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第四部 みんなでわちゃわちゃ編

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「今日来る子どんな子かな~巨乳かなぁ。タケ、どう思う?」
「合コンか」
「可愛い子だといいな~」
「合コンですか。しっかりして下さい」
彩葉と竹彪、紅葉と松寿は四人揃って病院の一室にいた。彩葉からの提案で、性別が不安定な3人が話し合いをすることになった。医師も立ち会い、共通点やそれぞれにしかない相違点をすり合わせるためだ。
『俺みたいなヤツ、他にもいるなら会ってみたいんだけど。先生なんとかできねぇ?あ、佐々木紅葉は知ってるからそれ以外で』
『そうなんですか?!実はもう一人いるんですよ~いーっすね、病院と本人に掛け合ってみましょう』
彩葉はただの興味本位だったが、思いの外、医師もノリノリで提案に乗ってくれた。一応匿名で病状のみ共有する話し合いだが、彩葉と紅葉はお互いを知っているため、まだ見ぬもう一人にみな浮足立っていた。
外からバタバタ足音と話し声が聞こえる。もう一人がやってきたようだ。ノックの後、扉が開いた。
「まって、まだ心の準備が、」
「でも時間過ぎてるだろ?すみません、遅くなりま…」
入ってきたのは制服を着た二人組だ。二人は室内を見て、松寿と顔を合わせて固まった。
「松「兄ちゃん?!」」
「楓?ウメも、なんでここに…まさかウメ、おまっ…」
「ちげぇよ俺は付き添い!兄ちゃんこそ、まじかよ!」
「違う!俺も付き添い、てことは」
松寿が楓を見ると、楓は梅寿の陰に隠れて頷いた。松寿は両手で口元を抑えて震えだす。
「聞いてないんだけど…なんで俺に教えてくれねぇんだよ、まず一番に俺だろ」
「兄ちゃんにだけは言わないほうがいいかと思って」
「僕が松兄ちゃんにだけは知られたくなかったんだよ。だって絶対変なことするでしょ?松兄ちゃんに知られるなんて絶対、絶っ対、死んでも嫌だったのに…なんでここにいるの?」
「だから付き添い…待って、俺嫌われてる?」
あまりの楓の言い草に松寿は傷ついた。楓は松寿の陰から松寿を睨んでいる。昔はいつも後ろをついて歩いて、あんなに可愛かったのに、なんでこんなに嫌われているのか。過去の楓が遠ざかっていく。
「いや、兄ちゃんよりも!タケさん!お久しぶりです!!」
梅寿は竹彪に向かって腰を直角90度に曲げて深々と頭を下げた。突然の直角お辞儀に彩葉は目を丸くして梅寿をみた。梅寿越しに竹彪を見て、楓もあっ、と声を上げる。
「おー、久しぶりだな。お前、マツの弟だったのか」
「は?ここも知り合い?」
竹彪が梅寿に手を振る。彩葉は竹彪と梅寿を見比べた。
「柔道の道場が一緒だった」
「そうなんす。タケさんめちゃくちゃ強くて、一回も勝てなかったんすよ。まさかまたお会いできるなんて」
梅寿は興奮しながら竹彪に話しかけている。梅寿にとって竹彪は憧れの存在だった。道場の中でも外でも、竹彪はこの地域だと負け知らず。梅寿は一回も勝つことができず、大学進学とともに竹彪は道場に来なくなってしまった。そこで梅寿は気づいた。道場に来なかった理由は、竹彪が楓と同じ状況になったからではないか。
「まさか、タケさん女の子に?!」
「ちげぇわ、俺も付き添い。そういえばその子、よく応援来てた、よな」
竹彪は話しながら気づいた。松寿が片思いをしていた幼なじみは、弟とくっついたと言っていた。その幼なじみはこの子じゃないだろうか。竹彪がそう考えていると、机が衝撃音と共に揺れた。松寿がテーブルを手のひらで叩きつけた音だった。
「タケ、余計なこと言うなよ」
睨む松寿に、察した竹彪は肩をすくめて口を閉ざした。珍しく松寿が感情を乱している。竹彪の想像は正解だったようだ。
「なんだよマツ、イラついてんじゃん。腹減ってんの?プロテインバー食う?」
「それ、俺の…」
「いらねぇよ。ほんでお前んじゃないんかい」
「あの、申し訳ありません、始めさせていただいてよろしいでしょうか」
間を見て医師が声をかけた。楓と梅寿は空いている席につく。
会議用の長テーブルを四角に並べた1辺ずつに医師二人と看護師、彩葉と竹彪、楓と梅寿、紅葉と松寿がそれぞれ座る。医師達と松寿と紅葉が対面に、彩葉竹彪と楓梅寿が対面に座る形になった。医師はいつも診察をしてくれている医師と産婦人科医の二人だ。
「では、簡単に自己紹介をお願いします。名前や年齢などプライバシーに関わる部分はお話いただかなくて結構ですが、みなさんお知り合いのようですね…あ、付き添いの方はご退出いただけますでしょうか」
「えっ?!あの、いてもらっちゃ、だめですか?」
楓は医師の言葉に驚いて、立ち上がる梅寿を腕を引いて止めた。
「いや、でも…」
「だって、僕一人で話せない…ウメちゃん、ここにいて」
楓は不安で涙目になって梅寿を見上げた。どちらかといえば人見知りの楓は、一人この場に残されることが不安でたまらなかった。梅寿がいてくれると心強い。梅寿は立ち上がったまま動かない。
(うるうる涙目の楓が可愛すぎて)
梅寿は動けなかった。
「なんだおい、イチャついてんな…いんじゃね?ここにいる全員お互い知ってるし、聞かれて困る話ねぇし」
紅葉は立ち上がりかけた松寿を無言で引き止めながら、彩葉の言葉に何度も頷いていた。
医師は顔を見合わせながら納得している。彩葉の発言によって、全員がそのまま話し合いに参加することになった。
彩葉は元気よく片手を上げて立ち上がる。
「じゃあまず俺な!黒木です、蜂に刺されて女の子になりました!今日も女の子です!好きなタイプは、巨乳です!!」
「合コンのノリうぜぇ。座っとけ」
「なんだっけ、楓ちゃん?は、何カップかな~?」
「だっる!やめろお前、年下にそういう絡み方」
「楓に変なこと聞くな!あとそれ女の子にウケ悪いからやめろって。黒木、そういうとこだぞ」
彩葉が楓に向かって両手をワキワキしながら話しかけたら、竹彪と松寿に叱られてしまった。場を和まそうとしただけだったのに、楓は胸を隠して首を横に振っている。
彩葉はしょんぼり椅子に座った。
「あ、黒木さん、女性になった日をお伝えいただけますか?あと、月経がきた日やその様子なんかもお伝えいただけたら」
医師が彩葉に問いかけた。彩葉は首を傾げて聞き返す。
「げっけ?…ってなんすか?」
「生理ですね」
「せいっ?!えっ、なに、そんな話すんの?!」
「はい、そういった部分を共有していただこうかと思っています。特に黒木さんは女性化が早かったので、他の方の参考になると思いますよ」
医師はニコニコ笑いながら喋っている。プライバシー云々はなんだったのか、この医師が個人情報を漏らしまくっている気がするが、彩葉はそれどころじゃなかった。彩葉は、今日の会を盛り上げた後はみんなで2次会にカラオケでも行こうと張り切っていた。もう一人は可愛い子がいいなと思っていて実際可愛い子が来たが、こんな生々しい話をするなんてこれっぽっちも思っていなかった。
彩葉は天井を見上げながら懸命に思い出そうと記憶を巡らせる。
「えっ、えぇー?いつって…いつ?えーっとぉ…」
「女になったのが9月1日、生理が来たのが7日」
竹彪がスマホを見ながら答えた。彩葉は医師を見る。
「…だそうです」
「なるほど、月経、生理はどのくらいの期間続きましたか?」
「6日っすね。最初2日は大量でそのあとは量が少しずつ減っ」
「ちょいちょいちょい!おい!べらべらいうなや俺の個人情報だぞ!」
医師の問いに、彩葉ではなく竹彪が答える。彩葉は慌てて止めに入る。
「お前が言わねーからだろ。つーか覚えてねぇだろ、お前」
彩葉はぐっと押し黙った。その通り、具体的な日にちなんてまったく覚えていなかった。それにしてもこの大人数のいる場でそんな話を真顔でベラベラ喋られるなんて恥ずかしいことこの上ない。
そこへ医師が口を挟んでくる。
「すみません、先日から気になっていたのですが、お二人はどういった関係で…」
「どうしてそこまで詳しい日付がわかるのかしら。一緒に暮らしているとか…兄弟?恋人?」
「は?何言っ」
「付き合っててほぼ同棲してます」
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