異能力と妖と短編集

彩茸

文字の大きさ
上 下
38 / 42
診断メーカー短編

『拝啓、過去の自分へ』

しおりを挟む
【誠のお話は「意図せず漏れた溜息に、傍らのその人が顔を上げた」で始まり
 「きっと大丈夫だって、今なら言える」で終わります。】



―――意図せず漏れた溜息に、傍らのその人が顔を上げた。

「どうした?」

 ボクの初めての友達が、そう言って首を傾げる。

「ん~・・・何でもない。暇だなーって」

 そう言うと、彼はそっかと言って持っていた本に視線を戻す。
 他の友達が買い出しに行っている間、留守番を頼まれていた。久々に集まった
 のだ、買い物組も積もる話があるのだろう。

「何読んでるの?」

 そう言って本を覗き込むと、彼は言った。

「父さんに借りた小説。俺が好きな内容かもって渡されてさ」

「ふーん・・・」

「気になるのか?」

 ボクが本を覗き込み続けていると、彼はページを捲る手を止め聞いてくる。
 頷くと、彼は言った。

「これ、過去に戻った主人公が過去の自分に助言して人生を変えようとするって話
 なんだ」

「面白い?」

「まあ、それなりには」

 彼はページを捲る。どうやら丁度過去の自分に接触している場面のようで、現実に
 抗おうとしている過去の主人公に現在の主人公が助け舟を出していた。

「・・・こんなこと出来たら、もうちょいマシな過去になってたのかな」

 ふと、彼は言う。ふわりと漂ってきた彼の悲しいニオイに、何だか自分まで悲しく
 なってきた。

「過去の自分に助言してたら、もっと早くかずくんと出会えてたかもね」

 ボクはそう言って笑う。・・・もっと、君を早く救えていたかもしれない。
 信じていると言いつつも拒絶を恐れていた自分に、何か言うことが出来たのかも
 しれない。

「過去の自分に何か言えるとしたら、何て言いたい?」

 ページを捲った彼に、ボクは聞く。少し悩んだ彼は、小さな声でボソリと言った。

「自分を信じろ・・・かな」

 まことは?と君はボクを見る。いざ聞かれると悩んでしまう、ボクは昔の自分に何て
 言おう。
 君と出会って、変わった日々。友達が増えた今、ボクは何を伝えられるだろう。

「・・・怖がらなくて良いよ、かな」

 ボソリと言うと、君は少し意外そうな顔をする。ボクだって、凄く勇気を出して
 君に話し掛けたんだよ?
 まあでも、そのおかげで今がある。だから、昔の自分に伝えられる。
 ・・・きっと大丈夫だって、今なら言える。
しおりを挟む

処理中です...