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解決編
首猛夫は返事をしなかった
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首猛夫は返事をしなかった
尾崎凌駕に「あなたは何者です?」と訊かれ首猛夫は返事をしなかった。
「あなたが勝男を殺した?」
「ええ、動画で見たでしょう?」
「いや、しかし……」
「確かに二十数年前の映像ですが、私が勝男を殺しているのは確かです。それは見ればわかると思うのですが……」
「しかし、あなたは顔が変わっている。やけどを負って……。だから僕には映像に映った犯人とあなたが同じ人物なのかわからない……」
首猛夫は絶句した。
いや、正確には首猛夫と名乗る男は絶句した。
「あなたは誰です?」尾崎凌駕が尋ねる。
「私の顔にやけど?」質問に答えずそう呟く。
しかし、尾崎凌駕は黙っている。
二人の目に少し涙がにじんでいた。
「今日はここまでにしませんか?」首猛夫が消え入りそうな声で言った。
「そうですね。まああの映像は刺激が強すぎましたしね。医者なのに情けない」
「密室トリックの解明は流石でした」
「でも……」尾崎凌駕は何かを言い掛けたが首を横に振った。
一言二言会話を交わして部屋を出る。
「また、連絡します。たぶんですが……」
「で、あなたは誰なんですか?」
最後再び尾崎凌駕が問う。
首猛夫がそれに答えると……
首猛夫――
少し前は藤沢と名乗っていた。
本名は尾崎凌駕に話しているが……
確かに殺し屋――コードネーム首猛夫の本名はそれだが、まだ明かすことはできない。
明かせるのは……
顔にやけどの痕……
いや……
首猛夫の顔には酷いやけどの痕はあっただろうが……
あと……
尾崎凌駕の密室トリックの解明は確かによくできていると思う。正直、このミステリーの解決編として採用したいほどだ。しかしおかしな部分はまだある。
ということは事実は違うということかもしれない。
涙が止まらない……
薄々わかってはいたが……
こんなことを書く資格がないことは百も承知なんだが……
涙が止まらない……
解決編に入っても迷走を続ける、この殺人事件ライラック~
二十数年前、殺人事件が書けない「ミステリー作家失格」を自認する本格ミステリー作家が殺人事件に巻き込まれる。
現実をそのまま書いてそれで小説――そういう純文学に気触れたミステリー作家が殺人事件に巻き込まれる。
殺人事件?! 嘘! 何たる幸運!
果たしてそう思ったのだろうか?
そんなことはない!
まあ、それより……
殺害現場の事件発生時の明瞭な映像が残っていて……
それを見てもなお真相がわからない……
そもそも、その映像がディープ・フェイク――つまり生成AIが作り出した虚構ではない証明はできるのだろうか?
二〇二五年現在、生成AIを駆使すれば――
トイレに行って鏡を見る……
顔に酷いやけどの痕……
いや……
最後、尾崎凌駕と交わした会話を思い出す。
「ところで、あなたは何者です?」
「私は……人殺しです」
もうそれだけで十分だ……
「読者への挑戦」の要素は、本格ミステリーの一つの特徴であり、読者に対して公正なプレイを約束するものです。読者が探偵と同じ情報を持っていることで、フェアな推理ゲームが成立し、読者も探偵の一員として物語を楽しむことができます。
前にAIがそう言っていた……
この物語の探偵は尾崎凌駕だ……
但し、名探偵ではなくて迷探偵ではあるが……
尾崎凌駕は読者と同じ情報を持っている……
確かにそういうことだ……
ノックス 八
探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない。
やはり無理があった。
今更だが、退場するしかないかもしれない……
トイレでまじまじと自分の顔を見る。
「お前は誰だ?」
鏡にむかって……
「おまえは誰だ?」と言い続けていると……
徐々に頭がおかしくなり……
完全に狂ってしまうらしい……
そういう都市伝説があったな……
このトイレにもう一人誰かいて……
そいつと鏡越しに目があった……
そうとでもしておこうか……
――退場するしかない……
――やつにバトンタッチするか……
それと最後に一つ……
ヴァンダイン 十四
殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはいけない。例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。
いや、これは大丈夫……
しかし……
尾崎凌駕に「あなたは何者です?」と訊かれ首猛夫は返事をしなかった。
「あなたが勝男を殺した?」
「ええ、動画で見たでしょう?」
「いや、しかし……」
「確かに二十数年前の映像ですが、私が勝男を殺しているのは確かです。それは見ればわかると思うのですが……」
「しかし、あなたは顔が変わっている。やけどを負って……。だから僕には映像に映った犯人とあなたが同じ人物なのかわからない……」
首猛夫は絶句した。
いや、正確には首猛夫と名乗る男は絶句した。
「あなたは誰です?」尾崎凌駕が尋ねる。
「私の顔にやけど?」質問に答えずそう呟く。
しかし、尾崎凌駕は黙っている。
二人の目に少し涙がにじんでいた。
「今日はここまでにしませんか?」首猛夫が消え入りそうな声で言った。
「そうですね。まああの映像は刺激が強すぎましたしね。医者なのに情けない」
「密室トリックの解明は流石でした」
「でも……」尾崎凌駕は何かを言い掛けたが首を横に振った。
一言二言会話を交わして部屋を出る。
「また、連絡します。たぶんですが……」
「で、あなたは誰なんですか?」
最後再び尾崎凌駕が問う。
首猛夫がそれに答えると……
首猛夫――
少し前は藤沢と名乗っていた。
本名は尾崎凌駕に話しているが……
確かに殺し屋――コードネーム首猛夫の本名はそれだが、まだ明かすことはできない。
明かせるのは……
顔にやけどの痕……
いや……
首猛夫の顔には酷いやけどの痕はあっただろうが……
あと……
尾崎凌駕の密室トリックの解明は確かによくできていると思う。正直、このミステリーの解決編として採用したいほどだ。しかしおかしな部分はまだある。
ということは事実は違うということかもしれない。
涙が止まらない……
薄々わかってはいたが……
こんなことを書く資格がないことは百も承知なんだが……
涙が止まらない……
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現実をそのまま書いてそれで小説――そういう純文学に気触れたミステリー作家が殺人事件に巻き込まれる。
殺人事件?! 嘘! 何たる幸運!
果たしてそう思ったのだろうか?
そんなことはない!
まあ、それより……
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それを見てもなお真相がわからない……
そもそも、その映像がディープ・フェイク――つまり生成AIが作り出した虚構ではない証明はできるのだろうか?
二〇二五年現在、生成AIを駆使すれば――
トイレに行って鏡を見る……
顔に酷いやけどの痕……
いや……
最後、尾崎凌駕と交わした会話を思い出す。
「ところで、あなたは何者です?」
「私は……人殺しです」
もうそれだけで十分だ……
「読者への挑戦」の要素は、本格ミステリーの一つの特徴であり、読者に対して公正なプレイを約束するものです。読者が探偵と同じ情報を持っていることで、フェアな推理ゲームが成立し、読者も探偵の一員として物語を楽しむことができます。
前にAIがそう言っていた……
この物語の探偵は尾崎凌駕だ……
但し、名探偵ではなくて迷探偵ではあるが……
尾崎凌駕は読者と同じ情報を持っている……
確かにそういうことだ……
ノックス 八
探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない。
やはり無理があった。
今更だが、退場するしかないかもしれない……
トイレでまじまじと自分の顔を見る。
「お前は誰だ?」
鏡にむかって……
「おまえは誰だ?」と言い続けていると……
徐々に頭がおかしくなり……
完全に狂ってしまうらしい……
そういう都市伝説があったな……
このトイレにもう一人誰かいて……
そいつと鏡越しに目があった……
そうとでもしておこうか……
――退場するしかない……
――やつにバトンタッチするか……
それと最後に一つ……
ヴァンダイン 十四
殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはいけない。例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。
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