれ……?久賀、機種変えた?」
広げた掌の上に乗せたスマホを、掴んでポケットに押し込む久賀の手を見ながら訊いた。
昨日までは白のケースに赤いスマホだったのに、黒色のケースとスマホに変わっていた。
「……お前って、鋭いのか鈍いのかどっちだよ」
「はぁ?」
まるで独り言のような声音。
えっと。どーゆー意味?と聞き返す間もなく、くるりと背を向けた久賀がすたすたと歩き出す。
意味が分かりません、久賀さん。
背中に視線を向けても、答えは当然かえっては来ない。
「赤いのはねー所謂“仕事携帯”だよー」
耳もとでこっそりと答えを囁かれて、思わず飛び退いた。
イタズラなにまにまを浮かべた西河原が、にゃはははとフザケたように笑う。
椎名と久賀からちょっと離れて歩きながら、西河原は実に上機嫌だ。
「むふー。りゅーの不機嫌な理由のひとつは、ケータイ取り上げられからか。じゃあ暫くバイトはオヤスミだな。うっし、遊ぶならいまだぜー」
「仕事携帯……って、あー、バイトのこと、だよな」
「そそそっ。いやぁーんであはぁーんなバイトー。うしししっ。りゅーってば、きのーオガミと一緒にうっかりさんで寝こけちゃったんでしょー?」
「うわっ、なんで知ってんだ」
「シーナが写真とってたよー。見せて貰った」
ことりっと首を傾げながら、西河原が言ったセリフにマジかよと汗を垂らす尾上。
久賀と二人並んで、ぐーすかぴーなところを撮られたとか……どうしよう、その写真見たい。ってゆーか欲しいっ。
印刷して飾ってしまうかもしれない。枕の下に入れたりとか、毎晩抱いて眠っちゃったりするかもしれない。
いや、まて、それは脳内乙女思考がキモイレベルだ。流石に自分に引く。
写真をスマホに送って貰うくらいで我慢しよう。人間として、いや、男としての何かを守るためにだ。
やばい、毎晩、寝る前にそれをガン見する自信がある。そんな自信は今すぐ捨てたい。
文句を言うために開いた口が音を発する前に、西河原の頭に何かが直撃し、ガシャと廊下に落ちて転がった。
「っったぁぁぁぃ!!後頭部に的確な一撃とか殺意しか感じないんですけどぉー!!」
「おぅ。脳みそ筋肉で出来てる割に察しがよくて助かるよ。余計な事をペチャクチャ喋る前にクタバレ」
頭を押さえて西河原は喚く。視線を後方へとやれば、椎名の手から解放されたらしい久賀が、西河原に冷たい視線を向けていた。
え?何が起きたの?と俺は視線をキョロキョロさせて、床に転がったスマホを発見する。
西河原に直撃したのは、これか……。
どうやら、これを投げた犯人は久賀のようです。
スマホ投げるのにもビックリだけど、後頭部狙うとか……リアルにコワイヒトになってるよ、久賀さんってば。
「なんだよー!別に余計な事なんて話してないもーん。どーせ俺がオガミとラブラブしてるのが気にいらないとかそーゆー理由だろー。りゅーのヤキモチやきー」
んべーっと久賀に向けて舌を出す西河原。
久賀のスマホを拾いながら、俺はドキリと胸を弾ませた。
聞き捨てならないセリフがありませんでした?
ありましたよね?
俺と西河原は豆粒ほどもラブラブなんざしていない。まずはそこを否定して、そんなことよりその続きだよ。
誰が誰にヤキモチですって奥さん?
誰だ奥さんって、と脳内で自分自身に突っ込みをいれながら、久賀をガン見する。
久賀は無表情から実にゆっくりと、心底呆れたというカンジの表情になって。
「西河原、眼科行け。もしくは頭の精密検査を受けてこい。多分、異常が発見されるからさ」
これ以上ねぇよってくらいバカにした口調で言った。
うっかりドキドキした俺のときめきを返せ。いや、分かっていましたけどね。
あーだこーだと騒ぐ彼らをスマホを握り締めながら見つめた。
楽しそうだな。俺も久賀とジャレたい。
秘密なんて知らない方が良かったのだろうか。
そうしたら、薄っぺらの嘘だらけの友情だけど、アイツの隣で笑うことが出来たハズだ。
今朝の大山みたいに。じゃれあってたクラスのみんなみたいに。安田みたいに。
うそっぱちだけど楽しくて、偽物だけど優しい笑顔を向けられて、うわべだけの友情を本物だと信じていられた。秘密を知らなければ。
ああ、でも、知らないままなんて、いやだ。
やっぱり……なにも知らないままより、きっと今の方が良い。
「久賀、これ」
久賀に歩み寄り、拾ったスマホを差し出した。
もう流石に、にっこり笑顔では無かったけれど、表情すら無かった。
ひとり静かに、心に傷を負いながら、頭の隅っこで(無表情もキツいですよ久賀さん。あと、そやってると美人従兄弟さんとの血縁関係も納得です)なんて事を考える。
容姿に惚れたわけじゃないけど、やっぱコイツの顔は好きだな、なんて思った。
何にも映さない瞳を見上げた。
何を考えているのか知りたい。
何を感じているのかも知りたい。
何を欲しているのか、何を望んでいるのか。
知りたいくて、近づきたい。
秘密を知ったからこそ、もっとコイツを知りたいと思った。
知らないままだったら、恋にだって気づかずに終わっていただろう。
苦しくて、叶うコトもなくて、悲しいばかりの恋になるだろうけど、それでも、こんなにも誰かを好きになれるキモチに気づかずに終わっていた方が、ずっと辛くて悲しいだろう。
「あれ……?久賀、機種変えた?」
広げた掌の上に乗せたスマホを、掴んでポケットに押し込む久賀の手を見ながら訊いた。
昨日までは白のケースに赤いスマホだったのに、黒色のケースとスマホに変わっていた。
「……お前って、鋭いのか鈍いのかどっちだよ」
「はぁ?」
まるで独り言のような声音。
えっと。どーゆー意味?と聞き返す間もなく、くるりと背を向けた久賀がすたすたと歩き出す。
意味が分かりません、久賀さん。
背中に視線を向けても、答えは当然かえっては来ない。
「赤いのはねー所謂“仕事携帯”だよー」
耳もとでこっそりと答えを囁かれて、思わず飛び退いた。
イタズラなにまにまを浮かべた西河原が、にゃはははとフザケたように笑う。
椎名と久賀からちょっと離れて歩きながら、西河原は実に上機嫌だ。
「むふー。りゅーの不機嫌な理由のひとつは、ケータイ取り上げられからか。じゃあ暫くバイトはオヤスミだな。うっし、遊ぶならいまだぜー」
「仕事携帯……って、あー、バイトのこと、だよな」
「そそそっ。いやぁーんであはぁーんなバイトー。うしししっ。りゅーってば、きのーオガミと一緒にうっかりさんで寝こけちゃったんでしょー?」
「うわっ、なんで知ってんだ」
「シーナが写真とってたよー。見せて貰った」
ことりっと首を傾げながら、西河原が言ったセリフにマジかよと汗を垂らす尾上。
久賀と二人並んで、ぐーすかぴーなところを撮られたとか……どうしよう、その写真見たい。ってゆーか欲しいっ。
印刷して飾ってしまうかもしれない。枕の下に入れたりとか、毎晩抱いて眠っちゃったりするかもしれない。
いや、まて、それは脳内乙女思考がキモイレベルだ。流石に自分に引く。
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