殺人事件ライラック (ブリキの花嫁と針金の蝶々)

尾崎諒馬

文字の大きさ
82 / 155
第五部 アンチ・ミステリーに読者への挑戦状は付くか否か?

しばらく経った頃、外にいた

しおりを挟む

   しばらく経った頃、外にいた

 しばらく経った頃、首猛夫は外にいた。少し前に黒服と合言葉を交わし、彼を先に帰らせた。かわいそうに黒服はすっかり怯え切っていて何の役にも立たなかったのだから。
 外で事の成り行きを窺っていると、母屋から男が一人出てきた。顔を知っているその男がそのまま母屋の裏に回り、しばらくして手にナタを持って帰ってきた。
 ――チェーンを壊すのだろうか?
 果たして、その男は二回の打撃でチェーンを破壊したらしく、ふらふらしながらも離れのドアを開けて中に入っていった。
 そのまま少し時間が経過した。離れには何の動きもない。中を覗いて見ようとしたが、もう一人の顔を知らない男が母屋からやってきたので、再びライラックの茂みに身を隠した。
 顔を知らないその男は妙に落ち着き払っていてそのまま離れに入っていった。
「尾崎さんがバケツの花嫁になって死んでます! 更に母屋で良美ちゃんが首を切られて死んでます!」
 その大声は確かに外まで聴こえてきた。そしてしばらくすると、顔を知っている男に肩を貸しながら外に連れ出してきた。
 続いて再び中に入り、ゴミ袋を抱えて外に出る。
「気が付いて警察に電話されるとまずいからな」
 確かにそう言って顔を知らない男は顔を知っている男のたもとから携帯電話を奪ってしまった。そうしてゴミ袋を手に持って母屋に戻っていく。
 顔を知らない男は気絶しているようなので、思い切って近づく。そしてわかった。
 ――尾崎諒馬だ!
 首猛夫は尾崎諒馬の新聞のインタビュー記事で顔を知っていた。その尾崎諒馬が気絶して座り込んでいる。
 と、尾崎諒馬が苦し気な声を出した。
 意識を取り戻しそうだったので、慌てて茂みに身を隠す。
 尾崎諒馬は再びナタを手にし、ふらふらと母屋に戻っていった。

 さて、二人が母屋に戻ったので首猛夫は離れの中を確認する。
 奥のベッドに浴衣姿の首無しの遺体。仰向けで胸には深い傷があった。心臓を抉るとまではいかないが、明らかに抉ろうとしたような傷だ。少なくとも少しの肉片と心臓の一部、胸骨の欠片かけらくらいは抉られていたと思われる。
 首無し遺体は勝男に違いないが、念のため、会長に電話をして、勝男の身体の特徴を聞き出そうとした。会長は本当に勝男を殺せたのかどうか? それとも間違って別の男でも殺してしまったのか? と不安げに聞いてきた。勝男の顔をしっかり憶えていたんだろう? と責められもした。
 仕方がないので、遺体の浴衣の裾を捲ってショーツもずらし、臍のかなり下、男性器のすぐ上に特徴のある傷を発見し、それを会長に告げた。
 ――勝男に間違いない。
 絞り出すように会長がそう言った。更に泣くような声で「ありがとう。ご苦労だった」と感謝の言葉を掛けてくれた。
 ――首は持って帰ってくれ。
 会長はそうも言った。
 勝男を成功裏に始末できた際、その証拠として首を持ち帰ること――それが会長の命令だった。勝男の首を探す必要があった。
 会長への報告電話を切ったあと、簡単に離れの中を調べた。遺体はベッドの勝男だけで、生首はどこにもなかった。勝男が持ち込んだ生首も勝男自身の生首も。おそらく――

 あのゴミ袋……
 
 床にドレスとバケツ……
 そして鬼の面……
 それに凶器と思われる牛刀が……
 バスルームには胸が血だらけの首のない人体模型とポリ袋。
 
 と、外が騒がしくなったので、慌ててベッドの下に隠れる。
「本当に社長も殺されたのか? バスルームのあれは? 死体が全部で三つ? え?」
 顔を知らない方の男のわめく声がする。離れの中に入ってきたようだ。だが、すぐに出ていく。外で尾崎諒馬と何やら怒鳴り合っていたが、最後鈍い音がして静かになった。
 ベッドの下から這い出し、外に出てみると尾崎諒馬と顔を知らない男が二人とも倒れていた。ハンマーとナタが転がっていることから、二人で殴り合い、相打ちになったようだ。
 二人の手首に手を当ててみるが、両者とも脈はあった。
 首猛夫が殺し屋でなければ救急車を呼ぶところだが、それはできなかった。すべては秘密裏に処理しなければならなかった。とりあえず、顔を知らない男の浴衣の袂から携帯電話を二個取り上げた。
 ――警察に電話されるとまずいからな。
 それでどうするか? 最終的に会長に伺いを立てるつもりだったが、その前に状況の把握が必要だった。それで母屋の二階も確認することにした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣人意識調査の結果について

三嶋トウカ
ホラー
「隣人意識調査を行います。ご協力お願いいたします」 隣人意識調査の結果が出ましたので、担当者はご確認ください。 一部、確認の必要な点がございます。 今後も引き続き、調査をお願いいたします。 伊佐鷺裏市役所 防犯推進課 ※ ・モキュメンタリー調を意識しています。  書体や口調が話によって異なる場合があります。 ・この話は、別サイトでも公開しています。 ※ 【更新について】 既に完結済みのお話を、 ・投稿初日は5話 ・翌日から一週間毎日1話 ・その後は二日に一回1話 の更新予定で進めていきます。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...