25歳の俺とJKギャルの恋は、社会的にアウトですか?

黒猫

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第7話 「雨の下で近づく距離」

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 週の半ば、水曜日。
 午前中から雲行きは怪しかったが、仕事を終えて会社を出た瞬間、予想通りの土砂降りだった。
 傘は持ってきていない。朝は晴れてたから油断していた。

「……最悪」

 駅前のコンビニでビニール傘を買おうと向かっていると、前方で見慣れた金髪が揺れていた。
 ――ひなたちゃんだ。

 制服のスカートは膝上まで濡れ、白いシャツが肌に貼りつきそうなくらい。
 にもかかわらず、傘を持たずに立ち尽くしてスマホを操作している。

「ひなたちゃん!」

 声をかけると、彼女はびくっと肩を震わせて振り向いた。

「し、しょ、翔真さん!? なんでこんなとこに!?」
「いや、そっちこそ。雨の中で何してんだよ」
「バス待ってたんだけど……さっき行っちゃって、次まで二十分とか無理すぎ」

 肩まで濡れた髪を手で払いながら、困った顔をする。
 俺は駅ビルの軒下に入り、傘立てから一本だけ残っていたビニール傘を取った。

「ほら、入れ」
「えっ、でも……」
「ずぶ濡れで帰るよりマシだろ」

 彼女は一瞬ためらったが、結局俺の隣に滑り込むようにして傘に入った。
 雨粒がビニール越しにポタポタと弾け、二人の肩が触れそうな距離。
 というか、ひなたちゃんが妙に近い。

「……もうちょっと離れてもいいぞ?」
「やだ。半分濡れるじゃん」
「そりゃそうだけど」

 言い訳のように呟く声が、雨音に混じって耳元で響く。



 商店街を抜ける道は、雨のせいで人通りが少なかった。
 傘の中は妙に静かで、俺と彼女の息遣いと、雨のリズムだけが響く。

「そういえばさ、この間の抹茶アイスどうだった?」
「うまかったよ」
「ふーん」
「……またそれか」
「ふふっ、クセになってきた」

 笑いながら見上げてくる顔は、文化祭のときよりもずっと近い距離にあった。
 俺は慌てて視線を前に戻す。

「そういえば、今日は弟くんは?」
「タケル? 塾。あ、そうだ、タケルがまた翔真さんと遊びたいって」
「……お、おう」

 タケルと妙に気が合ったことを思い出し、少し頬が緩む。



 駅近くの交差点で、ひなたちゃんが足を止めた。
「ここでいいよ。家近いし」
「じゃあ傘持ってけよ」
「え、でも翔真さん濡れるじゃん」
「俺は平気だ」

 押しつけるように傘を渡すと、彼女は小さく「ありがと」と呟いた。
 しかし、受け取った後もしばらくその場に立っている。

「……あのさ」
「ん?」
「この前の夜、公園で会ったでしょ」
「ああ」
「また……ああいう感じで話したいなって」

 言い終えると、ひなたちゃんは視線を逸らし、傘を傾けて走り出した。
 ビニール越しに見える背中が、雨に霞んでいく。

 俺はしばらくその場で立ち尽くし、雨音だけを聞いていた。
 胸の奥で、小さな波紋が広がっていくのを感じながら。
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