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児童誘拐殺人事件 篇
虎形拳
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咥えていた煙草を吐き捨て、デュランは腰を低く落とすと両の掌を交差して前に突き出し、十指を力強く曲げた。
虎爪と呼ばれる南派少林拳、虎の構え。形意拳が一つ虎形拳。
デュランが昔、師と仰いだ恩人から教わった拳法だ。師の亡き後、自己流のアレンジが混ざりに混ざり、中国拳法が持つしなやかで洗練された部分は殆ど消え、代わりに虎形拳の持ち味である力強い野性味と荒々しい攻撃性だけが残った。
「ウオオオオオッ!」
デュランは赤い髪を振り乱しながら銃を向ける輩を次々と素手で薙ぎ倒していく。本物の虎さながらの強烈な虎爪の一振りは肉を軽く抉り、骨を容易にへし折る。掌を向き出しにする独特の構えは打撃にはもちろん防御に転じることにも優れており、相手の放った拳や蹴りをそのまま受け止めることも可能。デュランの場合、特に虎形拳と相性が良かったのは彼の持つ天性の強力な握力にあった。
デュランの握力は最高で二百キロを優に超える。その指が目や喉を襲うのだから、まともに受ければひとたまりもない。それは正しく猛虎の爪であり顎であった。
「あーあ、完全にキレちゃってるよ。ああなるともう手がつけられないんだよね」
ウィリアムは深い溜息を吐く。気が短く喧嘩っ早いのはいつものことだが、虎形拳を使って暴れることは滅多にない。ボロ雑巾のように千切られ、ブン投げられている彼らには悪いが、こうなった以上、デュランの気が済むまで暴れさせるしかない。敵味方の区別がついていない今、ヘタに止めに入ればこちらが害を被る。誰だって興奮している肉食獣の檻に入りたくはない。
今の内に溜まった洗い物でも済ませておこうと店内へ戻ろうとした時、先ほど助けた少女が店の入口に立っているのに気づいた。
「おっと、レディ。今は危ないから外に出ない方がいいよ。お兄さんと一緒に中に戻ろう?」
ウィリアムはすっかり見慣れたが、この凄惨な光景は子供の教育には非常によろしくない。そう思い、少女を店内へと促すが、少女は首を横に振ってこれを拒んだ。仕方がないのでウィリアムも少女の傍で観戦することにした。
肉が潰れる音。骨が折れる音。血潮が吹き出し飛び散る音。阿鼻叫喚。荒れ狂う獣の前に武装していた連中は悉く倒れていく。最後に立っていたのはリーダー格の男。震える手で必死に銃を構えるが、悪鬼のようなデュランの金色の瞳に射竦められ、遂には腰を抜かして銃を手放した。それでもデュランの殺気は消えなかった。
ムシケラでも見下すような冷たい視線で怯える男にゆっくりと近づいていく。
「ひ、ひぃぃぃい! ま、待ってくれ! 悪かった。だから命だけは――」
恐怖に顔を歪ませる男はデュランに口を掴まれ、そのまま顎を万力のようにギリギリと締め上げながら片手で持ち上げられた。
「一つ、教えといてやるよ。ここの連中が銃を抜かなかったのはな。俺がここでチャカをハジくなって常日頃から釘を刺していたからなんだよ。お前らがここに辿り着くまで五体満足でいられたのは単に運が良かっただけだ。そうじゃなかったら、お前らみたいな何も知らねえ田舎モンのチンピラ風情はとっくにあの世逝きだ」
男を持ち上げているデュランの腕に徐々に力が加わっていく。みしみしと骨が軋む音が響いた。あと僅かでも力を入れれば、男の顎骨は粉々に砕けるだろう。
「そんで、お前の運はここまでだ。子供を売り物にするクソ野郎には本当の地獄がお似合いだ」
指先を鋭く伸ばして男の左胸へとあてがった。デュランの抜き手はコンクリートブロックを貫く破壊力を持っている。その気で突けば人体などビスケットを半分に割るのと同じくらい容易く壊すことができる。
デュランが「あばよ」と呟くのと、ウィリアムが「危ない」と叫んだのは、ほぼ同時だった。
虎爪と呼ばれる南派少林拳、虎の構え。形意拳が一つ虎形拳。
デュランが昔、師と仰いだ恩人から教わった拳法だ。師の亡き後、自己流のアレンジが混ざりに混ざり、中国拳法が持つしなやかで洗練された部分は殆ど消え、代わりに虎形拳の持ち味である力強い野性味と荒々しい攻撃性だけが残った。
「ウオオオオオッ!」
デュランは赤い髪を振り乱しながら銃を向ける輩を次々と素手で薙ぎ倒していく。本物の虎さながらの強烈な虎爪の一振りは肉を軽く抉り、骨を容易にへし折る。掌を向き出しにする独特の構えは打撃にはもちろん防御に転じることにも優れており、相手の放った拳や蹴りをそのまま受け止めることも可能。デュランの場合、特に虎形拳と相性が良かったのは彼の持つ天性の強力な握力にあった。
デュランの握力は最高で二百キロを優に超える。その指が目や喉を襲うのだから、まともに受ければひとたまりもない。それは正しく猛虎の爪であり顎であった。
「あーあ、完全にキレちゃってるよ。ああなるともう手がつけられないんだよね」
ウィリアムは深い溜息を吐く。気が短く喧嘩っ早いのはいつものことだが、虎形拳を使って暴れることは滅多にない。ボロ雑巾のように千切られ、ブン投げられている彼らには悪いが、こうなった以上、デュランの気が済むまで暴れさせるしかない。敵味方の区別がついていない今、ヘタに止めに入ればこちらが害を被る。誰だって興奮している肉食獣の檻に入りたくはない。
今の内に溜まった洗い物でも済ませておこうと店内へ戻ろうとした時、先ほど助けた少女が店の入口に立っているのに気づいた。
「おっと、レディ。今は危ないから外に出ない方がいいよ。お兄さんと一緒に中に戻ろう?」
ウィリアムはすっかり見慣れたが、この凄惨な光景は子供の教育には非常によろしくない。そう思い、少女を店内へと促すが、少女は首を横に振ってこれを拒んだ。仕方がないのでウィリアムも少女の傍で観戦することにした。
肉が潰れる音。骨が折れる音。血潮が吹き出し飛び散る音。阿鼻叫喚。荒れ狂う獣の前に武装していた連中は悉く倒れていく。最後に立っていたのはリーダー格の男。震える手で必死に銃を構えるが、悪鬼のようなデュランの金色の瞳に射竦められ、遂には腰を抜かして銃を手放した。それでもデュランの殺気は消えなかった。
ムシケラでも見下すような冷たい視線で怯える男にゆっくりと近づいていく。
「ひ、ひぃぃぃい! ま、待ってくれ! 悪かった。だから命だけは――」
恐怖に顔を歪ませる男はデュランに口を掴まれ、そのまま顎を万力のようにギリギリと締め上げながら片手で持ち上げられた。
「一つ、教えといてやるよ。ここの連中が銃を抜かなかったのはな。俺がここでチャカをハジくなって常日頃から釘を刺していたからなんだよ。お前らがここに辿り着くまで五体満足でいられたのは単に運が良かっただけだ。そうじゃなかったら、お前らみたいな何も知らねえ田舎モンのチンピラ風情はとっくにあの世逝きだ」
男を持ち上げているデュランの腕に徐々に力が加わっていく。みしみしと骨が軋む音が響いた。あと僅かでも力を入れれば、男の顎骨は粉々に砕けるだろう。
「そんで、お前の運はここまでだ。子供を売り物にするクソ野郎には本当の地獄がお似合いだ」
指先を鋭く伸ばして男の左胸へとあてがった。デュランの抜き手はコンクリートブロックを貫く破壊力を持っている。その気で突けば人体などビスケットを半分に割るのと同じくらい容易く壊すことができる。
デュランが「あばよ」と呟くのと、ウィリアムが「危ない」と叫んだのは、ほぼ同時だった。
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