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第三章 刺激的なスローライフ

27.スローライフとは??

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村に帰ってしばらく経った頃――

「ねぇ、やることなくて退屈だから私もスローライフしてみたい! スローライフって何したらいいの?」

アリアにそんなことを聞かれた。


『のんびりした時間の中で人生を楽しむ』

それがスローライフ☆

だから『退屈だからスローライフする』って。
既に色々矛盾が生じているような気がするのだが、俺の勘違いだろうか??


「そ、そーだな……。手間と時間をかけて料理するとかどうだ?」

生活の質を高めていくのもまたスローライフ。

いい案を思いついたと、アリアにそういえば。

「えー」

アリアが興味ないと首を横に振った。

まぁ、その反応には納得だ。
食べ盛り(?)のアリアと俺の食事に関するモットーは『安い! 早い! 旨い!』
コース料理のような手の込んだものは、正直喰った気がしないことを前回の船旅で痛感したばかりだ。


退屈を紛らわせる刺激的なスローライフ……。

一体何かあったかなと、忙しく薪割りの手を動かしながら一人考えて時だった。

「ハクタカ! さっき村の人からいい事聞いた!! 動物! 動物飼って育てるのもスローライフだって!!」

アリアがそんなことを言いながら、ぐいと俺の顔の前に一匹のひよこを突き出しながら言った。

「この子が大きくなったら、この子の産んだ卵でタマゴサンド出来るかな?!」

「残念だが、きっとそのヒヨコは雄だ。卵は産まないと思うぞ。それにうちにはシューがいるだろう? シューとそのヒヨコを一緒にしてみろ。目を離した好きに、シューのおやつになるに決まってる。悪い事は言わないから返してきなさい」

「えーーー!!」




口をとがらせながら、アリアがヒヨコを返しに行ってから半刻後。

「ハクタカ!!」

走って帰ってきたアリアが、また目をキラキラ輝かせながら言った。

「古い家の修理! 前にローザに退屈だって手紙で相談したら、さっき返事が返ってきて、良かったらローザの家の古い実家を修繕してしばらく一緒に住まないかだって!!」


ふむ、古民家再生か。

今あるものを修繕し大切に使い、自然と寄り添いながら季節の移ろいを楽しむのもまたスローライフ醍醐味だ。

俺は本格的な大工のスキルは持ちあわせていないけれど、日曜大工は割と得意だ。
現にここもボロボロになっていた小屋を借りて住めるまでに出来た訳だし。

「ローザの頼みだ、行ってみるか」






◇◆◇◆◇

一月後――

すっかり世話になった村の人たちに、またしばらくしたら戻ってくるからとしばしの別れを告げ。
地図の指し示す場所にたどり着いた俺は、ローザの言う『家』を見て頭を抱えた。

「……無理そう?」

アリアが不安げに俺を見る。


俺だって出来るものなら恰好良く、こんな修理くらい任せておけって言ってやりたい。
言ってやりたいが……。

うん、これはどう見ても俺の手には余る!

だって

「これはもはや家じゃないからなぁ」

アリアが『そんなぁ』とガクッと肩を落とした。

繰り返し言うが、何とかしてやりたいのは山々だが俺にも限度ってものがあるんだ。
分かるだろう?!

だってホラ 家というより 最早……

「城だからな?!」

日曜大工の技術はあっても、俺に建築の技術は無い。

ローザは俺の事を一体何者だと思ってるんだ???

いや今回はそんなことより、ローザって一体何者なんだ??

ふとした折にローザが無意識に見せる所作は洗練されていたし、王子であるトレーユを初めて前にした時も堂々としていたから、元は裕福な家の出だろうとは思っていたが……。

まさか、実家が城とは。


兎に角。
無理なものは無理と、堀に架けられた跳ね橋を渡る前に早々に元来た道を引き返そうかと思ったのだが……。

余りにアリアががっかりと肩を落とすから、

「わかったよ。やれるだけやってみよう」

思わずそんなことを言ってしまった。

「ホント?! わーい!! これで退屈しないスローライフが出来るね。さあオーちゃん出ておいで、ここが新しいおうちだよ!!」

そう言って。
アリアが持っていたバスケットの中から、少し大きくなったヒヨコを取り跳ね橋の上に置いた。

そう先日のヒヨコだが、結局アリアが元の飼い主に返す事を拒んだため、うちのことなり名前は『オーちゃん』に決まった。

アリアは最初『(シューの)おやつ』と呼んでいたのだが。
不幸中の幸いというか、それが次第に縮まって最終的にそんな一見無難なものとなったのだ。

ちなみに……。

そのつぶらな瞳に見つめられ、すっかり情が湧いてしまった俺が毎日朝守護の魔法を重ね掛けているので、当面の間シューにパクリとやられる心配はない。


「とりあえず中を見るだけ見てみよう」

そう言えば、オーちゃんを先頭にアリアが俺の後を同じく雛鳥のようについてきたので、まずは皆で一緒に散歩がてら城内をぐるりと歩いてまわった。


魔物の襲撃を恐れ放棄せざるを得なかったのだろう。

長らく無人で放っておかれた為、埃が積りところどころ修繕が必要な場所は見られたが、元々は大切に使われていた堅牢な建物の様なだけあって、一見したところ少し掃除すれば仮住まいなら出来ない事もないように見えた。






◇◆◇◆◇

まずは客間と思しき部屋を掃除し拠点とし、数日かけて風呂と調理場を何とか使えるまでにした時だった。
遠くから木の軋む音が聞こえて、誰かが扉を開けた事に気づいた。

誰だろう?

そう思いそちらに向かえば。
そこにいたのは昔一緒に旅をした頃とあまり変わらない旅装束を纏ったローザだった。
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