いざなみさまごっこ

杏樹まじゅ

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【第二章.いざなみのいえ】

【六.初日】

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「いざなみのいえの みなさま。おはようございます。きょうもいちにち いざなみさまと せいぼスカーレットさまにかんしゃして いのちをもやしましょう」

 私は、やたら明るい音楽と、古ぼけたスピーカーから流れるこどもの声で、ベッドから目を覚ます。……ここ、どこだっけ。あいたたた、昨日あのひとに思いっきり殴られた後頭部がずきずきする。私は後ろ頭を押さえながら、不思議そうに辺りを見渡す。今、起き上がったこれは、ベッドだ。やたら埃臭いけど、名古屋の家は布団だったから、ここは家じゃない。……とするとここは……所々剝げ掛けてる若草色の薔薇模様の壁紙。鉄でできたデスク。上には、確か、茜がくれたはずの折りかけの折り紙。鈍重な銀色の鉄の扉。──そうか。この場所、この部屋、思い出した。昨日連れてこられて、赤いドレスの女の子に不思議な葉っぱを噛むように言われて……気が付いたらここに居たのだ。そうだ、茜は何処だろう。

「あさごはんのじかんです。みなさま、ダイニングにいどうしましょう」

 がちゃん。私は、突然の大きな音に驚いてそちらを向いて初めて、施錠された部屋に閉じ込められていたことに気が付いた。扉の向こうからはくすくすと笑うこどもの声と、歩く音、それに馬鹿みたいに明るいマーチが聞こえる。私は、恐る恐る重いドアを開けた。そこには、同い年ぐらいから小学校六年生くらいまでの子供たちが、コンクリートでできた無機質な廊下を歩いている。私は列にこっそり混じって、あの子の姿を探す。……いた、ひまわりのヘアピンがよく似合う、私だけの可愛い茜が。

「おねえちゃん!」

 離れ離れに眠るのは生まれて初めて。私たちはお互い、姉妹の無事を抱きしめて確かめ合った。私は、ぎゅーっと、力いっぱいに妹の体温を、心音を確かめる。この子になにかあったら……よかった、本当に。でも。

「はいはい、月子さん茜さん、列を乱さなーい」

 お母さんと同じくらいの「せんせい」が、まるで私たち姉妹がみんなの行進を邪魔しているかのように急かしてくる。仕方ない、私は茜と一緒に、また歩き始めた。

「きのう、ねむれた?」
「うん……怖かったけど……あかねはへーき!」

 可愛い可愛い妹は無理して笑顔を作る。少し、からかいたくなった。

「おねしょ、したんでしょう」
「してないよー! してないもん!」

 あっははは! 私は笑う。本当によかった。お母さんのもとを離れて教団の「家」で過ごすのは怖かったけれど、小さな四歳の妹はよく耐えてくれた。第一関門はクリアだ。



「熾神月子さんと、茜さんです。お姉さんの月子さんはなんと、いざなみ様のご加護を受けられて、もう開眼なさってらっしゃいます。さ、月子さん、何か自己紹介を」
「あ……えと」

 じこしょうかい。そう言えば幼稚園でもやったことない。でも、みんなが見ている。逃げ出せるような空気じゃなかった。

「おきがみ……つきこです。えと。とくぎは、ひをだすことです」
「素晴らしい! はくしゅー!」

 あの赤いドレスの女の子が大げさにみんなの前で見せつけるように拍手をした。こどもたちも、それに続いた。

「はい、みなさんも一日も早い開眼を目指しましょう。……それではみなさん、いただきます。いざなみ様のご加護があらんことを」
「ごかごがあらんことをー」

 ドレスのその子──スカーレットさま?──は、大仰にスカートをちょっとつまんでお辞儀をする、カーテシーをする。
 へんないただきますだなあ。私はそう思いながら、質素なスプーンでポトフを一口、食べてみる。うえー、なにこれ……私の口の中いっぱいに、昨日噛まされたあの葉っぱの苦い味が広がった。でも、隣の茜はぱくぱくよく食べている。こっそり耳打ちする。

(あかねぇ、よくたべられるね)
「……? おいしーよ?」

 苦い苦い、とてもまずくて食べられない朝ごはん。でも、私はこの時思いもしなかった。本当に辛い地獄が、この先延々と待っているなんて、そんなことは。
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