うそつきな友情(改訂版)

あきる

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番外編 僕らの友情8

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 悩みを聞き出せたら、第二関門クリアで、悩みをスパッと解決できたらオールクリアおめでとーになるんですがね。なかなかどーして強情じゃないか、弟よ。
 そろそろ尾上があがってくるかな……妖精さんとしては、極秘活動を目撃されるのは芳しくない。
 だって恥ずかしいじゃん、てへ。

「兄ちゃ……兄貴に、頼まれたの?」

「ふぁい?!」

 ドアの方をちらちら気にしていると、アキ坊にそう尋ねられた。すっとんきょうな声だったのが気にくわなかったのか、再びムスッとしちゃった弟に「だからっ」とちょっぴりイライラされちった。

「兄貴に俺の機嫌とってこいって言われたのかって聞いてんだよ!」

「は、い?え?言われてねぇよ。お前の兄ちゃんは、そんな風に誰かを利用してやろうなんて、思いつきもしねぇでしょ?」

 尾上は、真っ直ぐだからさ。
 頭は悪くねぇよ。だけど愚かなぐらい真っ直ぐ過ぎる。
 後、物凄く頑張り屋さんだからさ、辛くても誰かに助けてって言わないんだよね。
 
 もっと頼って欲しいですけど、頼ってねって伝えても『もうたくさん頼ってます』って返されちゃう。俺的には全然じゃんって思うんだけど、あんまり口出しすると今度は尾上のプライドとか傷つけちゃいそうで、難しいよね。

 たくさん助けて貰ったのに、返せるモノが無いことが悲しいよ。

 体調を崩して、寮の部屋で苦しんでいた時。

 世界から弾き出されちゃったみたいな孤独と、発熱による辛さと苦しさに、どーしようもなくひとりで堪えていた時。
 尾上の、眩しいくらい真っ直ぐな精神が、俺を救ってくれた。大袈裟だって笑いたければ笑えばいいよ。

 俺にとったらホント、その名前通りの存在に感じたんだよ。

 誰かを大切に思う理由なんて、それだけあれば十分だろう。

 視線の先には複雑そうな顔をしたアキ坊が居て、俺がハテナを浮かべながら首を傾げると、きょろりと視線を彷徨わせた。

「じゃあなんで、俺に構うの……」

 それは心底わかりませんという問いかけ。

「いや、なんでって……そりゃあ、普通、知ってる子が落ち込んでたら、心配するだろーよ」

「へえ……顔見知り程度でもここまでお節介焼けちゃうんだ。広い心の持ち主ですね。お人好し」

 なんで怒るのそこで?
 余計なお節介だって言われたら、そりゃあ、まあ反論は出来ないけど……ぶっちゃけ、世話やき代表の尾上ファミリーさんには負けます。
 もしや、世話を焼くのは好きだけど、焼かれるのは大嫌い。ってヤツですか?おっふ。非常にややこしい。

「いやいや、別に俺はさ、広い心とかは持ち合わせてねぇよ?好きなヤツにしかお節介も焼かないしって、あれれ、なんだかこの会話、つい最近したような?」

 つい最近ってゆーか、数時間前に坂もっちゃんとこの話題をしましたね。
 むむ。俺ってそんなにオヒトヨシか?自分では冷たい男だと思っているんだけどな。ああ、坂もっちゃんのアレはイヤミが半分くらい含まれていたか?

「……………好き?」

 うーん。ちゃんと尾上と坂もっちゃんの事は他より一段高い場所に置くくらいの気持ちで、愛してるんだけどな。
 深く、高く、広く、愛しているんだけどな。

 坂もっちゃんには『お前の暑苦しい愛などいらん』って言われるし、尾上には『ハイハイ知ってるよ。俺も好きですよ。暑いから離れろや』って言われるし、あれれ……愛すれ違い。大山くんは悲しいなっ。こんなに大好きなのにさ!

「サエは、俺が好きなの?」

「そうそう、大好き…………うん?」

 あれ、なんか今、間違った?
 いや。間違いではない。間違いではないハズだ。
 アキ坊のこともモチロン好きさ。
 ヒカリさんの事も好きだし、春野くんと田村くんと……えーと、あとは?

 くりくりのおめめが、真摯な熱を含んで見上げてくる。
 真っ直ぐ見上げてくるその色は、どこかで見た覚えがないだろうか。

 不意に耳の奥で、ほんの数時間前の歓声が蘇った。
 フィールドを走る選手たち。
 キラキラに輝く青春の1ページ。女の子たちの歓声と拍手。

 オレンジ色の太陽が照らす横顔には、切なさと愛しさが滲み出す瞳があった。
 声にならない想いが、友の中で渦を巻いている事を感じ取って、なにも言えずに立ち竦んだ。
 掛ける言葉ひとつ持たなくて、なんの力にもなってやれなくて…………ただ、隣に立つ友人が、羨ましいと、そう思った。

 ひたすらに真っ直ぐに、たったひとりに向かうそのひたむきさが、羨ましいと思った。

 例えば。
 例えば常識や体面や自尊心なんかぶっ飛ぶような、そんな恋をしたとしたら。
 そんな風に誰かを想えたら。

「本当に?サエは俺が好きで、だから優しくしたり、かまったり……してくれんの?」

 例えば。
 例えば、常識や体面や自尊心なんかぶっ飛ぶような。
 ただひたすらに真っ直ぐ、誰かに好きだと言われたのなら。誰かがそう言ってくれたなら。

「兄ちゃんより俺が大事?」

 誰かがそう言って、側に居てくれたら、そうしたら心の隙間も、埋まったりするのだろうかか?スカスカと風が吹き抜ける心の奥底。
 そこにあったのはバカなガキが信じていた何かだ。
 指切りげんまん。一生友だちの約束。帰ってこなかった手紙。うそつきなアイツ。
 開かないように鍵をかけて、捨てられないから、心の奥にしまい込んだ。

 果たされなかった約束が、ぽっかりと穴をつくっている。

 声なんか忘れた、顔だって朧気で、名前なんか絶対に思い出してやらない。
 裏切り者だと蔑んだりもしない。
 傷つけられたと嘆いたりもしない。
 なにひとつ感じたりするものか。
 俺の人生にも、生活にも、メンタルにも、カケラ程の影響だって与えてやるモノか。
 そう思う。
 そう思っているのに、それなのに、今もまだ穴が塞がらないのだ。

 新しい土地に移り住み、あの日の出来事が遠い昔の物語になった今も、まだ穴は埋まらない。

 何も何一つ影響されるモノかと、そう思っているのに……あんな風に無くすならもう二度と、誰にも心を寄せたりはしないとも、思っている。矛盾している。

 矛盾を抱えて、だけど、それから目を逸らしながら生きてきた。

 耳の奥で、ドクドクと血が巡る音が聞こえる。
 目眩でも起こしたのだろうか。自分を取り巻く世界は朧気だ。

 ただ挑むように真っ直ぐな瞳が、すぐそこにあった。
 それは親友の目にとてもよく似ている。
 だけど、儚さすら感じさせた悲しみと切なさを含む瞳よりも、この目は随分と力強い。
 
 まるでレーザービームだった。
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