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引き合わせの夜想曲2
凛太郎が連れて行ってくれたのは、雑居ビルの一角にある和食店だった。店内に入ると、昴と凛太郎は、店主と軽い挨拶を交わす。2人の馴染みの店だったようで、係の男性がスムーズに個室に案内してくれる。座敷に上がると、凛太郎は私にメニューを差し出す。
「何でも好きなの頼んでいいよ。ごちそうする。」
手渡されたメニューには、天ぷらやお造りなどの美味しそうな和食ばかりが並んでいた。
「ほんと、いいの。これだけあると、悩むけど。天麩羅御膳にしよっかな。飲み物は、温かいお茶がいい。」
そう言ってメニューを目の前に座っている2人の方に向ける。
「ん、じゃあ、俺は、和御膳。昴は?」
「コーヒー。……ていうか、お前、食うの珍しくね?」
「あぁ、今日の仕事、なしにした。すみません。注文。」
凛太朗は、昴に返事をしながら、座敷の外に控えていた係の男性に注文を告げる。
「は、何で?お前、勝手に。」
昴は怪訝な顔をする。普段は急に仕事をなしにすることなんてないのだろう。しかしながら、凛太朗は迷いなくそう言い放つため、逆に昴が気圧されているようだった。凛太朗は、そんな昴を気にすることなく、手に持つスマートフォンでメッセージを確認している。
「さぁ、何でだろうな。こういうのが利点だと思ってる。」
そう言って、スーツの胸ポケットの中にスマートフォンを入れる。
「ねぇ、昴たちの仕事って、ホストなんでしょ。人付き合いとか大変?」
聞きたかった質問がつい声に出る。2人の格好を見る限り、そう思うしかなかったのが本音だった。
「お前、そんなこと唐突に……」
昴はいきなりの質問に眉をひそめ、言葉を詰まらせる。
「昴は、意外と性に合ってるみたいだし、大変じゃないよな。スマホは2台持ちしてる奴が大半かな。」
答えることを渋る昴の代わりに凛太朗が、質問に答える。彼は、職場でもこうやって昴をサポートしているのだろう。お互い、ぶっきらぼうに話していても、わかり合っているように見えた。
「なるほど、参考になる。やっぱり、知らない世界って面白いし、興味ある。」
「お前、ホストに興味あるのかよ。」
昴は、少し不服そうだった。
「興味だけ、ね。だって、ドラマでしか見たことなかったんだもん。医療モノのドラマで、接待でよく行ってるじゃない。」
「あぁ、あれはクラブとかだろ。ホストクラブじゃねぇよ。」
「私にとっては、男か女の違いだけだもん。一緒でしょ。ねぇ、昴のお店行きたい。」
「絶対来るな。」
頑なに拒否を昴を見ると、少し面白く思えた。他人に仕事している姿を見せるのは、気恥ずかしいものがあるのだろう。聞きたいことはたくさんあったが、心の準備が十分にできていない。そんなことを思っていると、ちょうど注文した料理が運ばれてきたので、話をすり替える。お互いの身の上話は、これ以上しないようにと、自然と避けられた。彼らもまた何か思うことがあるのだろう。
正直、人生で彼らと再び会う日が来るとは思っていなかった。否、会ってもらえない、そう思っていた方が正しいだろう。彼らにとっては、どこかで偶然、私を見かけることがあったとしても、きっと声をかけようとは思わない、過ぎ去った存在だと思っていたのだから。
留学先だったスイスから帰国する時、迷いながらも2人にメールを送るとすぐに、バウンスメールが届いた。そこに表示されている3桁の数字は、受信者がいない、つまりは、使用されていないメールアドレスに送信したことを示した。その後、携帯電話の番号にもかけてみたものの、どちらも現在使用されていない番号であるとアナウンスに教えられる。2人への連絡手段が途絶えたのは、拒否の念が含まれているからだと改めて察する。
長い時間をかけ、過去を過ぎたことだと洗い流し、改めて向かい合おうとした決心も無駄になった。それぞれと過ごした日々が再び崩れた気がした。それも仕方ない。2人とは、長い間、連絡をしなかったのだ。私が、帰国するからまたよろしく、そんな身勝手は、許されるはずはなかったのだ。今宵、彼らが何を思い、私に声をかけたのか、皆目見当がつかず、私が彼らに抱く感情は、深く暗かった。
「何でも好きなの頼んでいいよ。ごちそうする。」
手渡されたメニューには、天ぷらやお造りなどの美味しそうな和食ばかりが並んでいた。
「ほんと、いいの。これだけあると、悩むけど。天麩羅御膳にしよっかな。飲み物は、温かいお茶がいい。」
そう言ってメニューを目の前に座っている2人の方に向ける。
「ん、じゃあ、俺は、和御膳。昴は?」
「コーヒー。……ていうか、お前、食うの珍しくね?」
「あぁ、今日の仕事、なしにした。すみません。注文。」
凛太朗は、昴に返事をしながら、座敷の外に控えていた係の男性に注文を告げる。
「は、何で?お前、勝手に。」
昴は怪訝な顔をする。普段は急に仕事をなしにすることなんてないのだろう。しかしながら、凛太朗は迷いなくそう言い放つため、逆に昴が気圧されているようだった。凛太朗は、そんな昴を気にすることなく、手に持つスマートフォンでメッセージを確認している。
「さぁ、何でだろうな。こういうのが利点だと思ってる。」
そう言って、スーツの胸ポケットの中にスマートフォンを入れる。
「ねぇ、昴たちの仕事って、ホストなんでしょ。人付き合いとか大変?」
聞きたかった質問がつい声に出る。2人の格好を見る限り、そう思うしかなかったのが本音だった。
「お前、そんなこと唐突に……」
昴はいきなりの質問に眉をひそめ、言葉を詰まらせる。
「昴は、意外と性に合ってるみたいだし、大変じゃないよな。スマホは2台持ちしてる奴が大半かな。」
答えることを渋る昴の代わりに凛太朗が、質問に答える。彼は、職場でもこうやって昴をサポートしているのだろう。お互い、ぶっきらぼうに話していても、わかり合っているように見えた。
「なるほど、参考になる。やっぱり、知らない世界って面白いし、興味ある。」
「お前、ホストに興味あるのかよ。」
昴は、少し不服そうだった。
「興味だけ、ね。だって、ドラマでしか見たことなかったんだもん。医療モノのドラマで、接待でよく行ってるじゃない。」
「あぁ、あれはクラブとかだろ。ホストクラブじゃねぇよ。」
「私にとっては、男か女の違いだけだもん。一緒でしょ。ねぇ、昴のお店行きたい。」
「絶対来るな。」
頑なに拒否を昴を見ると、少し面白く思えた。他人に仕事している姿を見せるのは、気恥ずかしいものがあるのだろう。聞きたいことはたくさんあったが、心の準備が十分にできていない。そんなことを思っていると、ちょうど注文した料理が運ばれてきたので、話をすり替える。お互いの身の上話は、これ以上しないようにと、自然と避けられた。彼らもまた何か思うことがあるのだろう。
正直、人生で彼らと再び会う日が来るとは思っていなかった。否、会ってもらえない、そう思っていた方が正しいだろう。彼らにとっては、どこかで偶然、私を見かけることがあったとしても、きっと声をかけようとは思わない、過ぎ去った存在だと思っていたのだから。
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長い時間をかけ、過去を過ぎたことだと洗い流し、改めて向かい合おうとした決心も無駄になった。それぞれと過ごした日々が再び崩れた気がした。それも仕方ない。2人とは、長い間、連絡をしなかったのだ。私が、帰国するからまたよろしく、そんな身勝手は、許されるはずはなかったのだ。今宵、彼らが何を思い、私に声をかけたのか、皆目見当がつかず、私が彼らに抱く感情は、深く暗かった。
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