14 / 25
14
しおりを挟む「作らないんじゃなくて、作れないんだよ。作りたいんだけどね…」
最後は小さく呟いた。昴はちゃんと勉強もするんだよ、と余計な一言を置いて去っていった。勇斗はうっとりと頬を染めて昴を見送っている。
「姫を作れないって…どういうことだ?」
ジュンは首を傾げた。昴程の人間であれば、姫を作れないはずがない。松本大翔程でないにしても、昴の姫になりたい生徒はたくさんいる。他の生徒からの人望も厚い。姫を作れない理由はなんだろうか。
「わ、わかん、ない…」
勇斗はうっとりと頬を染めたまま呟いた。昴が何を話していたのかもわかっていないのではないだろうか。
ジュンは心がここにない勇斗を連れ出した。その日は大変、盛り上がるに盛り上がった。昴効果なんだろう。
下半身がスッキリしたジュンは、腹の中がスッキリしなかった。
ジュンは昴の姫について考えた。
昴は姫を作りたいと言っていた。姫にしたい誰か、相手がいるのだろうか。姫にしたい相手は同性ではなく異性のことかもしれない。学外にそういう相手がいるのだろうか。
しかし、それならわざわざ姫という呼称を使うだろうか。それそこ昴の容姿と性格や家柄を持ってすれば、彼女にすることなど容易だろう。
作らないんじゃなくて、作れない。でも作りたい。やはり『姫』はこの学園の『姫』のことで、相手はこの学園の誰か、だ。
一体、姫をつくれない理由はなんなのか。
「ジュン君、僕、着替えてくるね」
「あー…俺も一緒、行くわ」
気づけば授業は終わって勇斗がジャージを抱えて立っていた。ジュンも立ち上がると、傍で笑い声が聞こえた。
「俺も藤野ちゃんにハメたいなぁ~」
随分勇気のある人間もいたものだと声の主を見ようとしたら、嫌な気配を感じた。
松本大翔が禍々しい空気を背負ってやってきていた。発言者の命は失われるのだとジュンは確信する。
しかし松本大翔の前に、藤野佳奈多が姿を見せた。珍しく藤野佳奈多が松本大翔以外の人間に言葉を発している。
「あ、う……あの、や、やめて、悪口…大翔、く、……う、………僕、が、いやだから」
か細い声で聞こえづらかったが、近くにいたジュンには聞こえた。松本大翔の圧のせいだろう。辺りが静まり返っていた。
「す…すみませんでした」
発言者は頭を下げた。藤野佳奈多の後ろで、松本大翔は無表情だが、凄まじい怒りを放っている。
発言者は高校からの編入者だ。藤野佳奈多を舐めてかかり、松本大翔の恐ろしさを知らなかった。ジュンが蹴り飛ばされた姿を見ていない人間だ。夏休み前の山田の取り巻きを殴り倒した事件も噂程度に思っていたのではないか。禍々しい空気を直に感じて、松本大翔を思い知ったのだろう。
「ひろくん、お着替え、行こう」
藤野佳奈多が松本大翔を連れていった。おかげで命拾いした発言者は、恐怖のせいか動くことができないようだ。
いつも松本大翔の影に隠れているだけだった藤野佳奈多が行動に出た。固まって反抗も反論もしなくなった夏休み前までの藤野佳奈多とは違う。
ふと、昴の顔を思い出した。藤野佳奈多と松本大翔を見つめていた、あの時の物欲しげな顔と表情。
姫を作れない、その理由。
姫が既に他の誰かのものになっているのではないだろうか。
もしかしたら、昴の弱みを握れるかもしれない。ジュンはワクワクしていた。
「藤野、お前やるじゃん。かましたな」
「う、…う?」
校庭に出たジュンは藤野佳奈多に声をかけた。驚いて目を丸くしている藤野佳奈多の隣で、松本大翔はきつくジュンを睨みつけている。ジュンの隣では勇斗が青くなっていた。
「次言われたらさ、俺呼べよ。参戦してやっから」
「う…ひ、火鷹、君、…け、喧嘩、しちゃう、でしょ?だめ、だよ」
藤野佳奈多は首を横に振った。言い返した藤野佳奈多に感心したジュンは、次があれば本気で相手を殴り倒してやろうと思っていたのだが、拒否されてしまった。
幼稚園児の頃を覚えているのだろうか。ジュンに対して少し怯えた表情を浮かべている。
「あのさ、聞きたいことあんだけど。藤野って昴と仲いい?」
「う?い、五十嵐、君?え、えと…」
「かなちゃん。あっち行こう」
「待て待て、松本。松本にも聞きてぇんだよ。藤野って昴と仲いい?」
藤野佳奈多の腰を抱いて去ろうとする松本大翔をジュンは引き止めた。行かれてしまっては困る。松本大翔にも聞きたいことがある。
「良くない。行こう、かなちゃん」
「ま、まって、ひろくん…」
「なんか昴から見られてんなぁ~とか、感じたことねぇ?藤野は昴のこと、どう思ってんの?」
松本大翔が足を止めてジュンを見た。
「ひっ」
勇斗が息を呑んでジュンの腕にしがみつく。松本大翔の目が、怒りで煮えたぎっている。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる