うそつきな友情(改訂版)

あきる

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番外編 僕らの友情6

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 すたすたと、早足で近づいて、トンと机に手をおいた。

「なんだよアキ坊、さっきからヤケに突っかかるわねぇ」

「カマ口調キモイ。アキ坊いうな」

 ならばお前はキモイ言うなし!あと別にカマ口調を意識したわけではない。
 あれ、素でカマ臭いってこと?ガーン。

「あ、あきらくん、いつからそんなにスレちゃったの。お母さん悲しい」

 因みに、これは意識してやってます。
 アキ坊の鞄をどんっと教科書の上におきながら、掌で口元を隠して嘘泣きをしてみる。

「人が勉強してるのに……嫌がらせかよ、あんた。いったい何の用なわけ?」

 ふざけるのが目的ならさっさと出ていけよ。と睨まれた。
 はいはい、前置きはいらねぇってことね。

「じゃぁ、マジメにやろう。世の中には勉強より大切なことがあるって事を、アキ坊と討論してみたいんだけど」

「ものすごく必要ない。興味もない」

「そんな可愛げのない事言わないでさ、悩みがあるなら話してみんしゃい。おじさんが聞いちゃろ聞いちゃろ」

「別におっさんに聞いてもらいたいような悩みなんてないし」

「じゃあお兄さんが聞いてやろう」

「兄貴はひとりで十分だってば。それに、もしも兄貴が増えるなら、あんたじゃくて坂本さんがいい」

「俺はあんた呼ばわりなのに、坂もっちゃんはさん付けとか、ちょっと悲しいな。よし。それじゃあ、おねーさんに話してみてぇん、うふふ。優しくしてあげるわよー」

「キモイ」

「ぐっ。これでもダメか、じゃあ『おいドンに話してつかぁさい』とか」

「意味が分からない」

 おかしい。小学生の時はこーゆーバカなことを言うと子どもらしくケタケタと笑ってくれたのに。

 必殺『ワレワレハ宇宙人ダ。改造サレタクナケレバ大人シク白状シロ』攻撃もききませんでした。
 大山くん、惨敗。

 ガックシと床に腕をついて凹む俺の頭の上から、ふかーい溜め息が降ってきた。

「あんたさ、なんでそんなシツコイわけ?悩みなんて無いって言ってるのに」

「いやさ……いくら坂もっちゃんたちに比べて付き合いが短いからって、お前が悩んでいるかどーかくらいわかるぞ?」

 悩んでいる内容までは流石に分かってやれないけど、接点が少なすぎるから、そこは仕方ない。

 シンッとしちゃたのでそろりと顔をあげてみると、ちょっぴりほっぺたを赤く染めた燿が、狂犬みたいなキッツい目で俺を睨んでいました。

 あれれ。これはもしや。

(怒りながら照れてる……のか?なんと器用な)

 逆に、不器用なのか。

 成長するに従い、人は自分の感情をストレートに表現するすべを少なからず失ってゆくのかも知れない。

 俺がさ、たくさんの転校を重ねるうちに、人の輪の中にスムーズに溶け込むための“ヒト受けが良い笑顔”とか、建前なんかの外面武器を装備したみたいにさ。

 素直で感情表現が真っ直ぐな、裏も表もない純真な性質のまま、人間社会を生き抜くのは難しい。

 アキ坊も思春期に突入したわけだ。

 寂しいような、嬉しいような。なんとも複雑ではありませんか。
 ひとりっこだからね俺は。ほんと、図々しいけどアキ坊のことは勝手に弟みたいに思ってるんだって。

「なんで、そこまで言いきれんの……分かるとか、そんなの嘘だ。兄弟でも家族でも無理なのに、理解なんて出来るわけないじゃん」

「そりゃあ、100%は無理よ?んなこと家族だろうが兄弟だろうが、たとえ“自分自身”でも無理だと思うぞ。でもさ、わからないことと、わかろうとしないことは別でしょ~?」

「……」

「わかんねぇし、ただの当てずっぽうで、思い込みありの早とちりだったりするかもですが、俺にはアキ坊が何か悩んでてしかも、それは自分だけじゃどーにも出来なくて、お兄ちゃんすきなひとに暴言吐いちゃうくらい、いっぱいいっぱいなんじゃないかなぁーって感じたわけだ。でも実際のところ確認しなきゃわかんないでしょ?だから聞いてるんですよー」

「……それって、結局わかんねぇってことじゃん」

「うん。わかんねぇ。だけど、わかってやりたいよ?」

 それは紛れもない真実だ。
 繰り返しになるけど、俺はひとりっこだからさ、実をいうと兄弟ってゆーのに凄く憧れがあった。
 小さい頃から、いろんな場所に引っ越した。
 友だちもできた。いろんな出会いがあった。同じ数の別れもあった。

 どんなに仲が良い相手でも、遠く離れてしまったら自然と疎遠になる。しかも、俺は一線を引いて、親しい相手をつくってこなかったから余計にだ。

 どうせ、仲良くなってもまたすぐに転校しちゃうわけだし、そんなにガッツリ心を寄せてもさ、悲しいだけじゃん?
 悲しい思い出なんていらないじゃん。

 いつか大人になって、昔話をするときに「ああ、そんなヤツもいたね」なんて思い出すか出さない程度でいいやって、そう思ってたし、ソレくらいの距離でやってきた。

 現実問題、小学生がどんなに足掻いたって、一人暮らしなんて無理だしさ。

 心を残して、別の場所に行くのは、正直辛い。

 嘘も建前も、自分を守る物なんてひとっつも持ってなかった時は、ボロクソに泣いた。

 転校なんてしたくないとだだをこねて、暴れて泣いて、散々両親を困らせた。

『大丈夫だよ。遠くにいっても僕らはずっと友だちだ。一生友だちだよ』

 笑って指切りした相手は誰だっただろう。

 引っ越した先で、へったくそな文字を手紙に書き連ねたのは諦めが悪い、ガキだった俺だ。
 携帯なんて持ってなかったし、親のパソコンはあったけど相手のメールアドレスなんて知らなかった。

 電話じゃあ言葉に出来ない弱みも、文字なら素直にカタチに出来た。

 手紙は、ほんの数回の遣り取りの後、返事が帰って来なくなって終わってしまった。その後も、数回引っ越しをしたので向こうから手紙が送られてくることは、もはや一生ありえ無い。
 あの街に行けば、会えるのかも知れないけど、きっと俺はあいつを探さない。

 何が……何が一生の友だちだよ……ああ、イヤだな、思い出すなよ。
 封印、封印っと。

 心の奥にごちゃごちゃした何かを押し込んで鍵を掛ける。
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