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第一章〜商店街は妖怪騒ぎの巻〜
その③
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「もう大丈夫よ。本当に大丈夫なのよ。」
とっくに体調を持ち直していたむすびちゃんは、少女によって用意された寝床から起き上がった。
よくよく見たら、自分の服装はちゃんちゃんこに、首にはねぎが巻かれている。
台所では少女がお粥を作っていた。
「そんな、もうちょっと休んでいた方がいいんじゃ?」
「ちょっとしたら治るやつだから、こんなに大事にしなくてもいいのよ…」
彼女は確実に一人前とは思えない量の米を炊いている…
「デザートもありますからね」
―私の腹を破裂させる気だろうか?
「それよりもあなたの事情を聞きたいわ」
「はい、そうですね。まずは助けてくれてありがとうございました」
「私は小梅です」
「小梅ちゃんね。わたしはむすびよ」
「むすびお姉ちゃんですね。そうだ、なんか湯呑みとかせんべいとか色々散らかってたんで片づけておきましたよ!」
「ありがとう。それで…」
「むすびお姉ちゃんの頭に付いてる鈴って重そうですね!儀式とかに必要なものですか?」
「いや、これはただのアクセサリーで…」
「あっ、卵粥でよかったですか?アレルギーとかあると困りますし」
「…小梅ちゃん、町に何か悪いことが起こったのでしょう?先に訳を話してくれないかしら?」
首に巻かれたねぎを外しながら問うと、小梅はぼろぼろと涙を流し始めた。
「そうでした!私こんなことしてる暇ないんです!」
コンロの火を切り、むすびちゃんと向き合う。
「実は昨日の夜、町から大人がいなくなったんです!」
「なんですって!」
小梅は膝から崩れ落ち、泣きじゃくっている。
「おおお落ち着いて。消えたのは大人だけ?」
「はい、町に残されたのは子供だけ。お母さんもお父さんもどこにいるか分からなくて…友達もみんな困っているんです。」
「神隠しね…まだ危害を与えられてないだけましかな」
「それだけじゃなく、今妖怪たちに商店街を乗っ取られているんです!」
「なんですってーっ!(二回目)」
むすびちゃんたちが住む町、磯ヶ浜(いそがはま)。
海のそばに広がるこの町は、潮風香る、のどかで賑やかなところであり、その中心となる場所がなぎさ商店街であった。
笑顔が絶えない場所。まさかよりによってそこが襲われているなんて。
「それで縁乃姫様にお願いしようと思ってここに来たんです!縁乃姫様に会わせてください!」
小梅は涙目、上目遣いでこちらの反応を健気に待っている。
「えっと…」
この子は今その縁乃姫サマが不在なことを知らないのだろうか?
「縁乃姫様はお出かけなさっているのよ。もう一週間くらいになるかな」
「そんなーーっ⁉」
おそらく、縁乃姫がいなくなり、ここら辺の結界の力が弱まったのをいいことに、悪い物の怪が好き勝手しているのだろう。
まさか町、そして神社にまで被害が及ぶほど弱まっているとは思わなかったが…
これは一刻も早くなんとかしなくてはいけない状況である。
ただ、縁乃姫が今どこにいるのか、いつ帰ってくるのか分からないし、巫女としての力もまだ半人前で、自分じゃ町全体を守るような広範囲の結界を張ることなんてできない。
「じゃあ、もう一生お母さんやお父さんに会えないんですね…うう…お店はどうしよう…一人じゃ継げないし…」
「そうね、これは万事休すね…」
自分には何もできない。
でも、
「だからといって、困っている人を見捨てるほど私は薄情な巫女じゃないわ」
在りし日の縁乃姫の姿が脳裏に浮かぶ。
あの方は、困っている人を誰一人として見捨てることがなかった。
「いいですか、結。この神社に来た方の祈りに、できる限り応えるのです」
「たくさんの方の力になれば、あなたもきっと、一人前の巫女になれますよ」
どうすべきかはもう、とっくに決まっている。
「むすびお姉ちゃん…?」
不安そうな眼差しでこちらを見つめる。
「大丈夫。私がなんとかする。神様なんていなくたって…」
「この世に蔓延る悪しきもの、私が祓ってしんぜよう!」
「むすびちゃんにおまかせよ!」
「もう大丈夫よ。本当に大丈夫なのよ。」
とっくに体調を持ち直していたむすびちゃんは、少女によって用意された寝床から起き上がった。
よくよく見たら、自分の服装はちゃんちゃんこに、首にはねぎが巻かれている。
台所では少女がお粥を作っていた。
「そんな、もうちょっと休んでいた方がいいんじゃ?」
「ちょっとしたら治るやつだから、こんなに大事にしなくてもいいのよ…」
彼女は確実に一人前とは思えない量の米を炊いている…
「デザートもありますからね」
―私の腹を破裂させる気だろうか?
「それよりもあなたの事情を聞きたいわ」
「はい、そうですね。まずは助けてくれてありがとうございました」
「私は小梅です」
「小梅ちゃんね。わたしはむすびよ」
「むすびお姉ちゃんですね。そうだ、なんか湯呑みとかせんべいとか色々散らかってたんで片づけておきましたよ!」
「ありがとう。それで…」
「むすびお姉ちゃんの頭に付いてる鈴って重そうですね!儀式とかに必要なものですか?」
「いや、これはただのアクセサリーで…」
「あっ、卵粥でよかったですか?アレルギーとかあると困りますし」
「…小梅ちゃん、町に何か悪いことが起こったのでしょう?先に訳を話してくれないかしら?」
首に巻かれたねぎを外しながら問うと、小梅はぼろぼろと涙を流し始めた。
「そうでした!私こんなことしてる暇ないんです!」
コンロの火を切り、むすびちゃんと向き合う。
「実は昨日の夜、町から大人がいなくなったんです!」
「なんですって!」
小梅は膝から崩れ落ち、泣きじゃくっている。
「おおお落ち着いて。消えたのは大人だけ?」
「はい、町に残されたのは子供だけ。お母さんもお父さんもどこにいるか分からなくて…友達もみんな困っているんです。」
「神隠しね…まだ危害を与えられてないだけましかな」
「それだけじゃなく、今妖怪たちに商店街を乗っ取られているんです!」
「なんですってーっ!(二回目)」
むすびちゃんたちが住む町、磯ヶ浜(いそがはま)。
海のそばに広がるこの町は、潮風香る、のどかで賑やかなところであり、その中心となる場所がなぎさ商店街であった。
笑顔が絶えない場所。まさかよりによってそこが襲われているなんて。
「それで縁乃姫様にお願いしようと思ってここに来たんです!縁乃姫様に会わせてください!」
小梅は涙目、上目遣いでこちらの反応を健気に待っている。
「えっと…」
この子は今その縁乃姫サマが不在なことを知らないのだろうか?
「縁乃姫様はお出かけなさっているのよ。もう一週間くらいになるかな」
「そんなーーっ⁉」
おそらく、縁乃姫がいなくなり、ここら辺の結界の力が弱まったのをいいことに、悪い物の怪が好き勝手しているのだろう。
まさか町、そして神社にまで被害が及ぶほど弱まっているとは思わなかったが…
これは一刻も早くなんとかしなくてはいけない状況である。
ただ、縁乃姫が今どこにいるのか、いつ帰ってくるのか分からないし、巫女としての力もまだ半人前で、自分じゃ町全体を守るような広範囲の結界を張ることなんてできない。
「じゃあ、もう一生お母さんやお父さんに会えないんですね…うう…お店はどうしよう…一人じゃ継げないし…」
「そうね、これは万事休すね…」
自分には何もできない。
でも、
「だからといって、困っている人を見捨てるほど私は薄情な巫女じゃないわ」
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あの方は、困っている人を誰一人として見捨てることがなかった。
「いいですか、結。この神社に来た方の祈りに、できる限り応えるのです」
「たくさんの方の力になれば、あなたもきっと、一人前の巫女になれますよ」
どうすべきかはもう、とっくに決まっている。
「むすびお姉ちゃん…?」
不安そうな眼差しでこちらを見つめる。
「大丈夫。私がなんとかする。神様なんていなくたって…」
「この世に蔓延る悪しきもの、私が祓ってしんぜよう!」
「むすびちゃんにおまかせよ!」
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