隣人 (BL、完結)

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番外編

たらればの話 1

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※近◯相姦の話が出てきます。あまり倫理的によろしくない話なので、苦手な方はご注意下さい。



「キリヤさぁ、俺が女の子になったらどうする?」
膝の上に乗せた郁美が振り返って、首を傾げて聞いてきた。理由はわかっている。スマホで男が女性に変身する漫画を読んでいるのを、キリヤは郁美を後ろから抱きしめながら眺めていた。
郁美の後頭部やら首やらを吸いながらそういう空気に持っていこうとしているのに、郁美はスマホをスッスする手を止めなかった。なんなら漫画に嫉妬すらした。
「そういう『たら』とか『れば』の話好きじゃないなぁ。考えても無駄じゃない?」
「うわ。おもんな。つまんない人間」
「わかった。ちょっとまって」
キリヤはわざとうーんと唸ってみせた。面白くないだのつまらない人間だの、不名誉すぎて傷つく。考えてるふりをするキリヤに、郁美の瞳がキラキラと輝き始めた。単純でとっても可愛い。
もしも郁美が女の子だったら。
郁美は細いので胸はない気がする。お尻と太ももはもう少しふっくらするだろうか。女性に比べたら骨っぽい体も若干丸みを帯びるかもしれない。いや、この細さで胸だけはしっかりあるタイプかもしれない。着痩せするというか、いつも大きめの服を着ていてわからないけど脱がせてみたら意外と巨乳、とか。胸が恥ずかしくていつも大きめの服を着てる、とか。それを自分だけには見せてくれる、とか。いやいや、郁美のことだから「知らなかっただろ~」とか言いながら胸を寄せて挑発してくるかもしれない。良い。大変、良い。
「キリヤ、起きてる?」
「………パイプカットするかぁ」
「パイプ…なんて?」
「男側の避妊手術ね。妊娠させたくないし」
「待って。なんで、中出しする前提なの」
「するでしょ。枯れるまで出すよ、そんなもん」
郁美は片手でキリヤを制した。
「そうだった。キリヤ、女の人とも付き合えるんだ。男だけじゃないんだった」
今までも何度かあったが、郁美はキリヤを『男性のことが好きな男性』と思っている。キリヤにとって男との恋愛は郁美が始めてなのだが、中々認識を改めてもらえない。
「さすがに実の子供に手を出すのはまずいでしょ」
「なんか言い出した。何言ってんの?」
「そのくらいの倫理観は持ち合わせてるんだよ、俺も」
自分の遺伝子は置いておいて、もう一人郁美がいると考えたら我慢するのはちょっと難しいと思う。その子が男でも女でも。少女趣味も少年趣味もないので適齢を待つとして、その子と、じっくり年齢を重ねた郁美の二人。そんな二人を前にして手を出さずにはいられるはずがない。
「親子丼」
「何?お腹すいてんの?」
どちらも美味しくいただける。そう考えていたら、うっかり口が滑っていた。気を取り直してキリヤはふと、話しておきたかったことを伝えようと思った。今まで何度か考えていつ話そうかと考えていたことだ。
「いや、そういえばね、話しておきたいことがあって。将来郁美が結婚するかもしれないでしょ?女の人と。郁美に子供ができるかもしれないし、欲しくなるかもしれない」
「たらればの話、嫌いなんじゃないの?」
「これは起こるかもしれない未来の話だから。その時は身を引こうと思ってんの。さすがに子供は俺じゃどうにもできないし」
「うーん、あんま考えたことないけど…」
「でね、郁美に子供ができたら子供にも手を出すけど、そこは了承してほしいんだよね」
「何言ってんの?」
郁美は懸命に話を聞いていたが、一気に顔を曇らせた。曇らせたというか、ドン引いた。
「俺は近所のいいお兄さんって体で近くにいるんだけど、大きくなったら手を出すから。奥さんにも伝えておいてほしいなって」
「え、何?俺の将来を考えてくれてるっていう、いい話じゃないの?これ」
「男でも女でもどっちでもいいから。ぜひ郁美に似た子をお願いしますって奥さんに」
「言うわけないだろ。倫理観の話どこいったの」
「手を出すのは二十歳まで我慢するから。それまでどっか連れ出したりするとかは許してほしいんだ、お父さん」
「うるさいよ。怖…なんの話?これ。怖いんだけど…倫理観極薄じゃん」
「人の倫理観をコンドーム扱い。やめて下さいよ、お父さん」
「うるさいんだよ」
郁美は両肩を抱いて青くなっていた。他の人間に郁美を渡すのは本意じゃない。しかしその相手が女性で、子供も視野に入れているとなったら話は別だ。できればそんなことにはなってほしくないが、郁美の家族も巻き込む未来を縛ることはできない。ひとまず一時、相手の女性に郁美の身柄を預けるしかない。
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