56 / 71
黄昏と共に5
しおりを挟む
これは、夢だ。
そう知りながらも、私は、目の前の光景をぼんやりと見続ける。
場所は、陽宝だった。
華春に来てからそう時間も経ってはいないが、懐かしいという気持ちが湧き上がる。
私は、姜家の屋敷の門前で桃と話している。
「私、少し出かけてくるから。」
そう言って一人で街を歩く。そんなことを言って出かけたことなどない。隣には必ず桃が控える。一人で行く場所といえば、先生の屋敷くらいなものだったが、私が向かうのはそこではなかった。爛の屋敷の前で止まる。彼の家を訪れたのは初めてだが、感覚では、ここは覇家の屋敷だった。私は彼の屋敷の前を行ったり来たりと、不審者のような行動をする。それを止める者はいない。しばらくすると、屋敷の門が開く。私は、迷いなく敷地内に足を踏み入れる。すれ違う人に『こんにちわ』と挨拶をして、屋敷内を歩く。どこへ向かっているのかわからないが、私は風呂敷を大事に抱えていた。目的の部屋まで来ると私は、扉を何度かたたく。扉は、ひとりでに開く。何人もの人が丸机に集まっている。桃、朔、憂榮、千華、爛、凌雅、黎、黒仕、凌雅。
関わり合ったことのないであろう、私の見知った人物がそこには、座っている。ここは、爛の家だと思っていたのだが、そうではなさそうだともぼんやり思い始める。私が到着したのに気付くと、爛が口を開く。
「何で、桃ちゃんと来ないんだよ。一人で勝手にフラフラして。」
爛は、ぷいっと横を向きながら怒る。
口を尖らせているあたり、本気で怒ってはいないようだ。
私は、風呂敷を差し出す。
ここに持ってくるための手土産であったようだ。
受け取った爛は、それを机の中心に置く。
そして、その包みを開いていく。
中からは木箱が出てきた。蓋を垂直に持ってあげる。箱の中には、たくさんの文が入っていた。皆はそれを適当に手に取り、読み始める。
私も一つを手に取り、内容を読む。
『苑へ
おはよう。寒くなってきたから風邪をひかないようにね。それと、今度の休みにお茶でもどう?考えておいて。 爛より』
爛からの短い文だった。これは全て私に届いた文であろうか。いったい彼らは何をしているのだろうか。ぼんやりとその光景を見ながら、文の束を見つめている。
目覚めると明け方の薄暗い空が広がる朝だった。目の下には、涙が伝った感覚があった。
よくわからない夢だった。
私は、あんなに大切に文を保管していただろうか。全て机の上に放り投げていたので、木箱に入れた記憶などはない。私の心にしまった文を夢で取り出したのか。悶々と考えても夢なのだから、意味などないだろう。
ただ、陽宝が恋しくて見てしまった夢だ。
今、桃は、どうしているのだろうか。
そろそろ一言、夢に出てきた文でも書くべきだろうか。そう思い、目を閉じる。
私は、再び深い眠りへと落ちていった。
そう知りながらも、私は、目の前の光景をぼんやりと見続ける。
場所は、陽宝だった。
華春に来てからそう時間も経ってはいないが、懐かしいという気持ちが湧き上がる。
私は、姜家の屋敷の門前で桃と話している。
「私、少し出かけてくるから。」
そう言って一人で街を歩く。そんなことを言って出かけたことなどない。隣には必ず桃が控える。一人で行く場所といえば、先生の屋敷くらいなものだったが、私が向かうのはそこではなかった。爛の屋敷の前で止まる。彼の家を訪れたのは初めてだが、感覚では、ここは覇家の屋敷だった。私は彼の屋敷の前を行ったり来たりと、不審者のような行動をする。それを止める者はいない。しばらくすると、屋敷の門が開く。私は、迷いなく敷地内に足を踏み入れる。すれ違う人に『こんにちわ』と挨拶をして、屋敷内を歩く。どこへ向かっているのかわからないが、私は風呂敷を大事に抱えていた。目的の部屋まで来ると私は、扉を何度かたたく。扉は、ひとりでに開く。何人もの人が丸机に集まっている。桃、朔、憂榮、千華、爛、凌雅、黎、黒仕、凌雅。
関わり合ったことのないであろう、私の見知った人物がそこには、座っている。ここは、爛の家だと思っていたのだが、そうではなさそうだともぼんやり思い始める。私が到着したのに気付くと、爛が口を開く。
「何で、桃ちゃんと来ないんだよ。一人で勝手にフラフラして。」
爛は、ぷいっと横を向きながら怒る。
口を尖らせているあたり、本気で怒ってはいないようだ。
私は、風呂敷を差し出す。
ここに持ってくるための手土産であったようだ。
受け取った爛は、それを机の中心に置く。
そして、その包みを開いていく。
中からは木箱が出てきた。蓋を垂直に持ってあげる。箱の中には、たくさんの文が入っていた。皆はそれを適当に手に取り、読み始める。
私も一つを手に取り、内容を読む。
『苑へ
おはよう。寒くなってきたから風邪をひかないようにね。それと、今度の休みにお茶でもどう?考えておいて。 爛より』
爛からの短い文だった。これは全て私に届いた文であろうか。いったい彼らは何をしているのだろうか。ぼんやりとその光景を見ながら、文の束を見つめている。
目覚めると明け方の薄暗い空が広がる朝だった。目の下には、涙が伝った感覚があった。
よくわからない夢だった。
私は、あんなに大切に文を保管していただろうか。全て机の上に放り投げていたので、木箱に入れた記憶などはない。私の心にしまった文を夢で取り出したのか。悶々と考えても夢なのだから、意味などないだろう。
ただ、陽宝が恋しくて見てしまった夢だ。
今、桃は、どうしているのだろうか。
そろそろ一言、夢に出てきた文でも書くべきだろうか。そう思い、目を閉じる。
私は、再び深い眠りへと落ちていった。
0
あなたにおすすめの小説
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
死を回避するために筋トレをすることにした侯爵令嬢は、学園のパーフェクトな王子さまとして男爵令嬢な美男子を慈しむ。
石河 翠
恋愛
かつて男爵令嬢ダナに学園で階段から突き落とされ、死亡した侯爵令嬢アントニア。死に戻ったアントニアは男爵令嬢と自分が助かる道を考え、筋トレを始めることにした。
騎士である父に弟子入りし、鍛練にいそしんだ結果、アントニアは見目麗しい男装の麗人に。かつての婚約者である王太子を圧倒する学園の王子さまになったのだ。
前回の人生で死亡した因縁の階段で、アントニアは再びダナに出会う。転落しかけたダナを助けたアントニアは、ダナの秘密に気がつき……。
乙女ゲームのヒロインをやらされているダナを助けるために筋トレに打ち込んだ男装令嬢と、男前な彼女に惚れてしまった男爵令嬢な令息の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。表紙は、写真ACよりチョコラテさまの作品(作品写真ID:23786147)をお借りしております。
【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~
朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。
婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」
静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。
夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。
「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」
彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。
盲目公爵の過保護な溺愛
クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中
恋愛
伯爵家の長女として生まれたミレーヌ。平凡な容姿に生まれた彼女は、美しい妹エミリアと常に比べられ、実の両親から冷遇されて育った。
パーティーでは家族の輪に入れて貰えず、いてもいなくてもいい存在。
そんな現実から逃れようと逃げ出した先で、ミレーヌは美しい容姿をした目の不自由な男性と出会うが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる