堕恋 (完結)

Oj

文字の大きさ
6 / 6

しおりを挟む

自宅での話し合いは、思い出したくもない。華の意志は固く、離婚以外考えられないと言われてしまった。華の両親から連絡を受けて飛んできていた涼介の両親からは、罵倒され殴られた。子供達は義母が連れ出してくれていて、殴られた現場は見せずにすんだ。泣き出す涼介の母親とは対象的に、華は終始冷静に話をしていた。あのあと、弁護士と何を話したのだろうか。華は覚悟を決めてしまっていた。もう、元には戻れなかった。
子供達は華と華の両親とともに華の実家へ。
自宅は売却して華と折半し、慰謝料は財産分与分から一括で支払い、養育費も足りない分は分割で支払うことになった。
後日、会社からは解雇が通達された。真理も同様に、解雇処分されたそうだ。
最後の出社日。自席の荷物をまとめて会社を出た。出社というより、最後の後片付けだった。誰とも話さず、一礼して営業部を出た。
「あの、」
荷物を持って車に向かっていると経理部の女性社員が声をかけてきた。真理を激しく叱責していた女性だ。女性は周りを見渡し、人がいないことを確認してから話し始めた。
「酒井さんの、ことなんですけど、以前叱ってしまったときは、私の叱り方が悪かったです。甘やかして仕事を教えようとしない課長も、悪いんです。経理が難しいなら、他の部署への打診をしてあげるべきで、私も何度も上には言ったんです」
女性は真理の話をし始めた。あれから涼介は真理と一切連絡を取っていない。今日会うことがなかったのも、会社が別日になるよう配慮してのことだろう。あまり聞きたくない話だったが、涼介は動けなかった。
「でも、課長は彼女を手放したくなかったんだと思います。もっと違う教育ができたら良かったんですが、何度教えても自分のやり方を突き通して間違える彼女に疲れてしまって…」
真理が仕事ができないのは本当のことだったようだ。正直、涼介も薄っすらと気づいていた。自分と関わりたいがために簡単な処理も頼って聞いてきてくれていると思っていたが、他の処理も間違いが多かった。経理課長が「いいよいいよ」と、この女性に後処理をさせているのも見たことがある。
「私、彼女に嫉妬なんかしていません。たぶん課長ともなんらかの関係があったんだと思うんです。そんな彼女に私、嫉妬なんかしません。それだけはどうしても言いたくて。引き止めてすみません、お疲れ様でした」
女性は頭を下げて去っていった。冷静になって思い返せば、思い当たる節はいくらでもある。経理課長の真理を見る目が、部下を見守るだけではないことも。
涼介はゆっくりと車に向かって歩き出した。


久しぶに恋をした。久しぶりではない。あんなに溺れるような恋はしたことがなかった。会えなければ、もどかしさで気が狂いそうだった。
恋は優しいだけではなく、身を焦がすような激しさを含んでいる。
涼介は真理という恋の沼に落ちて抜け出せなくなった。
もう若くない涼介にとって恋は、地獄への泥沼だった。




END
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。 婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。 5話で完結の短いお話です。 いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。 お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...