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27 ベッティとウィリアム
しおりを挟む「ほら、あの子よ」
「ああ、子爵令嬢と勝手に名乗ったとか」
「そうそう、マルクス公爵令息と妹の公爵令嬢にも親戚だと絡んだとか」
「恥ずかしいわね、身分もわきまえず」
「とうとう子爵家からも追い出されたらしいわよ」
「そりゃそうよ、あんな問題を起こして、さすがに面倒見てられないだろう」
声を潜めることなく、噂されているのは、子爵家から学園の寮に移動させられたベッティだ。
貴族科の生徒は、公爵家の子息であるフリッツとシャーロットへの無礼な態度、王族である第2王子への不敬を見ていたため、関わり合いになりたくない、とベッティの事は見ないようにしている。
一般科の生徒は、そんな貴族科の生徒の態度を敏感に感じ取り、ベッティからは距離をとっている。
(どうしてよ、どうしてあたしがこんな目に合わないといけないの?
単に親戚と仲良くしようとしただけなのに・・・。
それに、家から追い出されて寮に入れられるなんて、ひどいわ。
使用人もいないし、あんな狭い部屋だなんて)
寮の部屋は一人で使うため、小さなベットと机、衣装棚が置いてあるだけの狭い空間になっている。
子爵家で使っていた部屋とは格段に違う。
そして、平民であるベッティに使用人はつかない。
洗濯は決まった日に部屋の外においておけばよいし、食事も食堂があるので問題はない。
だが、部屋の掃除などは自身で行わないといけない決まりなのだ。
もちろん、貴族でも使用人をつけられない家だと、同じように過ごしているのだが、子爵家で使用人のいた生活が忘れられないベッティは、不満たらたらだった。
クラスでも、遠巻きにされている。
一般科の生徒はいずれ侍女やメイド、女官や従者、執事などを目指している。
早々に貴族科の生徒に迷惑をかけたベッティと仲良くして、将来を棒に振りたくないのだ。
結局ベッティは一人で過ごしている。
食堂も人目が気になり、外で一人で食べることになってしまった。
ため息をつきながら食事をしていると、誰かが来た気配がした。
「何故こんなところで一人でいるのだ」
声をかけてきたのはウィリアムだった。
「あの・・・あたし、みんなから避けられていて」
「何故だ」
「えっと、その、親戚と仲良くしようと声を掛けたら、貴族と平民だからと言われて・・・」
ベッティはそう言いながら涙ぐんでいた。
「ここは学園なのだから、そんな身分差で一人を孤立させるのは間違っているな」
「ウィリアム様、一方の話だけ聞いて判断するのはいかがかと」
側近なのか側にいた生徒がウィリアムをたしなめた。
「しかし、一般科の女生徒がわざわざ嘘をつくか?」
「そんな事はわかりません。個人の思い込みで話している可能性もあります」
うーん、とウィリアムは考え込んでいる。
「お前の名前は?」
「ベッティ、です」
「家名はないのだな」
「あの、あたし、子爵家にいたんですが、こないだ追い出されてしまって・・・」
「追い出された?ひどいな」
「それで、今は家名を名乗れないんです」
「ふーん、元の家名はなんだ?」
「ラーウズです」
「聞いたことあるな?」
「騎士団副団長様の家名です」
「あー、ロバートの家名か、道理で聞き覚えがあった。
あそこに娘はいたか?ライナスしか知らんな」
「あたしは後妻の子で・・・」
「へー、で、親戚とは誰だ?」
「マルクス公爵家です」
「は?マルクス公爵家?」
「ウィリアム様、マルクス公爵の弟がラーウズ子爵です」
「なるほど、それは親戚にあたるな」
「なのに、あたしは親戚じゃないっていわれて・・・」
「なんでだろう」
ウィリアムは純粋に何故だろう?と思った。
この時のウィリアムは夢の中のような性質ではなくなっていた。
それは、マルクス公爵から王家にウィリアムの教育についての助言があったためだ。
夢の中で、辺境伯領に行っても矯正されず、自分の思うがままにふるまい、シャーロットを傷つけたウィリアムは、公爵家にとっては危険な存在だった。
そのため、マルクス公爵は王や王妃、エマーリア、ロバート達と相談をして、ウィリアムの矯正方法を考えた。
辺境伯領に送ることは決まった。
ただし、王族としてではなく、警備隊見習いの一人として送られた。
辺境伯には、見習いとして扱うように王命をくだした。
もちろん、他の者に身分を明かすことは禁止した。
ウィリアム本人にも、身分を明かした場合、王族からの追放、場合によってはそのまま国外に追放することを誓約書にサインをさせた。
当然、ウィリアムはかなり反抗したのだが、ロバート達騎士団に叩きのめされ、無理やりサインさせられたのだ。
その後も、辺境伯領の道中も、見習として他の者と同じ扱いをされた。
もちろんその度に不平不満を漏らし、暴れるのだが、護衛と見張りに付き添っていた騎士団に叩きのめされ、罰を受けることになる。
それを繰り返していくと、次第に自分の現状が理解できるようになり、見習として見よう見まねで仕事をするようになってきた。
そのうち、身分を知らない他の見習とも打ち解けていき、その境遇に徐々に慣れて行った。
それにつれて、狭い視野が広がり、今までの自分を振り返ることができるようになったのだ。
そんな変化を遂げたウィリアムは今のベッティの話を聞いても、一足飛びにシャーロット達の所へ行くようなことはなかった。
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