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「あー…上着が、ないなぁって、思って」
「上着が、ない?」
「えっ、どろぼう!?」
「他に、盗られたものないですか?」
中を確認すると、上着以外のものは手つかずでロッカーに入っていた。上着だけがこつ然と消えた。ご丁寧に、ロッカーには鍵がかかっていた。合鍵を持っているのか、このロッカーを鍵以外のもので開け締めすることに慣れているのか。そんな手癖の悪そうな人物に心当たりがある。昴は周りの生徒に声をかけた。
「教室に置いてきたのかもしれない。探してみるよ。皆は大丈夫?」
周りにいた生徒の中に、盗難にあった者はいなかった。ないのは昴の上着だけだ。
一緒に探しますと意気込んでくれる生徒に、昴は笑いかける。幾人もの生徒が健気に可愛らしく、昴に媚びてくる。
彼らを姫にはできないのに。
昴は笑顔のまま、ぞろぞろとクラスメイトを引き連れて教室に戻った。
教室にも上着はなかった。遅れて戻ってきた内村勇斗は、クラスメイトに問われて青い顔で目を泳がせた。スマホをの画面を昴から隠して。なるほど、勇斗も絡んでいるのかと昴は思った。口ごもる勇斗に怒る生徒をなだめて、昴は教室を出た。
勇斗はすぐに顔に出てしまう。いつも昴を慕ってくれていて、素直でとても愛らしい。
職員室に行き、担任に上着がなくなったと騒ぎになっていることを伝える。
「大事にはしないで下さい。自分で捨てたので」
「いや、でも、制服、だろう?す、捨てた?」
「はい。転んで引っ掛けて破いて捨ててしまいました。恥ずかしいのでなくなったと嘘をついたら、皆、盗まれたのだと心配してくれて…優しいクラスメイト達です。制服は買い直します。折を見て、見つかったと伝えます」
この一件はきちんと納めるので任せてほしいと伝えると、担任は納得してくれた。五十嵐君が言うなら任せる、と。今までの信頼の積み重ねは、こういう場面で生きる。昴は一礼してその場をあとにした。
正面玄関で車を待っていると、ジュンの家の車が走り去って行った。スモークが貼られた後部座席にうっすらと、ジュンの隣に勇斗の後ろ姿も見えた。
最近、二人はとても仲良くしている。ジュンは前から勇斗に絡んでいたのに、勇斗はちっとも振り向かなかった。ジュンはとてもわかりやすいのに。昴に対してもあからさまな敵意を剥き出しにして、勇斗に昴を近づけさせないように躍起になっていた。そんな二人は今日、ジュンの車でどこかへ行くらしい。
やっぱりか、と昴は思う。
ジュンは己に素直で手段を選ばない。まっすぐに勇斗だけを見つめるジュンを羨ましく思う。昴は迎えに来た車に乗り込んだ。
皆に平等に。恵まれた人間は、特定の誰かを愛してはいけない。
それがまた覆されたのは夏休みに入る直前だった。
山田の取り巻きと松本大翔が衝突し、松本大翔が圧勝した。教師から他言無用だと聞かされた話だ。クラスの委員長であるため、昴の耳に入った。何か異変があればすぐに知らせてほしい、と。スパイのような真似事を頼まれてしまった。成績の下落といい色に狂ってしまったことといい、松本大翔は一体どうしてしまったのか。心配していた昴は驚かされた。
松本大翔と藤野佳奈多はまた二人きりで過ごすようになった。その空気は以前とはガラリと変わっていた。藤野佳奈多が寄り添うように松本大翔のそばにいるようになった。松本大翔も今までの色ボケぶりが嘘のように、小テストで好成績をおさめていた。以前のように、いや、以前にも増して成績を伸ばしている。そして今まで以上に、藤野佳奈多を愛でていた。その表情はとても穏やかで、同一人物かと疑いたくなるほどだった。
夏休みが開けたあともそれは続いた。なんなら夏休みに入る前よりもより親密に、二人はいつも一緒にいた。
それはジュンと勇斗も、だった。勇斗は何度も昴を伺いながら、ジュンの傍にいる。一度、二人に声をかけて逆に勇斗に問われたことがある。
「上着が、ない?」
「えっ、どろぼう!?」
「他に、盗られたものないですか?」
中を確認すると、上着以外のものは手つかずでロッカーに入っていた。上着だけがこつ然と消えた。ご丁寧に、ロッカーには鍵がかかっていた。合鍵を持っているのか、このロッカーを鍵以外のもので開け締めすることに慣れているのか。そんな手癖の悪そうな人物に心当たりがある。昴は周りの生徒に声をかけた。
「教室に置いてきたのかもしれない。探してみるよ。皆は大丈夫?」
周りにいた生徒の中に、盗難にあった者はいなかった。ないのは昴の上着だけだ。
一緒に探しますと意気込んでくれる生徒に、昴は笑いかける。幾人もの生徒が健気に可愛らしく、昴に媚びてくる。
彼らを姫にはできないのに。
昴は笑顔のまま、ぞろぞろとクラスメイトを引き連れて教室に戻った。
教室にも上着はなかった。遅れて戻ってきた内村勇斗は、クラスメイトに問われて青い顔で目を泳がせた。スマホをの画面を昴から隠して。なるほど、勇斗も絡んでいるのかと昴は思った。口ごもる勇斗に怒る生徒をなだめて、昴は教室を出た。
勇斗はすぐに顔に出てしまう。いつも昴を慕ってくれていて、素直でとても愛らしい。
職員室に行き、担任に上着がなくなったと騒ぎになっていることを伝える。
「大事にはしないで下さい。自分で捨てたので」
「いや、でも、制服、だろう?す、捨てた?」
「はい。転んで引っ掛けて破いて捨ててしまいました。恥ずかしいのでなくなったと嘘をついたら、皆、盗まれたのだと心配してくれて…優しいクラスメイト達です。制服は買い直します。折を見て、見つかったと伝えます」
この一件はきちんと納めるので任せてほしいと伝えると、担任は納得してくれた。五十嵐君が言うなら任せる、と。今までの信頼の積み重ねは、こういう場面で生きる。昴は一礼してその場をあとにした。
正面玄関で車を待っていると、ジュンの家の車が走り去って行った。スモークが貼られた後部座席にうっすらと、ジュンの隣に勇斗の後ろ姿も見えた。
最近、二人はとても仲良くしている。ジュンは前から勇斗に絡んでいたのに、勇斗はちっとも振り向かなかった。ジュンはとてもわかりやすいのに。昴に対してもあからさまな敵意を剥き出しにして、勇斗に昴を近づけさせないように躍起になっていた。そんな二人は今日、ジュンの車でどこかへ行くらしい。
やっぱりか、と昴は思う。
ジュンは己に素直で手段を選ばない。まっすぐに勇斗だけを見つめるジュンを羨ましく思う。昴は迎えに来た車に乗り込んだ。
皆に平等に。恵まれた人間は、特定の誰かを愛してはいけない。
それがまた覆されたのは夏休みに入る直前だった。
山田の取り巻きと松本大翔が衝突し、松本大翔が圧勝した。教師から他言無用だと聞かされた話だ。クラスの委員長であるため、昴の耳に入った。何か異変があればすぐに知らせてほしい、と。スパイのような真似事を頼まれてしまった。成績の下落といい色に狂ってしまったことといい、松本大翔は一体どうしてしまったのか。心配していた昴は驚かされた。
松本大翔と藤野佳奈多はまた二人きりで過ごすようになった。その空気は以前とはガラリと変わっていた。藤野佳奈多が寄り添うように松本大翔のそばにいるようになった。松本大翔も今までの色ボケぶりが嘘のように、小テストで好成績をおさめていた。以前のように、いや、以前にも増して成績を伸ばしている。そして今まで以上に、藤野佳奈多を愛でていた。その表情はとても穏やかで、同一人物かと疑いたくなるほどだった。
夏休みが開けたあともそれは続いた。なんなら夏休みに入る前よりもより親密に、二人はいつも一緒にいた。
それはジュンと勇斗も、だった。勇斗は何度も昴を伺いながら、ジュンの傍にいる。一度、二人に声をかけて逆に勇斗に問われたことがある。
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