堕恋 (完結)

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華に矛先をむけられ、涼介は生唾を飲んだ。真理が、人の男を取る常習犯?それは本当なのか?こんなに清純で、自分を真っ直ぐ見てくれていたはずなのに。
本気だとか恋だとか、考えていなかった。ただ、学生時代にはなかった甘酸っぱい狂うようなこの気持ちに、溺れていただけだ。真理との逢瀬は沼のようで、ズブズブとはまってしまった。しかしこれは本気だったのか。どうなりたかったのだろうか。
「僕、僕、は、」
答えられないでいる涼介に、華はテーブルを叩きつけた。
「答えられないのに、こんなガキに手ぇ出してんじゃないわよ!あんたの、娘だっておかしくない年の子に、恥ずかしくないの?!」
華の剣幕に、涼介はビクッと大きく肩をすくめる。ここまで激昂している華も、初めて見た。一瞬怯んだ真理だったが、驚かされたことに腹が立ったのだろうか。華に食ってかかった。
「誰が、誰がガキなんだよクソババア!お前が弁護士なんか雇うからこんなことになってんだろうが!」
「こんなことしでかしたのはてめぇだろ、クソガキ!ガキでもお前ハタチ超えてるよな?慰謝料の支払い義務だってちゃんと発生するんだよ!金がねぇならご両親に話してきちんと相談してこい。悪いことをしたらバチが当たるんだよ。ガキにもわかるよな?!どうなんだよ!」
真理は怒鳴りつけられて、ついに泣き出した。涼介は真理をかばうでもなく、じっとソファに座っていた。
これは夢だ。夢であってくれ。
涼介は固く拳を握る。
「鈴木さん。落ち着きましょう。酒井さんついては以上です。慰謝料の支払い方法については後ほど詰めさせていただきます。鈴木涼介さん。婚姻関係の継続と慰謝料についてですが」
「待ってくれ、婚姻関係って、まさか、離婚を、考えているのか?」
「そうよ。散々悩んで悩んで悩んで悩んで、あなたと離婚することにしたの。離婚、してください」
華が頭を下げた。涼介は一瞬、目の前が真っ暗になった。息ができない。
「こっ、子供は、子供達はっどうす」
「実家に戻って両腕と育てます。最近家にいても出掛けても、スマホばっかり見てて子供達のこと見てくれてなかったよね」
顔を上げた華が、淡々と話し始める。
「二人にはもう、話したの。パパとママは別々に暮らすって。二人とも大泣きしてね、パパと離れたくないって泣くの。一緒にいても他所の女との連絡に必死なパパのこと、二人とも、大好きなのよ」
華は目を真っ赤にして、最後は途切れ途切れになりながら涼介に訴えた。 
「パパと、ママと、ずっと、一緒に暮らすって。私が、我慢すれば、良かったのよ。でも、仕事だって、嘘ついてまで他の女と旅行するようなあなたと、どうしても一緒にいたくない。どうしたら、良かったの。あの子達にあんな顔させて、私が、いけなかったの?私が、我慢して、耐えてれば、」
華は悲鳴のような嗚咽を上げて泣いていた。涼介は震えながらソファから飛び降り、地べたに頭を擦りつけた。
「すまない華。君はなにも悪くない。悪いのは全て僕なんだ」
震えて舌がもつれるが、涼介は必死に華に謝った。子供達にも辛い思いをさせている。なんとか許しを得て、今まで通り家族で暮らしていきたい。
「鈴木さん、このあとご自宅でご両親も交えて話し合ったほうが良いと思います。養育費に関してもその後ということでよろしいでしょうか?酒井さんも先程申し上げた通り、慰謝料の支払いについて後日連絡差し上げますので。では、本日はこれで終わりにしましょう。なにか不明な点があれば事務所までご連絡ください」
田村は写真と書類を回収し、華とともに部屋を出ていった。入れ替えに複数の人間が部屋に入ってくる。
「君たちは今日から自宅謹慎だ。別々に帰宅して会社からの連絡を待つように」
総務部長が辞令と書かれた書面を突き出してくる。
経理課長は真理を、営業部長が地べたにひれ伏したままの涼介を引きずりあげて部屋をあとにした。会議室で今抱えている緊急の案件について引き継ぎをして開放された。涼介は何を話したか覚えていない。きちんと引き継ぎできたのかも危うい。
このあと自宅に戻っての話し合いを思うと胃が引き攣れて、それどころではなかった。しかし、子供達のことを思うと逃げるわけにはいかない。
涼介はなんとか運転をして、自宅へと向かった。
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