あの子を甘やかして幸せにスローライフする為の、はずれスキル7回の使い方

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第三章 刺激的なスローライフ

47.【番外編 ローザとニコラス】ベリーとクリームのタルトより甘く① 【side ローザ】

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『初めまして、ローザ嬢。ニコラスと申します。お会いできて光栄です』

そう言って。
私の手の甲に恭しく口づけた彼は、まだその体にしなやかさを残す十六、七の少年の様に見受けられた。

柔らかそうな青みが勝った黒髪に、猫のように子気味良くツンと吊り上がった大きな勿忘草わすれなぐさ色の瞳をした彼に正面から射抜くように真っすぐ見つめられた瞬間、私は年甲斐もなく赤面した。

そんな私を見て、ニコラスがその美しい勿忘草色の瞳をどこか酷薄そうにスッと笑みの形に細めて見せた。
するとその瞬間、彼のまだ愛らしいとも言っても過言でないはずの面立ちがどことない影を帯び、それが彼を実際の年より酷く大人びて感じさせ私を更に酷くドキドキさせる。

魔王討伐の戦士として、また年長者として、良識と節度ある態度で応対せねばと思うのに。
彼のその仕草は年相応に愛らしくも、年齢不相応にどこか妖艶で。
私は胸をドキドキさせながら、反射的にうるんでしまっているであろう目を伏せるのが精一杯だった。


落ち着こうと、彼に取られていた手を引こうとした時だった。

「ご家族の方が皆心配して探されています。さあ、一緒に戻りましょう」

ニコラスがそう言ってパチンと指を弾いた。
そして次の瞬間、完全に油断しきっていた私は意識がフッと遠のくのを感じた。






◇◆◇◆◇

次に気づいた時、そこはニコラスの腕の中だった。

戦いの中で、仲間や他のパーティーメンバーにこのように抱きかかえられ救護されたことが無いわけではなかった。
そして、それに対し私が何かを思った事は無い。

しかし、体格の良い成人男性とは異なる小柄なニコラスにそうされると、彼の子供の様に高い体温を服越しでも感じてしまうくらい深く体が密着してしまう。
私の耳が、まるで抱きすくめられているかのようにピタッと彼の胸元に触れてしまっている事に動揺し慌てて体を離そうと顔を上げた時だった。
彼のその赤く柔らかそうな唇がまるで私の額に触れてしまうくらい近くにある事に気づき、私は再び卒倒しかけた。

「ローザ大丈夫?!」

アリアの声にハッとして

「だ、大丈夫だ!!」

平静を装い何とかニコラスの腕の中から飛びのけば、そんな私の年齢に見合わない初心すぎる様子を滑稽に思ったのだろう。
彼に魅入られて、真っ赤になったまま立ち尽くしてしまった私に向かい、ニコラスは声を立てぬままクスリっと嗤ってみせた。




ハクタカの話によると、ニコラスは遠路はるばる私の父の使いで私を探しにやって来た王都のギルドに所属する情報屋で、ハクタカとは旧知の仲だとか。

しばらくハクタカと話し合った末、何故かニコラスは私が望まぬ結婚を強要されぬよう、トレーユの思い人を探し出す事に協力してくれる事になった。




恋人……というより、見ようによっては最愛の孫のように大事にしているアリアに攻撃し眠りの魔法をかけたのが許し難かったのだろう。

『ニコラは全くもって油断ならないからな!!』

そう言って。
ハクタカは遠くからやって来て疲れているであろうニコラスを、早々に街まで買い出しに追いやる事に決めたようだった。

「着いたばかりなのに悪いな。一人では大変だろうから、せめて私も一緒に行こう」

ニコラスにそう申し出れば、

「ハクタカが、オレを危険視しているのを忘れましたか??」

何故かニコラスが、私を見て酷く渋い顔をした。

「危険って。私を連れ帰ることは諦めたのだろう?」

さっきの事はもう気にしていないその証拠にと、ニコラスに向けて笑って見せれば

「確かに無理やり連れ戻そうとは、もう思っていませんが……」

ニコラスが、何やらバツが悪そうにフイと顔を背ける。

「なら何も心配ないじゃないか」

そう半ば強引に押し切って、私がニコラスと並んで歩き出そうとした時だった。
ニコラスが顔を伏せたまま何かをボソリと呟いた。

何と言ったのだろう?

レイラの手伝いで孤児院の幼い子供達の面倒を見ていた時の癖で、その小さな声をしっかり聴きとろうとニコラスの口元にそっと耳を寄せた時だった。

「悪いオオカミに取って喰われたくなかったら、自重してくださいと言っているんです」

ニコラスが低く妙にお腹に響く声で、まるで私の耳元に口づけるようにしてそんな事を言った。

子供達が気持ちを吐露するのとは全く違う低く、どこか吐息交じりの甘いニコラスの声。

それに動揺して私がまた真っ赤になってその場に硬直すれば、ニコラスは今度こそ満足げにニヤッと嗤った。
そして彼は、まるで彼こそが聞き分けの無い子供を諭す大人のように私の頭をポンポンと撫でると

「甘いタルトと果実酒がお好きなんでしたっけ? 情報屋の名にかけてとっておきをお持ちしますよ。だからいい子にして待っててください」

そう言い残し、さっさと一人買い出しに行ってしまったのだった。
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