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第四部 以下、事件の真相に触れる箇所が……
水沼の手記 3
しおりを挟む水沼の手記 3
そうか、会長の本名――苗字の方だが――、それはずっと伏せるのが、ルールなんだったな。まあ、俺もそれは守ってきたつもりだが――。えーと、あ、ちゃんと近藤君と書いているな。実際は〇〇君だったわけだ。〇〇勝男――。
どうもややこしくて……まあ、いいや、先に進めよう。
まあ本名なんて小説上どうでもいいが、俺の苗字――は晒される、そういうわけだな。まあ、お前の本名も佐藤稔なわけだし……。
同姓同名というのはめんどくさいもんだ……。
佐藤稔=鹿野信吾=尾崎諒馬は小説家でございまして、小説として、ある意味勝手に二人の良美の会話をでっちあげる。流石だね……。
一方の佐藤稔=水沼=坂東善――つまり俺は何だろう? まあ、ただの素人だよ。近藤メディボーグ、いや〇〇メディボーグか、まあどっちでもいいだろう――とにかくその会社の主任研究員であって、小説家ではないさ。ただの素人。それはしょうがないじゃないか。
佐藤稔――つまり俺は、近藤良美――いや、〇〇良美か、どっちでもいいだろう、どっちでも同じだ――と結婚した。それは隠すつもりはもうない。
その近藤良美――あ、結婚したから佐藤良美か――つまり俺の奥さんには弟、勝男がいて――それが俺が前書いた近藤君なわけだが――その勝男を良美ちゃん――あれ、俺は彼女の苗字――つまり旧姓を知らないな、まあいいや――その二人が結婚すると俺の妻佐藤良美に義理の妹ができる。そういうことだ。まあ、俺にとっても義理の妹と言えるのかな?
とにかく俺と良美ちゃんと最初に逢ったのは、妻良美の紹介だった。
「この可愛い娘、良美ちゃん。私の弟の――」そう言って妻は笑ったっけ……
「ごめん、私の弟の婚約者、つまり今度妹になるの。義理だけど。つまり弟が結婚すればね。可愛いでしょ? ほんと」
そういって屈託なく豪快に笑う女だった。
信吾、お前も彼女――俺の奥さんと以前付き合っていたんだろう? 「思案せり~」と「死者の微笑」の良美のモデルなんだろう? 実際の性格はまるで違うが……。
そして「死者の~」の目黒秀明のモデルが近藤会長だったわけだ。ミステリー作家ではないし、病死もしてないがね。
「思案せり~」でデビューした後、近藤会長と知り合って、いろいろ相談したりしてたんだろう? 妻から少しは聞いているよ。まあ、妻の良美は近藤家から脱出してたが、それでも少しは連絡取り合っていたようだからな。近藤会長は娘の良美――俺の妻を溺愛してた。それから……
これ以上、俺に書かせる気か?
俺の妻、良美の臍の左には手術痕がある。
お前も知ってたんだろう?
そして、離れのバスルームの遺体――いや、あれは人体模型だったんだろう? そしてその臍の左には手術痕はなかったんだろう?
俺は二階の遺体――あれは本当に遺体だった――の臍の付近は見ていない。遺体はうつ伏せだったしな。
とりあえず、今のところはこれで勘弁してくれ。
次はお前の番だ。
俺は「虚無への供物」は読んでいない。
いや、途中までは読んだかもしれないが……
アイヌがどうしたとか……
浴室が密室で洗濯機がどうしたとか……
せいたか? こんがら?
なんか少し憶えてはいるところもあるが……
アンチ・ミステリーというのもよくわからない。
まして「世界の悪意のすべて」云々もピンとこない。
すまんな。せっかく水沼なんて名前を付けてもらっておきながら……
ここは南国で北海道じゃないんだ。
氷は解けて水になる。沼はドロドロなんだよ。
すまん、少し疲れたよ。
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