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太陽に出会う3
日本にいる子どもたちは、分かりやすいほどに排他的だった。それは、凛太朗が学校に通い始めてしばらくして実感した事実だった。
「なぁなぁ、お前、何で日本語苦手なのに、名前はジョンじゃねーの。アメリカにずっといたのに、変だよな。」
そう言い始めたのは、クラスに1人はいる所謂、悪ガキに分類される男子児童の土井だった。凛太朗は、瞬時にこの男子児童に差別を受けているんだと理解した。
「僕は、アメリカに住んでいただけで、生まれは日本だよ。父も母も日本人。アメリカでは凛太朗じゃ通じにくいから、ジョンじゃなくて、リンを名乗っていた。」
「っ、じゃあ、何でずっとアメリカに住んでいたんだよ。逃げてたのか。」
土井の声が先ほどよりも大きくなる。
「母がニューヨークでデザイナーをしていたから。ニューヨーク、自由の女神像があるところ、わかる?逃げてたわけじゃなく、仕事。外国に逃げて、また日本に戻るとか、あんまりあることじゃないよね。ちなみにちゃんと、お父もいるし、何なら姉もいる。」
「……お前、ムカつくんだよ。」
転校してきてあまり話さなかった凛太朗が流暢に、そして、大人のような言葉遣いをしたことから、男の子の感情を高ぶらせた。そして、凛太朗の胸を両手で押し、後ろに押し倒した。まさか、手を出されるとは思っていなかったら、凛太朗は、自信が思っていたよりも簡単に後ろに倒されることとなった。
「痛っ。日本って、アメリカよりもずっと平和だと思ってたけど、そんなことないんだね、勉強になるよ。」
凛太朗の率直な感想は、土井の神経を逆なでするばかりだった。土井は、立ち上がろうとした凛太朗の胸倉につかみかかり、馬乗りになる。いよいよ周りで興味本位で傍観していたクラスメイトたちがただ事ではないと思い、騒ぎ始める。
様子を見て笑っている者もいれば、泣きそうに見ているものもいる。何人かの女子児童はその場から走り去る。土井が、凛太朗を床に押し付けているのをどうにかどかそうと一人の男子児童が試みるが、火事場の馬鹿力といったもので、土井を退けることはできなかった。しばらくするとクラスの担任と他のクラスの担任である男性教師が慌てた様子でやってきた。
「何してんだ。」
そう言って凛太朗に覆いかぶさる土井を凛太朗から引き離す。男性教師は、土井を立ち上がらせ、正面にかがんだ状態で、土井に何があったのか口調に気を付けながら聞き出そうとしている。凛太朗は、担任に手を引かれ、立たされる。制服の黒い短パンにはほこりが付き、白い長袖のシャツの肘部分には、血液と薄黒い擦れた汚れが付着していた。
「保健室に行きましょう。」
そう言って、担任は凛太朗は、保健室に連れていかれる。否定するわけでも、肯定されるわけでもなく、促されるままに、担任の後を追う。保健室に向かう途中、案の定、土井との間で何があったのか聞かれた。凛太朗は、あったことをそのまま伝えた。担任は、一言、「そう。」と言い、凛太朗にかける言葉に困っているようだった。
保健室に入ると、若い女性の保健教師が机の前に座り、日誌のようなものを広げていた。二人が入室したことに気づくとすぐに立ち上がり、二人の方へ歩み寄る。「体調不良……ではなさそうですね、座ってください。」そう言い、丸椅子に凛太朗を促す。担任は、保健教師に簡単に状況説明をする。保健室は、消毒液と思われる薬品のにおいがして、学校の他の場所よりも特徴的な雰囲気があった。肘を見せるために、袖を腕まで捲り上げる。保健教師は、慣れた手つきで凛太朗の傷口に処置を施している。
「凛太朗くんは、土井君に手を出していませんか。」
その様子を見ながら、横に立っている担任は、凛太朗に尋ねる。きっとその答えを彼女は知っていたであろうが、確認のためか、形式的な質問を凛太朗に投げかける。
「出してない。僕は、話していただけです。」
「そうよね。わかりました。これからも一緒に過ごす仲間なので、土井君を許してあげてね。」
凛太朗は、そう言う担任の表情をちらりと見ると、少し俯き気味で、悲しそうな顔をしているように感じるのだった。
「なぁなぁ、お前、何で日本語苦手なのに、名前はジョンじゃねーの。アメリカにずっといたのに、変だよな。」
そう言い始めたのは、クラスに1人はいる所謂、悪ガキに分類される男子児童の土井だった。凛太朗は、瞬時にこの男子児童に差別を受けているんだと理解した。
「僕は、アメリカに住んでいただけで、生まれは日本だよ。父も母も日本人。アメリカでは凛太朗じゃ通じにくいから、ジョンじゃなくて、リンを名乗っていた。」
「っ、じゃあ、何でずっとアメリカに住んでいたんだよ。逃げてたのか。」
土井の声が先ほどよりも大きくなる。
「母がニューヨークでデザイナーをしていたから。ニューヨーク、自由の女神像があるところ、わかる?逃げてたわけじゃなく、仕事。外国に逃げて、また日本に戻るとか、あんまりあることじゃないよね。ちなみにちゃんと、お父もいるし、何なら姉もいる。」
「……お前、ムカつくんだよ。」
転校してきてあまり話さなかった凛太朗が流暢に、そして、大人のような言葉遣いをしたことから、男の子の感情を高ぶらせた。そして、凛太朗の胸を両手で押し、後ろに押し倒した。まさか、手を出されるとは思っていなかったら、凛太朗は、自信が思っていたよりも簡単に後ろに倒されることとなった。
「痛っ。日本って、アメリカよりもずっと平和だと思ってたけど、そんなことないんだね、勉強になるよ。」
凛太朗の率直な感想は、土井の神経を逆なでするばかりだった。土井は、立ち上がろうとした凛太朗の胸倉につかみかかり、馬乗りになる。いよいよ周りで興味本位で傍観していたクラスメイトたちがただ事ではないと思い、騒ぎ始める。
様子を見て笑っている者もいれば、泣きそうに見ているものもいる。何人かの女子児童はその場から走り去る。土井が、凛太朗を床に押し付けているのをどうにかどかそうと一人の男子児童が試みるが、火事場の馬鹿力といったもので、土井を退けることはできなかった。しばらくするとクラスの担任と他のクラスの担任である男性教師が慌てた様子でやってきた。
「何してんだ。」
そう言って凛太朗に覆いかぶさる土井を凛太朗から引き離す。男性教師は、土井を立ち上がらせ、正面にかがんだ状態で、土井に何があったのか口調に気を付けながら聞き出そうとしている。凛太朗は、担任に手を引かれ、立たされる。制服の黒い短パンにはほこりが付き、白い長袖のシャツの肘部分には、血液と薄黒い擦れた汚れが付着していた。
「保健室に行きましょう。」
そう言って、担任は凛太朗は、保健室に連れていかれる。否定するわけでも、肯定されるわけでもなく、促されるままに、担任の後を追う。保健室に向かう途中、案の定、土井との間で何があったのか聞かれた。凛太朗は、あったことをそのまま伝えた。担任は、一言、「そう。」と言い、凛太朗にかける言葉に困っているようだった。
保健室に入ると、若い女性の保健教師が机の前に座り、日誌のようなものを広げていた。二人が入室したことに気づくとすぐに立ち上がり、二人の方へ歩み寄る。「体調不良……ではなさそうですね、座ってください。」そう言い、丸椅子に凛太朗を促す。担任は、保健教師に簡単に状況説明をする。保健室は、消毒液と思われる薬品のにおいがして、学校の他の場所よりも特徴的な雰囲気があった。肘を見せるために、袖を腕まで捲り上げる。保健教師は、慣れた手つきで凛太朗の傷口に処置を施している。
「凛太朗くんは、土井君に手を出していませんか。」
その様子を見ながら、横に立っている担任は、凛太朗に尋ねる。きっとその答えを彼女は知っていたであろうが、確認のためか、形式的な質問を凛太朗に投げかける。
「出してない。僕は、話していただけです。」
「そうよね。わかりました。これからも一緒に過ごす仲間なので、土井君を許してあげてね。」
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