49 / 59
第三章 刺激的なスローライフ
47.【番外編 ローザとニコラス】ベリーとクリームのタルトより甘く① 【side ローザ】
しおりを挟む
『初めまして、ローザ嬢。ニコラスと申します。お会いできて光栄です』
そう言って。
私の手の甲に恭しく口づけた彼は、まだその体にしなやかさを残す十六、七の少年の様に見受けられた。
柔らかそうな青みが勝った黒髪に、猫のように子気味良くツンと吊り上がった大きな勿忘草色の瞳をした彼に正面から射抜くように真っすぐ見つめられた瞬間、私は年甲斐もなく赤面した。
そんな私を見て、ニコラスがその美しい勿忘草色の瞳をどこか酷薄そうにスッと笑みの形に細めて見せた。
するとその瞬間、彼のまだ愛らしいとも言っても過言でないはずの面立ちがどことない影を帯び、それが彼を実際の年より酷く大人びて感じさせ私を更に酷くドキドキさせる。
魔王討伐の戦士として、また年長者として、良識と節度ある態度で応対せねばと思うのに。
彼のその仕草は年相応に愛らしくも、年齢不相応にどこか妖艶で。
私は胸をドキドキさせながら、反射的にうるんでしまっているであろう目を伏せるのが精一杯だった。
落ち着こうと、彼に取られていた手を引こうとした時だった。
「ご家族の方が皆心配して探されています。さあ、一緒に戻りましょう」
ニコラスがそう言ってパチンと指を弾いた。
そして次の瞬間、完全に油断しきっていた私は意識がフッと遠のくのを感じた。
◇◆◇◆◇
次に気づいた時、そこはニコラスの腕の中だった。
戦いの中で、仲間や他のパーティーメンバーにこのように抱きかかえられ救護されたことが無いわけではなかった。
そして、それに対し私が何かを思った事は無い。
しかし、体格の良い成人男性とは異なる小柄なニコラスにそうされると、彼の子供の様に高い体温を服越しでも感じてしまうくらい深く体が密着してしまう。
私の耳が、まるで抱きすくめられているかのようにピタッと彼の胸元に触れてしまっている事に動揺し慌てて体を離そうと顔を上げた時だった。
彼のその赤く柔らかそうな唇がまるで私の額に触れてしまうくらい近くにある事に気づき、私は再び卒倒しかけた。
「ローザ大丈夫?!」
アリアの声にハッとして
「だ、大丈夫だ!!」
平静を装い何とかニコラスの腕の中から飛びのけば、そんな私の年齢に見合わない初心すぎる様子を滑稽に思ったのだろう。
彼に魅入られて、真っ赤になったまま立ち尽くしてしまった私に向かい、ニコラスは声を立てぬままクスリっと嗤ってみせた。
ハクタカの話によると、ニコラスは遠路はるばる私の父の使いで私を探しにやって来た王都のギルドに所属する情報屋で、ハクタカとは旧知の仲だとか。
しばらくハクタカと話し合った末、何故かニコラスは私が望まぬ結婚を強要されぬよう、トレーユの思い人を探し出す事に協力してくれる事になった。
恋人……というより、見ようによっては最愛の孫のように大事にしているアリアに攻撃したのが許し難かったのだろう。
『ニコラは全くもって油断ならないからな!!』
そう言って。
ハクタカは遠くからやって来て疲れているであろうニコラスを、早々に街まで買い出しに追いやる事に決めたようだった。
「着いたばかりなのに悪いな。一人では大変だろうから、せめて私も一緒に行こう」
ニコラスにそう申し出れば、
「ハクタカが、オレを危険視しているのを忘れましたか??」
何故かニコラスが、私を見て酷く渋い顔をした。
「危険って。私を連れ帰ることは諦めたのだろう?」
さっきの事はもう気にしていないその証拠にと、ニコラスに向けて笑って見せれば
「確かに無理やり連れ戻そうとは、もう思っていませんが……」
ニコラスが、何やらバツが悪そうにフイと顔を背ける。
「なら何も心配ないじゃないか」
そう半ば強引に押し切って、私がニコラスと並んで歩き出そうとした時だった。
ニコラスが顔を伏せたまま何かをボソリと呟いた。
何と言ったのだろう?
レイラの手伝いで孤児院の幼い子供達の面倒を見ていた時の癖で、その小さな声をしっかり聴きとろうとニコラスの口元にそっと耳を寄せた時だった。
「悪いオオカミに取って喰われたくなかったら、自重してくださいと言っているんです」
ニコラスが低く妙にお腹に響く声で、まるで私の耳元に口づけるようにしてそんな事を言った。
子供達が気持ちを吐露するのとは全く違う低く、どこか吐息交じりの甘いニコラスの声。
それに動揺して私がまた真っ赤になってその場に硬直すれば、ニコラスは今度こそ満足げにニヤッと嗤った。
そして彼は、まるで彼こそが聞き分けの無い子供を諭す大人のように私の頭をポンポンと撫でると
「甘いタルトと果実酒がお好きなんでしたっけ? 情報屋の名にかけてとっておきをお持ちしますよ。だからいい子にして待っててください」
そう言い残し、さっさと一人買い出しに行ってしまったのだった。
そう言って。
私の手の甲に恭しく口づけた彼は、まだその体にしなやかさを残す十六、七の少年の様に見受けられた。
柔らかそうな青みが勝った黒髪に、猫のように子気味良くツンと吊り上がった大きな勿忘草色の瞳をした彼に正面から射抜くように真っすぐ見つめられた瞬間、私は年甲斐もなく赤面した。
そんな私を見て、ニコラスがその美しい勿忘草色の瞳をどこか酷薄そうにスッと笑みの形に細めて見せた。
するとその瞬間、彼のまだ愛らしいとも言っても過言でないはずの面立ちがどことない影を帯び、それが彼を実際の年より酷く大人びて感じさせ私を更に酷くドキドキさせる。
魔王討伐の戦士として、また年長者として、良識と節度ある態度で応対せねばと思うのに。
彼のその仕草は年相応に愛らしくも、年齢不相応にどこか妖艶で。
私は胸をドキドキさせながら、反射的にうるんでしまっているであろう目を伏せるのが精一杯だった。
落ち着こうと、彼に取られていた手を引こうとした時だった。
「ご家族の方が皆心配して探されています。さあ、一緒に戻りましょう」
ニコラスがそう言ってパチンと指を弾いた。
そして次の瞬間、完全に油断しきっていた私は意識がフッと遠のくのを感じた。
◇◆◇◆◇
次に気づいた時、そこはニコラスの腕の中だった。
戦いの中で、仲間や他のパーティーメンバーにこのように抱きかかえられ救護されたことが無いわけではなかった。
そして、それに対し私が何かを思った事は無い。
しかし、体格の良い成人男性とは異なる小柄なニコラスにそうされると、彼の子供の様に高い体温を服越しでも感じてしまうくらい深く体が密着してしまう。
私の耳が、まるで抱きすくめられているかのようにピタッと彼の胸元に触れてしまっている事に動揺し慌てて体を離そうと顔を上げた時だった。
彼のその赤く柔らかそうな唇がまるで私の額に触れてしまうくらい近くにある事に気づき、私は再び卒倒しかけた。
「ローザ大丈夫?!」
アリアの声にハッとして
「だ、大丈夫だ!!」
平静を装い何とかニコラスの腕の中から飛びのけば、そんな私の年齢に見合わない初心すぎる様子を滑稽に思ったのだろう。
彼に魅入られて、真っ赤になったまま立ち尽くしてしまった私に向かい、ニコラスは声を立てぬままクスリっと嗤ってみせた。
ハクタカの話によると、ニコラスは遠路はるばる私の父の使いで私を探しにやって来た王都のギルドに所属する情報屋で、ハクタカとは旧知の仲だとか。
しばらくハクタカと話し合った末、何故かニコラスは私が望まぬ結婚を強要されぬよう、トレーユの思い人を探し出す事に協力してくれる事になった。
恋人……というより、見ようによっては最愛の孫のように大事にしているアリアに攻撃したのが許し難かったのだろう。
『ニコラは全くもって油断ならないからな!!』
そう言って。
ハクタカは遠くからやって来て疲れているであろうニコラスを、早々に街まで買い出しに追いやる事に決めたようだった。
「着いたばかりなのに悪いな。一人では大変だろうから、せめて私も一緒に行こう」
ニコラスにそう申し出れば、
「ハクタカが、オレを危険視しているのを忘れましたか??」
何故かニコラスが、私を見て酷く渋い顔をした。
「危険って。私を連れ帰ることは諦めたのだろう?」
さっきの事はもう気にしていないその証拠にと、ニコラスに向けて笑って見せれば
「確かに無理やり連れ戻そうとは、もう思っていませんが……」
ニコラスが、何やらバツが悪そうにフイと顔を背ける。
「なら何も心配ないじゃないか」
そう半ば強引に押し切って、私がニコラスと並んで歩き出そうとした時だった。
ニコラスが顔を伏せたまま何かをボソリと呟いた。
何と言ったのだろう?
レイラの手伝いで孤児院の幼い子供達の面倒を見ていた時の癖で、その小さな声をしっかり聴きとろうとニコラスの口元にそっと耳を寄せた時だった。
「悪いオオカミに取って喰われたくなかったら、自重してくださいと言っているんです」
ニコラスが低く妙にお腹に響く声で、まるで私の耳元に口づけるようにしてそんな事を言った。
子供達が気持ちを吐露するのとは全く違う低く、どこか吐息交じりの甘いニコラスの声。
それに動揺して私がまた真っ赤になってその場に硬直すれば、ニコラスは今度こそ満足げにニヤッと嗤った。
そして彼は、まるで彼こそが聞き分けの無い子供を諭す大人のように私の頭をポンポンと撫でると
「甘いタルトと果実酒がお好きなんでしたっけ? 情報屋の名にかけてとっておきをお持ちしますよ。だからいい子にして待っててください」
そう言い残し、さっさと一人買い出しに行ってしまったのだった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる