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第一部 彩葉と竹彪編

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「生理じゃないですか?これ」
昨日も会った先生が頭を悩ませていると、隣の看護師が彩葉の股間を見て言い放った。昨日もいた看護師だ。女性に股間をまじまじと見られて彩葉は恥ずかしいやら嬉しいやら複雑な心境だった。原因不明の出血をしていて感染の危険もあるかもしれないということで、竹彪は待合室で待機している。
悩んでいた医師はポンと手を打つ。
「出血してるの女性器ですし」
「あー、確かに!念のため産科の先生に診てもらいましょう」
彩葉は診察室を移動して別の女医に診察されることとなった。診察台で大股を開いて確認される。何人もの医師やら看護師やらが覗いていて、まるで拷問だった。
「うん、生理でしょうね。子宮がありますからね。初めてだし貧血が怖いから鉄剤と鎮痛剤だしておきましょう」
「本当に男性なんですか?」
「昨日も診察してますから間違いないです」
「これが噂の男性ですか~本当に女性ですねぇ」
「あの…足閉じていっすか」
複数人が股の向こうで股を見ながら喋っている。異様な光景だ。彩葉は股の間から話しかけた。看護師がタオルをかけてくれて、彩葉は身支度を整えた。とはいえ下着もズボンも染みができている。凄惨な光景に白目になった。
「あ、これ女の子用のパンフレットなんだけど、どうぞ。必要なものはここの売店とか、あとドラッグストアでも売ってるからね」
女医が差し出してくれたのは可愛い絵柄の冊子だった。タイトルは『初めての生理』だ。彩葉は再び白目をむいた。そんな彩葉の頭を撫でて、看護師が慰めてくれる。
「個人差あるけど、酷いのは最初の2日くらいだから。痛い時は薬飲んで寝な?あとこのバスタオルあげるから、腰に巻いて帰んなさい」
昨日もいたあの看護師だ。彩葉の男の体もしっている、ボディラインのエロいあの人だった。弱った心に優しさが染み渡る。彩葉は勇気を出して声をかける。
「優しくしてくれて…ありがとうございます。男に戻ったらデートしませんか?」
「お✕✕✕見ちゃったからデートは無理だわ。濡れない。デートするならお友達の子がいいなぁ~紹介してよぉ」
「ぬれっ…ですよね~」
彩葉は看護師を振り切って診察室を後にした。待合室にいるお友達の竹彪に冊子を渡す。竹彪は不安気に彩葉を見たあと、冊子のタイトルを見て吹き出した。
「せっ!せせせせ生理?!」
「童貞みたいな反応」
「いや、お前…お前、生理くんの?!」
竹彪はひたすら生理という単語を繰り返している。彩葉自身も子宮があると言われたものの、まさか生理がくるとは思ってもみなかった。そもそも生理という概念が彩葉の中にはなかった。童貞なのに。というかまさか人生で生理を経験するなんて夢にも思っていなかった。
「うん…赤ちゃんが産める体に、なっちゃった」
彩葉はふと思い出し、広告で出てきたエロ漫画のセリフをそれっぽく言ってみた。上目遣いで竹彪を見ると、竹彪はぐっと喉を鳴らす。
「てめ、生理終わったら覚えとけよ!…あ、やばい下半身に血が」
「おいおい、しっかりしろて!買い物もしなきゃなんねーんだから!…あー腹いてぇ、しんどぉ」
竹彪は真っ青になって倒れそうになっている。彩葉は慌てて竹彪を支えようとするが、彩葉も腹痛で立っていられない。二人はなんとか椅子に腰を下ろして呼吸を整える。
「買い物って、なんだよ」
「そこの売店に売ってるって、これ見て適当に買ってきて。頼む。あと飲み物。薬のむわ」
「…わかった。ちょっと待ってろ」
竹彪はパンフレットを読んで売店へ向かった。飲み物とその他諸々を持って戻ってきた。薬を飲んでしばらくすると、竹彪の呼んだタクシーが来た。会計もなにもかも竹彪に済ませてもらってタクシーに向かう。腹痛と違和感で動きの遅い彩葉を、竹彪はお姫様抱っこで連れて行ってくれた。普段だったらぶっ飛ばしているが、今日ほど筋肉ムキムキの竹彪に感謝したことはない。
「タケがいて良かった…まじ助かる」
「寝てていいぞ。ついたら部屋まで連れてくから」
(はい、キュンです。そらモテますわ。惚れますわ)
彩葉の心臓がトゥンクした。竹彪が女の子にモテる理由がわかった。顔だけではなく、面倒見が良くて世話焼きで優しい。これがモテる男かと、彩葉は身をもって思い知った。
うとうとしているうちに竹彪の自宅についた。目を覚ました彩葉は冊子と竹彪が売店で買ったものを見比べて確認していく。初めて見る生理用品に竹彪となんやかんやと騒ぎながら装着して着替えやらなんやら済ませて一段落した。
「疲れた…女の子ってまじ大変な」
「知りたくなかった。ちょっと立てない」
竹彪は青い顔でへたりこんでいる。本当に血が駄目らしい。竹彪は何度も意識を失いかけていた。
「でもお前、もっと詳しいと思ったわ。彼女いたんだし」
「知るわけねぇだろ。生理の時会わねぇし」
「は?なんで」
「やれねぇからだよ」
「えぇ。引くわ。最低。このゴミクズぅ」
彩葉は竹彪のこめかみを人差し指で突いた。さっきまでの頼りがいのあるなんだかんだ優しい竹彪はどこにいったのか。こういうクズい所も女子を引き付ける魅力なのだろうか。
「誰がゴミクズだ。お前な、」
「あー貧血っぽ。ちょい寝るわ。おやすみ」
竹彪を無視して彩葉は床をはってベッドに向かう。布団をめくったら朝は気づかなかった赤いものがシーツに見えたが、見ないふりをして布団に潜る。
(タケごめん。明日変える)
人の家のベッドを汚した上に、竹彪が寝る時に失神するかもしれない。本当に申し訳ないと思いつつ、彩葉はもう動けなかった。
(なんで女の子になったんだろ…つーか生理て。どうなってんだよ、俺の体)
今更ながら彩葉は自分の体が不思議でしょうがなかった。ただ肉体が変わるだけではなくその性別特有の事象が起きてしまう。そういえば、と彩葉は思い出した。
(男に戻った時は合コン行きたくて男に戻ったし、今回は女装したいと思ったら女の子になったんだ…強く願ったら戻る的な?…男に戻れ、起きたら男に戻ってろ)
彩葉は強く念じながら眠りについた。


結局、彩葉は目覚めても男に戻っていなかった。その上生理は継続していて、昨日よりもしんどい。
「今日大学休む。動けね…」
「じゃあ、俺も休むわ。連絡しとく」
「なんでだよ。お前は行けよ」
「お前一人にして行けねぇだろ」
「おま…そらモテますわ」
彩葉は再度納得した。当然のようにそばにいようとする竹彪が眩しいくらいかっこいい。こういうことをサラッと言えるとモテるのだ。
それに比べて自分ときたら、一体どうしたことだろうか。生理で寝込んで動けなくなっている。情けなくて涙が出てきた。
「とりあえずなんか食って薬…っておい?!なっ、なんで泣いてんだよ!」
「だっで…大学行けねぇし。腹痛ぇし。なんで俺女の子になってんの?生理ってなんだよ!」
彩葉は枕を叩く。悲しいのか腹ただしいのか、彩葉は自分の感情がわからなくなった。とにかくモヤモヤした何かが体の中を渦巻いている。
「お前はいいよな、男だから生理ねぇもん。腹も痛くないし血も出ねぇもんな。なんで俺ばっか、こんな目に合うんだよ!」
竹彪は何も悪くはない。しかし彩葉は自分のモヤついた何かをどう発散したらいいのかわからなかった。このモヤつきを発散したい。彩葉は思いつく限りの不満と暴言を竹彪にぶつけた。
「男に戻りてぇよ…でもお前、女の俺の方がいいんだろ?めちゃくちゃサカってたもんな、回数が全然ちげぇし、男の時と女の時と。わかりやすすぎんだよ、この筋肉ゴリラ!遅漏!」
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