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シャワーを浴びた涼介は、バスローブ一枚でベッドに腰掛けていた。華には泊まりになったとメッセージを送る。真理と食事をしたが、味がまったくしなかった。
本当に良いのだろうか。
迷いながら、大人しくついてくる真理を乗せてホテルを訪れた。外回り中に見かけていたホテルだ。こんなところ、人生でもう二度と使うことはないと思って眺めていた場所だった。
スマホを鞄にしまう。そのとき、左手の指輪が目についた。
(これをしたままじゃ、良くないよな)
外して財布の中に忍ばせる。間もなく、真理が部屋に入ってくる。真理はバスタオル一枚だった。スラリとのびた手足やなだらかな肩、バストの半分がはみ出てしまっている。
「バスローブなんて、あったんですね」
恥ずかしそうにうつむく真理を強引にベッドに引き倒す。
柔らかな唇に、涼介の妻に対する少しの罪悪感はすぐに霧散した。
それからはあっという間だった。メッセージのやり取りは桁違いに増え、退社後のホテルももう何度目かわからなくなった。
外回りの運転中も真理を思い出す。若い体はみずみずしく、手にも舌にも吸い付いてきた。華にはないそれに、涼介は際限なく溺れていった。
『奥さんと別れてほしいとか、そんなことは考えてません。こうして時々会ってくれるだけで十分です』
真理は控えめで、とてもいじらしかった。離婚を迫るでもなく、家族との予定を優先してほしいと身を引いてくれていた。
休日に子供達へ家族サービスができているのは、真理のおかげだ。
外回りを終えて、領収証を持って経理を尋ねる。社内での数少ない真理との接触。つい、気持ちも弾んでしまう。
「精算、お願い」
「はいっ」
顔を見るとすぐさま真理がきてくれた。他にも経理課の人間はいるが、涼介の経費の精算にはかならず真理が対応してくれていた。
真理の背後に、以前真理を叱りつけていた女性社員の姿が見えた。彼女に対しては冷たい態度を隠せなくなってしまう。何度目かのホテルで、真理は未だに彼女に叱られると話していた。
「嫉妬してるんだよ」
「え?」
「ほら、君が若くて綺麗だから」
涼介がちらりと目線で女性社員を見ると、真理も誰のことか気づいたようだ。
「やだ、りょ…鈴木係長ったら」
真理が小さな声でクスクスと笑う。
少し前にお互いに有給を合わせて日帰りの温泉旅行へ行ったときにから、二人でいるとき真理は涼介さんと呼ぶようになった。
些細な変化に顔が緩んでしまう。この幸せは、長く続くと思っていた。
再び真理と有給を合わせて小旅行を楽しんだ翌日。涼介は出社早々部長に呼び出された。
「とんでもないことをしてくれたな」
睨みつけてくる部長にわけがわからない。仕事でなにかミスがあったのだろうか。部長が封書を差し出す。
「読んだら、すぐに応接室に行け。会社からの処分は追って伝える」
処分とは一体どういう事なのか。ただならないない雰囲気に慌てて封書を確認する。中には無機質な文字が並んでいた。
涼介と真理の交際についての事実確認を、会社で行いたい旨が書かれていた。中には華の名前もある。今日の午前中と指定されており、すぐさま営業部を飛び出した。
応接室に入る前に華に連絡をするが電話に出ない。着信音は、応接室の中から聞こえてきた。恐怖でゆっくり扉を開けると、見知らぬ男と華がソファに腰掛けていた。
「はじめまして。弁護士の田村と申します。鈴木涼介さんでお間違いないでしょうか」
田村と名乗った男は立ち上がり、名刺を差し出しながら涼介に確認を取る。涼介は震える手で彼の名刺を受け取った。
「華、これは、一体」
「弁護士さんからの手紙。読んだよね?あの通りだけど」
華の冷たい瞳が涼介を射抜く。目の下に、どす黒い隈が浮いて見える。
久しぶりに、華の顔を真っ直ぐ見た気がする。
こんなに病的に老いていただろうか。頬もげっそり痩けている。
本当に良いのだろうか。
迷いながら、大人しくついてくる真理を乗せてホテルを訪れた。外回り中に見かけていたホテルだ。こんなところ、人生でもう二度と使うことはないと思って眺めていた場所だった。
スマホを鞄にしまう。そのとき、左手の指輪が目についた。
(これをしたままじゃ、良くないよな)
外して財布の中に忍ばせる。間もなく、真理が部屋に入ってくる。真理はバスタオル一枚だった。スラリとのびた手足やなだらかな肩、バストの半分がはみ出てしまっている。
「バスローブなんて、あったんですね」
恥ずかしそうにうつむく真理を強引にベッドに引き倒す。
柔らかな唇に、涼介の妻に対する少しの罪悪感はすぐに霧散した。
それからはあっという間だった。メッセージのやり取りは桁違いに増え、退社後のホテルももう何度目かわからなくなった。
外回りの運転中も真理を思い出す。若い体はみずみずしく、手にも舌にも吸い付いてきた。華にはないそれに、涼介は際限なく溺れていった。
『奥さんと別れてほしいとか、そんなことは考えてません。こうして時々会ってくれるだけで十分です』
真理は控えめで、とてもいじらしかった。離婚を迫るでもなく、家族との予定を優先してほしいと身を引いてくれていた。
休日に子供達へ家族サービスができているのは、真理のおかげだ。
外回りを終えて、領収証を持って経理を尋ねる。社内での数少ない真理との接触。つい、気持ちも弾んでしまう。
「精算、お願い」
「はいっ」
顔を見るとすぐさま真理がきてくれた。他にも経理課の人間はいるが、涼介の経費の精算にはかならず真理が対応してくれていた。
真理の背後に、以前真理を叱りつけていた女性社員の姿が見えた。彼女に対しては冷たい態度を隠せなくなってしまう。何度目かのホテルで、真理は未だに彼女に叱られると話していた。
「嫉妬してるんだよ」
「え?」
「ほら、君が若くて綺麗だから」
涼介がちらりと目線で女性社員を見ると、真理も誰のことか気づいたようだ。
「やだ、りょ…鈴木係長ったら」
真理が小さな声でクスクスと笑う。
少し前にお互いに有給を合わせて日帰りの温泉旅行へ行ったときにから、二人でいるとき真理は涼介さんと呼ぶようになった。
些細な変化に顔が緩んでしまう。この幸せは、長く続くと思っていた。
再び真理と有給を合わせて小旅行を楽しんだ翌日。涼介は出社早々部長に呼び出された。
「とんでもないことをしてくれたな」
睨みつけてくる部長にわけがわからない。仕事でなにかミスがあったのだろうか。部長が封書を差し出す。
「読んだら、すぐに応接室に行け。会社からの処分は追って伝える」
処分とは一体どういう事なのか。ただならないない雰囲気に慌てて封書を確認する。中には無機質な文字が並んでいた。
涼介と真理の交際についての事実確認を、会社で行いたい旨が書かれていた。中には華の名前もある。今日の午前中と指定されており、すぐさま営業部を飛び出した。
応接室に入る前に華に連絡をするが電話に出ない。着信音は、応接室の中から聞こえてきた。恐怖でゆっくり扉を開けると、見知らぬ男と華がソファに腰掛けていた。
「はじめまして。弁護士の田村と申します。鈴木涼介さんでお間違いないでしょうか」
田村と名乗った男は立ち上がり、名刺を差し出しながら涼介に確認を取る。涼介は震える手で彼の名刺を受け取った。
「華、これは、一体」
「弁護士さんからの手紙。読んだよね?あの通りだけど」
華の冷たい瞳が涼介を射抜く。目の下に、どす黒い隈が浮いて見える。
久しぶりに、華の顔を真っ直ぐ見た気がする。
こんなに病的に老いていただろうか。頬もげっそり痩けている。
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