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【第二章.いざなみのいえ】
【七.聖母様】
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「あらごきげんよう」
私が廊下を歩いていると、声をかけられた。ん、なあに? なんの警戒もせずに振り返ると、あの真っ赤なドレスの女の子がそこに立っている。わあ! 急に抱きついてきた。
「な、なあに?」
「ふふふ、おきがみつきこちゃん? 昨日うわさを聞いてね。なんだかすごい女の子が面接に来てるって。慌てて名古屋の自宅からリムジンで駆けつけたの。その歳でもう開眼してるのね、すごいわあ!」
むぎゅむぎゅ。ぺったんこの胸に顔を埋められて息が苦しい。
「むがむがー」
「あら、ごめんなさい」
ふふ、と笑って、女の子は力を抜いてくれた。その子は、紹介が遅れたわね、そう言って自己紹介を始めた。
「伊佐波・スカーレット・美影。もっぱらここでは聖母様って呼ばれているわ。よろしくね?」
「えと、せいぼさまで……いざなみで……すかーれっとで……」
「美影でいいよ。こう見えて同い年なのよ?」
そう言うとウインクして私の頭を撫でてくれた。
「今日からは貴女のお姉さん代わりになるのよ。困ったことがあったら何でも言ってね」
そしてにんまりと笑ってこう続けた。
「貴女かしら。わたしに地獄の炎を見せてくれるのは」
え? そう言うともっと口角を釣り上げた。
「それとも、妹ちゃんのほうかしらね?」
「聖母スカーレット様」
その子は「せんせい」にそう呼ばれると、はじめからそんなものは無かったかのように、笑顔を消した。
「今月の文部科学大臣の査察についてですが」
「わかった。すぐ行く」
美影は、右手を私に向けてふりふりと振って、こちらを見ずに廊下の角を曲がっていった。私は、ほっぺたのあのぺったんこの胸の感覚を思い出しながら、ひとりでぶつぶつと繰り返していた。
「……聖母様で……同い年で……地獄の炎が? 私か茜で? ……えー?」
けれど私のひ弱な頭は、すぐにパンクした。
◇
おぎゃあ、おぎゃあ。
「ほら、熾神さん、元気な女の子ですよ」
おぎゃあ、おぎゃあ。
「はあっ、はあっ」
おぎゃあ、おぎゃあ。
「おお、よしよし、元気ですねえ」
おぎゃあ、おぎゃあ。
「はあっ、はあっ……あさひ……」
「あら、決まってたんですか。いい名前ね」
おぎゃあ、おぎゃあ。
「あさひ……」
「はっ!」
埃っぽいベッド。所々剝げ掛けてる若草色の薔薇模様の壁紙。鉄でできたデスク。上には、あの日茜がくれた折りかけの折り紙。鈍重な銀色の鉄の扉。──そうか。さっきのは……夢?
でも。あさひって。
誰だっけ。
◇
私が廊下を歩いていると、声をかけられた。ん、なあに? なんの警戒もせずに振り返ると、あの真っ赤なドレスの女の子がそこに立っている。わあ! 急に抱きついてきた。
「な、なあに?」
「ふふふ、おきがみつきこちゃん? 昨日うわさを聞いてね。なんだかすごい女の子が面接に来てるって。慌てて名古屋の自宅からリムジンで駆けつけたの。その歳でもう開眼してるのね、すごいわあ!」
むぎゅむぎゅ。ぺったんこの胸に顔を埋められて息が苦しい。
「むがむがー」
「あら、ごめんなさい」
ふふ、と笑って、女の子は力を抜いてくれた。その子は、紹介が遅れたわね、そう言って自己紹介を始めた。
「伊佐波・スカーレット・美影。もっぱらここでは聖母様って呼ばれているわ。よろしくね?」
「えと、せいぼさまで……いざなみで……すかーれっとで……」
「美影でいいよ。こう見えて同い年なのよ?」
そう言うとウインクして私の頭を撫でてくれた。
「今日からは貴女のお姉さん代わりになるのよ。困ったことがあったら何でも言ってね」
そしてにんまりと笑ってこう続けた。
「貴女かしら。わたしに地獄の炎を見せてくれるのは」
え? そう言うともっと口角を釣り上げた。
「それとも、妹ちゃんのほうかしらね?」
「聖母スカーレット様」
その子は「せんせい」にそう呼ばれると、はじめからそんなものは無かったかのように、笑顔を消した。
「今月の文部科学大臣の査察についてですが」
「わかった。すぐ行く」
美影は、右手を私に向けてふりふりと振って、こちらを見ずに廊下の角を曲がっていった。私は、ほっぺたのあのぺったんこの胸の感覚を思い出しながら、ひとりでぶつぶつと繰り返していた。
「……聖母様で……同い年で……地獄の炎が? 私か茜で? ……えー?」
けれど私のひ弱な頭は、すぐにパンクした。
◇
おぎゃあ、おぎゃあ。
「ほら、熾神さん、元気な女の子ですよ」
おぎゃあ、おぎゃあ。
「はあっ、はあっ」
おぎゃあ、おぎゃあ。
「おお、よしよし、元気ですねえ」
おぎゃあ、おぎゃあ。
「はあっ、はあっ……あさひ……」
「あら、決まってたんですか。いい名前ね」
おぎゃあ、おぎゃあ。
「あさひ……」
「はっ!」
埃っぽいベッド。所々剝げ掛けてる若草色の薔薇模様の壁紙。鉄でできたデスク。上には、あの日茜がくれた折りかけの折り紙。鈍重な銀色の鉄の扉。──そうか。さっきのは……夢?
でも。あさひって。
誰だっけ。
◇
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