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第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット

15.大人の余裕?(side シュゼット)

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そうです。
イライアス様は最初から変わらず、この国に生きる者の一人として私を愛してくださっていたのに。

私は……。
私は、何を自惚れて、『裏切られる』だなんてそんな酷い事を。

どこまでも利己的な己が思いを急に恥ずかしく思いながらイライアス様の思いに報いるべく、私が今為すべき事は何なのか、リュシアン様の私を導かんとする慈悲深い眼差しに励まされながら再度深く思考を巡らせます。

私がイライアス様に選ばれた理由、それは……。

「そう! 貴女が僕に良く似ているからです!!!」

リュシアン様がこれまでの、大人で包容力溢れる態度から一転。
実に忌々し気に、吐き捨てるようにして、私が思いもしなかった事をおっしゃいました。


「……えっと…………リュシアン様?」

そういえば。
そんな話もありましたね?

リュシアン様、ごめんなさい。
私、その件|《くだり》、もはや完全に忘れていましたが……。
そう言われてみれば、そもそもソレが今回の騒動の始まりでしたね?!


「アレはそんな貴女に僕の扮装をさせ、事もあろうにアイツのアクセサリー扱いした。あのような屈辱を受けたのは初めてです!!!」

恐る恐る、リュシアン様その美しいお顔に目をやれば、大人の余裕を浮かべ微笑むその額に、密に青筋が立っているのが見えた気がしました。

「僕のモットーは負ける戦いはしないですが、同時に売られた喧嘩はきっちり倍にして返すと決めていますので。アレの悪ふざけの片棒を担いだ貴女にも、しっかり協力していただきますよ?」

『ひぃぃぃ!!』

辛うじてそんな悲鳴を寸前の所で飲み込めば。
リュシアン様がフッと大人のアダルトな男性の色気を駄々洩れに嗤いながら、実に妖艶に首をかしげて見せられました。

「一体、私はこの姿ドレスで何をさせられるのでしょう?!」

豪華なドレスの重みが、まるで囚人に架せられた重りのように感じられ、湧き上がる恐怖心からガタガタ震えながらそう尋ねれば。

「簡単ですよ」

リュシアン様が酷く楽し気に、そして蠱惑的にそのアイスブルーの瞳を笑みの形に細められました。

もしかして……。
この姿でイライアス様を誘惑し、そして寝屋で刺せと?!
まさか、まさかそうおっしゃられるのでしょうか?!!

『だとしたら、例えここで手討ちにされたとしてもお断りしないと!!』

そう思い、ギュッと自分の手を握りしめた時でした。

「今度は僕によく似た貴女があいつをアクセサリーにするんです。貴女の魅力でアレを僕の前で無様に跪かせてください!」

「無理です!!!!」

よし!
もういっそここで。
ここでリュシアン様に手打ちにしてもらいましょう!!

どうせ、王妃様の花壇を荒らした時点で本来無くなっていて不思議でなかったこの命です。
イライアス様を骨抜きにするだなんて、そんな身の程知らずな事を企んで恥をかく前に散らす事が出来るなら、最早本望。

……そう、思ったのですが。

「そうですか……。では仕方ありません。報復の為、急ぎ国に帰り宣戦布告を……」

リュシアン様が全く冗談には見えない目をされてそんな事をおっしゃるものだから

「不肖シュゼット、やらせていただきます!!」

せっかく美しいドレス姿だというのに、騎士服を着ていた時の癖で食い気味に、ビシッと敬礼する羽目になってしまいました。
あぁ、本当に私は、先日から一体何をしているのでしょう。


リュシアン様はそんな私を見て、

「楽しみにしていますね」

そう実に鷹揚におっしゃると。
無邪気さとは程遠い、大変綺麗な大人の笑み営業用スマイルを浮かべられながら、実に満足そうに頷かれたのでした。
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