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【第二章.いざなみのいえ】
【九.教団】
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くんれんしつ。残りの五人──私たち開眼した子たちがそう呼ぶその部屋は、窓も無く無機質な鉄のデスクとパイプ椅子が一対あるだけの、なにもない部屋。五人ともみんな、怖がって近づかない。なぜならひとたび入った子は、夜遅くまで出してもらえないから。二段階目の本当の教育、それが開眼教育。一回でも体から火を出せた子供は、定期的にこの部屋に閉じ込められる。そして、ありとあらゆる方法を使って、もう一度「発火」できるよう、くんれんと称した虐待が行われていた。
まず、苦い葉っぱ──あのポトフと同じ味の──を噛ませられる。そうすると、頭がふわっとなる。目がチカチカして、コンクリート造りの施設の外を歩く人の、遠い足音まで聞こえるようになる。ついで、お経のようなものが大音量で流れるヘッドホンを着けさせられる。さっきも書いたけど、耳がとても良くなっているから、それだけでものすごい苦痛だ。あげくに、利き腕じゃない方の腕を、机に備え付けられた電極付きの器具で固定させられる。くんれんに「間違え」ると、電気が流れるのだ。涙が出てしまうほどいたくていたくてたまらない、あの衝撃が。
あとは、様々な、本当に色々なことをやらせられる。大事なのは「視線」らしくて、目のトレーニングのようなことが主だ。例えば四重丸が書かれた紙を見せられる。その中心をじいっと見ていなければならない。もちろん、私がほんの少しでも目を逸らすとバチン、電撃だ。それから、殺人現場の写真を見せられる。その後に見せられるのは凶悪な顔をした犯人の写真だ。この怖い人の目を見なくてはならない。私が目を逸らすと電撃。バチン。あの痛み、あのつらさ。泣きたくても助けてほしくても、誰も来てくれない、あの絶望。
けれど私は一度だけ、訓練初日に発火に成功した。それは、バラバラ殺人の犯人を見せられた時だ。燃え上がる写真を見て、「せんせい」は声をあげた。
「月子さん。貴女は特別なのよ。この家の誰よりもいざなみさまに近いの」
そう言って、他の開眼した子は一週間に一度だった「くんれん」も、私だけ二日に一度強制させらせられた。おしっこもうんちも行けない。余りの理不尽と苦痛に、痛くて苦しくて辛くて泣き出すと、葉っぱを噛ませられる。そうすると楽になるのだ。おしっこも、痛いのも、怖いのも忘れられる。
お母さんは、週に一度、日曜日に面会に来てくれた。ろくにご飯も食べてないから、私は骸骨みたいに痩せていた。
「熾神さん、月子さんは素晴らしい子ですよ。いざなみさまに近づくために毎日必死で」
職員の説明に、お母さんも満足げだ。
──つきこ? つきこって。誰だっけ。お母さん。私。痛くて痛くてつらいよ。私、いいこでいるよ。いざなみさまごっこ、もうやめにしたいよ。私のこと、助けてよ。
私はだんだん、自分の名前すら言えなくなってしまっていた。
「ほら、月子さん。今日こそはいざなみさまにもっと近づきましょうね」
私は結局、初日に出せたきり一度として火を出すことは出来ないまま、ひと月が過ぎた。
◇
まず、苦い葉っぱ──あのポトフと同じ味の──を噛ませられる。そうすると、頭がふわっとなる。目がチカチカして、コンクリート造りの施設の外を歩く人の、遠い足音まで聞こえるようになる。ついで、お経のようなものが大音量で流れるヘッドホンを着けさせられる。さっきも書いたけど、耳がとても良くなっているから、それだけでものすごい苦痛だ。あげくに、利き腕じゃない方の腕を、机に備え付けられた電極付きの器具で固定させられる。くんれんに「間違え」ると、電気が流れるのだ。涙が出てしまうほどいたくていたくてたまらない、あの衝撃が。
あとは、様々な、本当に色々なことをやらせられる。大事なのは「視線」らしくて、目のトレーニングのようなことが主だ。例えば四重丸が書かれた紙を見せられる。その中心をじいっと見ていなければならない。もちろん、私がほんの少しでも目を逸らすとバチン、電撃だ。それから、殺人現場の写真を見せられる。その後に見せられるのは凶悪な顔をした犯人の写真だ。この怖い人の目を見なくてはならない。私が目を逸らすと電撃。バチン。あの痛み、あのつらさ。泣きたくても助けてほしくても、誰も来てくれない、あの絶望。
けれど私は一度だけ、訓練初日に発火に成功した。それは、バラバラ殺人の犯人を見せられた時だ。燃え上がる写真を見て、「せんせい」は声をあげた。
「月子さん。貴女は特別なのよ。この家の誰よりもいざなみさまに近いの」
そう言って、他の開眼した子は一週間に一度だった「くんれん」も、私だけ二日に一度強制させらせられた。おしっこもうんちも行けない。余りの理不尽と苦痛に、痛くて苦しくて辛くて泣き出すと、葉っぱを噛ませられる。そうすると楽になるのだ。おしっこも、痛いのも、怖いのも忘れられる。
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──つきこ? つきこって。誰だっけ。お母さん。私。痛くて痛くてつらいよ。私、いいこでいるよ。いざなみさまごっこ、もうやめにしたいよ。私のこと、助けてよ。
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