27 / 59
第二章 スローライフ希望のはずなのに、毎日それなりに忙しいのだが?
26.ずっと一緒④ 【side ハクタカ】
しおりを挟む
「アリア!」
いい気分で手招きし隣に座らせ、詳しい説明も無しに魚を取り分けたものをアリアに持たせる。
するとそれを一口食べたアリアが
「美味しい!!」
と期待に外れず幸せそうに頬を抑えた。
いい気分になって。
いつものようにアリアの頭を撫でる振りをして、アリアの長くなった髪に触れれば。
そんな俺の下心に気づいたカルルが、これ見よがしにやれやれと肩を竦めるのが見えた。
◇◆◇◆◇
気のいい船員のくだらない話に腹を抱えて笑った時だった。
「アリア、探したよ。夏とは言え、甲板は冷えるだろう? もう遅い時間だ、部屋に戻ろう」
突然姿を現したミストラルが、そう言って脱いだ自身の上着をアリアの肩にかけると、躊躇うことなくアリアの手に触れ立ち上がらせた。
せっかく楽しくやっていたというのに。
忘れていたムカムカ感が一気に再燃する。
だがまぁ、ミストラルの言う事ももっともだ。
『お休み』
そう言って離れないとと思ったのに……
「行くな」
気が付けば思考とは反対に体が勝手に動いて。
ミストラルに手を引かれ、背を向けようとしたアリアの手を強く掴んで強引に俺の胸元に引き込んでいた。
そうなると酔いも手伝ってかもうどうにも自分を止められなくて。
醜い嫉妬を露わにアリアを腕の中に隠したまま、アリアにかけられたヤツの上着を思い切り投げ返した。
一触即発。
そう感じた周囲が、俺とミストラルを見てゴクッと固唾を飲んだその時だった。
「やれやれ」
そんな風に呆れ顔を装いつつミストラルがその口角をニヤッと上げて見せた。
この嗤い方……。
はっとして周りを見渡せば先ほどまでカルルが化けて居た水夫の姿はやはりどこにも無かった。
「……嵌めたな」
そうカルルを睨みつけ小さい声で言えば、
「お礼はまた今度でいいよ」
ミストラルの恰好をしたまま、カルルはヘラヘラッと嗤って手を振り他の皆を連れて船室へと引き上げていった。
◇◆◇◆◇
さて、どうしたものか。
アリアのを離せぬまま途方に暮れ溜息をつけば、アリアが俺の腕の中で小さく藻掻いた後、子猫の様にスポっと顔を出した。
「ハクタカ?」
俺の醜い思いなど、気づきもしないのだろう。
いつもの通り愛らしい声で無邪気に名前を呼ばれ気まずく何も答えらえない。
「……酔ってる?」
そう尋ねられ
『あぁ、そうかも』
そう答えて逃げてしまおうかと思った時だ。
『本気になれていない奴ほど後で辛い目を見るぞ?』
そう言ったカルルの声と、アリアの手の甲に口付けたミストラルの姿が浮かんで来て
「酔ってない」
精一杯の勇気を振り絞ってそう答えた。
それが悪かった。
声に出してそう宣言してしまった瞬間、自分の気持ちを改めて自覚してしまい、思いが溢れてどうしようもなくなってしまうのが分かった。
その苦しい思いを少しでもいいからアリアに分かって欲しくて、でもアリアを怖がらせたりしないよう気を付けてゆっくりその頬に触れれば、アリアの頬に触れた指が、自分の意思を持ってしまったかのように勝手に動いた。
自分の親指がその汚れない唇を無遠慮になぞる様は信じられないくらい卑猥で
「アリア……好きだよ。俺、アリアを守れるようもっと強くなるって誓うから。絶対もう逃げないって誓うから。だから……これからもずっと俺の傍に居てよ」
醜い思いを隠したそんな綺麗事で、今はもうただ触れたいのだと懇願した。
◇◆◇◆◇
いつか絶対カルルに、こんな場所で煽った制裁を科してやる。
触れ合うだけのキスをした後で、そんな事を努めて考え必死に理性を呼び戻していたら、アリアが不意に目を閉じ俺の胸にその身を預け言った。
「ずっとずっと一緒にいてね」
昔パーティーに居た時、同じような事をアリアから言われた時のほろ苦い記憶が蘇る。
その時の俺は色々な事から逃げてばかりいたから、アリアからそう言われた時、本当はそう言ってもらえたことが嬉しくて仕方がなかった癖にそれに応える事は出来なかった。
でも、今違う。
「あぁ、約束する」
改めて強くアリアの事を抱きしめそう誓えば、無意識なのだろうか?
アリアがほんの少し無邪気さを抑えたあの時より少し大人になった顔で綺麗に笑って見せてくれたから。
俺はアリアに気づかれぬよう、こんなところで煽ったカルルを再度心の底から呪うのだった。
いい気分で手招きし隣に座らせ、詳しい説明も無しに魚を取り分けたものをアリアに持たせる。
するとそれを一口食べたアリアが
「美味しい!!」
と期待に外れず幸せそうに頬を抑えた。
いい気分になって。
いつものようにアリアの頭を撫でる振りをして、アリアの長くなった髪に触れれば。
そんな俺の下心に気づいたカルルが、これ見よがしにやれやれと肩を竦めるのが見えた。
◇◆◇◆◇
気のいい船員のくだらない話に腹を抱えて笑った時だった。
「アリア、探したよ。夏とは言え、甲板は冷えるだろう? もう遅い時間だ、部屋に戻ろう」
突然姿を現したミストラルが、そう言って脱いだ自身の上着をアリアの肩にかけると、躊躇うことなくアリアの手に触れ立ち上がらせた。
せっかく楽しくやっていたというのに。
忘れていたムカムカ感が一気に再燃する。
だがまぁ、ミストラルの言う事ももっともだ。
『お休み』
そう言って離れないとと思ったのに……
「行くな」
気が付けば思考とは反対に体が勝手に動いて。
ミストラルに手を引かれ、背を向けようとしたアリアの手を強く掴んで強引に俺の胸元に引き込んでいた。
そうなると酔いも手伝ってかもうどうにも自分を止められなくて。
醜い嫉妬を露わにアリアを腕の中に隠したまま、アリアにかけられたヤツの上着を思い切り投げ返した。
一触即発。
そう感じた周囲が、俺とミストラルを見てゴクッと固唾を飲んだその時だった。
「やれやれ」
そんな風に呆れ顔を装いつつミストラルがその口角をニヤッと上げて見せた。
この嗤い方……。
はっとして周りを見渡せば先ほどまでカルルが化けて居た水夫の姿はやはりどこにも無かった。
「……嵌めたな」
そうカルルを睨みつけ小さい声で言えば、
「お礼はまた今度でいいよ」
ミストラルの恰好をしたまま、カルルはヘラヘラッと嗤って手を振り他の皆を連れて船室へと引き上げていった。
◇◆◇◆◇
さて、どうしたものか。
アリアのを離せぬまま途方に暮れ溜息をつけば、アリアが俺の腕の中で小さく藻掻いた後、子猫の様にスポっと顔を出した。
「ハクタカ?」
俺の醜い思いなど、気づきもしないのだろう。
いつもの通り愛らしい声で無邪気に名前を呼ばれ気まずく何も答えらえない。
「……酔ってる?」
そう尋ねられ
『あぁ、そうかも』
そう答えて逃げてしまおうかと思った時だ。
『本気になれていない奴ほど後で辛い目を見るぞ?』
そう言ったカルルの声と、アリアの手の甲に口付けたミストラルの姿が浮かんで来て
「酔ってない」
精一杯の勇気を振り絞ってそう答えた。
それが悪かった。
声に出してそう宣言してしまった瞬間、自分の気持ちを改めて自覚してしまい、思いが溢れてどうしようもなくなってしまうのが分かった。
その苦しい思いを少しでもいいからアリアに分かって欲しくて、でもアリアを怖がらせたりしないよう気を付けてゆっくりその頬に触れれば、アリアの頬に触れた指が、自分の意思を持ってしまったかのように勝手に動いた。
自分の親指がその汚れない唇を無遠慮になぞる様は信じられないくらい卑猥で
「アリア……好きだよ。俺、アリアを守れるようもっと強くなるって誓うから。絶対もう逃げないって誓うから。だから……これからもずっと俺の傍に居てよ」
醜い思いを隠したそんな綺麗事で、今はもうただ触れたいのだと懇願した。
◇◆◇◆◇
いつか絶対カルルに、こんな場所で煽った制裁を科してやる。
触れ合うだけのキスをした後で、そんな事を努めて考え必死に理性を呼び戻していたら、アリアが不意に目を閉じ俺の胸にその身を預け言った。
「ずっとずっと一緒にいてね」
昔パーティーに居た時、同じような事をアリアから言われた時のほろ苦い記憶が蘇る。
その時の俺は色々な事から逃げてばかりいたから、アリアからそう言われた時、本当はそう言ってもらえたことが嬉しくて仕方がなかった癖にそれに応える事は出来なかった。
でも、今違う。
「あぁ、約束する」
改めて強くアリアの事を抱きしめそう誓えば、無意識なのだろうか?
アリアがほんの少し無邪気さを抑えたあの時より少し大人になった顔で綺麗に笑って見せてくれたから。
俺はアリアに気づかれぬよう、こんなところで煽ったカルルを再度心の底から呪うのだった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる