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第三章 刺激的なスローライフ

48.【番外編 ローザとニコラス】ベリーとクリームのタルトより甘く② 【side ローザ】

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翌日――
トレーユが到着するとほぼ同時に、濡れ鼠になりながらニコラスも街から戻ってきた。

「怪我はなかったか?」

着替え終わった彼にそう声をかければ、ニコラスが不思議そうに首を傾げた。

「オオカミが出る道を行ったのだろう??」

そう言ったのはニコラスなのに。
忘れたのだろうかと、彼と鏡合わせに首を捻れば、ニコラスは何やら呆れたと言わんばかりの顔をした後で

「えぇ、とりあえず今夜も心配なさらなくても、ハクタカがいるので大丈夫ですよ」

そう言うが早いか、テキパキとまるでハクタカの様に夕食の準備を始めた。






◇◆◇◆◇

「こっちもどうぞ。ウマイですよ」

そう言ってニコラスが、私の皿にベリーとクリームが沢山乗ったタルトを載せた。
長い付き合いというだけあって、ニコラスとハクタカの世話焼きなところはそっくりだ。

「まるでニコラスとハクタカは親子の様だな」

きっとハクタカの事を長年したってきたのだろう。
私がこらえきれなくなってそう言いながら笑えば、ニコラスは一瞬酷く驚いたように目を見開いた後で、しかし、どこかまんざらでもなさそうに頬を掻いて笑った。




ニコラスの言った通り、タルトも果実酒もこれまで味わった事の無いくらい甘く美味だった。
それらに舌鼓を打ちながら、そう言えばニコラスはどうして私が甘いタルトと果実酒が好きだと知っていたのだろうと首を傾げる。

甘い菓子も酒も、自分には似合わないからと思って誰にも、それこそレイラやアリアにさえ好きだなんて打ち明けたことなんてなかったはずだが?

不思議に思い、思わず食べる手を止めニコラスを見た瞬間だった。
いつからそうしていたのだろう。
じっとこちらの様子をうかがっていた、ニコラスと至近距離から目が合ってしまった。

表情には出ていなかったが彼も大分酔っていたのだろう。
驚いた表情を晒す私を映したニコラスの勿忘草色の瞳が優しく優しく蕩ける。

「っ!!!!」

動揺した私は、また真っ赤になってしまっているであろう頬と耳の色を誤魔化す為、一息にカップに入っていた果実酒を煽った。




しばらく、そうして楽しい時を過ごした後――

『それで、僕に話というのは?』

自らそう切り出してきたトレーユに、事の顛末を話して聞かせた。
事情を知ったトレーユは

『迷惑かけてすまなかった!!』

そう言いながら私に向かい深々と頭を下げたので、

「そういう訳で。出来るだけ早く穏便にこの話を無かったことにする為にも、トレーユの思い人を教えてくれないか?そうすれば私達がその人を探してこよう。そうして、トレーユの結婚が無事決まれば、私は晴れてお役御免だ」

と、お互いにとって益のあるであろう提案をしたのだが……。

案の定と言うか、予想通りと言うか。
トレーユは頑として思い人の名を明かそうとはしなかった。

そうして夜も更け、トレーユの説得は諦めて皆で寝ようとした時だった。

『なんだ。やっぱりカルルは女の人だったんだな』

突然ハクタカがそんな思いもしなかった事を言い出した。






◇◆◇◆◇

『カルルに武装解除の魔法をかけ、今すぐその真の姿を暴いてくれ!!』

鬼気迫る勢いでそうハクタカに詰め寄ったトレーユは、カルルの正体を暴きハクタカとニコラスを相手に大太刀周りをして見せた後、

『ずっと貴女だけをお慕いしております、姉上』

そうオーガスタ様に愛を乞い、無事(?)彼女を城へと連れ帰って行った。


去って行くトレーユとオーガスタ様の背を見送りながら、トレーユは一途なんだなと、改めて思う。
相手がトレーユというのは御免こうむりたいが、そこまで真っすぐ思われるなんて、ほんの少しだけオーガスタ様がうらやましい気もしないでもない。

まぁ何はともあれ、これでようやく一件落着だ。


『ハクタカとアリアには悪いが、父も心配しているようだし、私も一度家に帰るか』

そんな事を思ったタイミングで

「さて、では今度こそ参りましょう」

ニコラスが、まるでお姫様にでもするかのように私に向かいその手を伸べた。

そう言えば、ニコラスは私の父に頼まれて私を迎えに来たんだったな。
きっとこの丁重なエスコートも彼の仕事の内なのだろう。

いくら私に似合わない申し出だとしても、それを断るのは失礼にあたるに違いないと自分の中で言い訳して、ドキドキしながらニコラスの手を取った時だ。

ニコラスの手にたくさんの剣だこを感じ、私は彼がただの可愛らしいだけの少年なのではなく、かつての私達同様、魔物と戦い幾重もの死線をくぐって来た戦士であることを改めて思い知った。

その時だった。
私の中で、ニコラスの姿と一人の少年の姿が不意に重なった。


「ど、どうされました?!」

ニコラスの焦った声に驚いてふと頬に手をやれば、涙の筋が私の頬を幾重にも濡らしていた。

「あれ? どうして急に涙が???」

ニコラスと重なって見えた少年の正体に心当たりは無く、自分でも何で不意に涙が溢れてしまったのかは分からない。

それなのにどうしてだろう。
胸が痛くてたまらない。
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