9 / 20
ロザリアの苦難
しおりを挟む
(学園? 寮生活? なにそれ。聞いてないのだが……)
このままこの屋敷で過ごしつつ、現世に戻れるか試みようと考えていた矢先に蒼天の霹靂。慌ててアネモネに真偽を尋ねる。
「……今お父様が仰ったことはどこまで本当ですの?」
「どこまでも何も、徹頭徹尾全て真実です。お嬢様は三ヶ月後にセントラル王国にあるルミナス学園へ入学される予定となっております」
「三ヶ月後に入学って、試験もあるのでしょう? わたくしこの世界の学問を全く知らないのだけれど……」
「それなら心配には及びません。お嬢様は元々おバカ……いえ、勉学が不得手でいらっしゃったので旦那様が既に学園側に手を回しております」
その言葉が麻倉の心に種火を灯した。
「お父様、わたくしの入学試験について少々お聞きしたいことが」
「おお、そのことか! 万事心配ない。既に学園側に支払う金銭は用意してある。お前はなんの苦労もなく由緒正しきルミナス学園へ——」
「それ、やめていただけませんか?」
ロザリアは父の目を真っ直ぐ見つめ。否、睨み付けるようにそう告げた。
「なっ、何故だロザリア!? 私はお前の為を思って……」
「娘の為を思うのならば、なにゆえその娘を信じないのですか。裏口入学なんて卑怯な手を使うなんて、きちんと勉強して試験に望む者たちに失礼です。わたくしはそんな汚いエリート街道など歩みたくありません」
「そ、それは困る! 我がマルグス家は代々闇属性の魔法を扱う貴族。その才能はこの世界で唯一魔法学を教えているルミナス学園でしか伸ばすことは出来ん。私も、お前のお祖父様も代々そうしてきて今の地位を守って来たのだ。それにお前の婿となる男もルミナス学園に通う貴族からと決めているのだ」
「そうよロザリア! 考え直してちょうだい!」
両親の必死ぶりからよほど学園に通うことが重要なことだとわかる。しかし、呑気に学園生活を謳歌する気は毛頭ない。この二人には申し訳ないが、入学の話はこれで有耶無耶にして部屋を出て行こうと思い立ったその時、アネモネが口を開いた。
「旦那様、奥様。ご心配なさらないで下さい。お嬢様は裏口入学を拒んでいるだけでございます。つまり、他の者たちと同じく正規のルートで筆記試験と魔術試験を受けて合格を目指すと申しているのです」
(なっ、なにぃぃぃいいい!?)
まさかの伏兵。
こちらの事情を全て腹を割って話し、陰ながら支えてくれていた味方と思っていたアネモネが放った予想外の一言。麻倉は預けていた背中を仲間にナイフで刺されたかのような錯覚に陥った。
必死に否定の声を振り絞ろうとするも、肺に酸素が入っていかず今度はロザリア自身が鯉のように口をぱくぱくさせている。
「そっ、それは確かに立派な心掛けだがロザリアの学力では……」
不安で顔が青ざめている父親。
それに対し、アネモネは自身たっぷりに答えた。
「幸いなことに本番までまだ三ヶ月もございます。これから毎日私がお嬢様のチューターとしてみっちり試験勉強を行ないます。そうと決まれば早速お部屋で試験勉強ですお嬢様。それでは旦那様、奥様。私たちはこれで」
ポカンとしている両親を大広間に残し、同じ顔をしているロザリアの手を引いたアネモネはロザリアの部屋へと向かったのだった。
このままこの屋敷で過ごしつつ、現世に戻れるか試みようと考えていた矢先に蒼天の霹靂。慌ててアネモネに真偽を尋ねる。
「……今お父様が仰ったことはどこまで本当ですの?」
「どこまでも何も、徹頭徹尾全て真実です。お嬢様は三ヶ月後にセントラル王国にあるルミナス学園へ入学される予定となっております」
「三ヶ月後に入学って、試験もあるのでしょう? わたくしこの世界の学問を全く知らないのだけれど……」
「それなら心配には及びません。お嬢様は元々おバカ……いえ、勉学が不得手でいらっしゃったので旦那様が既に学園側に手を回しております」
その言葉が麻倉の心に種火を灯した。
「お父様、わたくしの入学試験について少々お聞きしたいことが」
「おお、そのことか! 万事心配ない。既に学園側に支払う金銭は用意してある。お前はなんの苦労もなく由緒正しきルミナス学園へ——」
「それ、やめていただけませんか?」
ロザリアは父の目を真っ直ぐ見つめ。否、睨み付けるようにそう告げた。
「なっ、何故だロザリア!? 私はお前の為を思って……」
「娘の為を思うのならば、なにゆえその娘を信じないのですか。裏口入学なんて卑怯な手を使うなんて、きちんと勉強して試験に望む者たちに失礼です。わたくしはそんな汚いエリート街道など歩みたくありません」
「そ、それは困る! 我がマルグス家は代々闇属性の魔法を扱う貴族。その才能はこの世界で唯一魔法学を教えているルミナス学園でしか伸ばすことは出来ん。私も、お前のお祖父様も代々そうしてきて今の地位を守って来たのだ。それにお前の婿となる男もルミナス学園に通う貴族からと決めているのだ」
「そうよロザリア! 考え直してちょうだい!」
両親の必死ぶりからよほど学園に通うことが重要なことだとわかる。しかし、呑気に学園生活を謳歌する気は毛頭ない。この二人には申し訳ないが、入学の話はこれで有耶無耶にして部屋を出て行こうと思い立ったその時、アネモネが口を開いた。
「旦那様、奥様。ご心配なさらないで下さい。お嬢様は裏口入学を拒んでいるだけでございます。つまり、他の者たちと同じく正規のルートで筆記試験と魔術試験を受けて合格を目指すと申しているのです」
(なっ、なにぃぃぃいいい!?)
まさかの伏兵。
こちらの事情を全て腹を割って話し、陰ながら支えてくれていた味方と思っていたアネモネが放った予想外の一言。麻倉は預けていた背中を仲間にナイフで刺されたかのような錯覚に陥った。
必死に否定の声を振り絞ろうとするも、肺に酸素が入っていかず今度はロザリア自身が鯉のように口をぱくぱくさせている。
「そっ、それは確かに立派な心掛けだがロザリアの学力では……」
不安で顔が青ざめている父親。
それに対し、アネモネは自身たっぷりに答えた。
「幸いなことに本番までまだ三ヶ月もございます。これから毎日私がお嬢様のチューターとしてみっちり試験勉強を行ないます。そうと決まれば早速お部屋で試験勉強ですお嬢様。それでは旦那様、奥様。私たちはこれで」
ポカンとしている両親を大広間に残し、同じ顔をしているロザリアの手を引いたアネモネはロザリアの部屋へと向かったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる