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過去への誘い3
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食事をした後は、レストランのすぐ前にある砂浜を散歩した。流石に真冬に海に入ろうとは思えないが、波打ち際のすぐ近くで海をのぞき込む。
「絶対に転ぶなよ。こんな時期に濡れたら寒いぞ。」
「うん、わかってる。」
波の動きをまじまじと見つめながら、私が空返事をすると、昴は改めるかのように、咳払いをする。
「……天音、俺と凛太朗にあまり会わない方がいいと思う。」
「えっ、それってどういうこと。」
「言葉通りの意味だよ。いつか、きっとその皺寄せがくることもわかってる。俺も凛太朗も。……だから、天音、
お前は、俺らから離れた方がいい。凛太朗はどう思ってるか知らねぇが、俺は、少なくともそう思う。」
昴の突然の告白に、動揺を隠しきれなかった。彼が、言っている意味が全然分からなかったが、彼の目を見つめると、真剣で、悲しそうな表情をしていた。
「……だから、メールアドレスを変えたんだ。私、日本に帰る前に二人に連絡しようとしたの。」
「“捨てた”んだ。色んな奴に迷惑かかるしな。もし、お前と繋がってたら、連絡するかもしんねぇし。お前の生活を壊したくねぇ。」
「凛太朗も昴も、私が日本に居る時に、ちゃんとけじめ付けれなかったからこうなったんだよね。もっと私がしっかりしていたら翼も居なくならなかったのに。……私ってみんなを狂わせてばっかりだね。」
思っていることを口にすると、声が震えていくのがわかる。
「なるようになっていた、お前は関係ねぇよ。」
「わかんないじゃん。」
「ああ、わからない。お前が居れば、未来は変わっていたかもしれない。でも、もっと悪い未来が待っていたかもしれない。」
そう言う昴の言葉に返事をすることができなかった。もっと悪い未来、については考えてもいなかった。彼の告白がすでに悪い未来であると感じたからだ。それが、彼にとっては、良い未来で、私にとっては、悪い影響しか与えない悪い未来ということなのだろうか。
「再会した日、あの店で懐かしい音楽を聴いた。ノクターン。お前がずっとピアノで弾いていた曲。反射的に音がする方を見たんだよ、記憶って怖いよな。きっと他の音なら絶対に見なかったのに。そしたらさ、お前がいたんだよ。何年経っても見間違えるはずなかった。絶対に関わらないって決めたはずなのに、あの一瞬だけは、あの頃に戻っていた。話しかけてから後悔したよ。……でも、俺が動かなくても、きっと凛太朗は同じ行動をしたはずだ。」
昴は、辛そうに見えた。彼がこんなに顔を歪めているところは、彼の兄である翼が居なくなった時以来だ。
「私は、2人に会えて嬉しかった。心の準備はできてなかったけど、会ったら、嬉しさが勝って、あの頃の複雑な気持ちなんて、小さな問題だったと思えた。今の2人がどうなっていようと私は受け止めるから、もう私の前から消えないでよ。……私から離れたのに、こんな言葉、都合が良すぎるよね。」
涙が頬を伝っていた。
「俺は……お前の幸せを1番に願っている。だから、俺らに関わる―――」
「私は、2人と向き合いたい。さっき昴も言ったでしょ。なるようになってた、お前は関係ないって。私も今、そう思った。私がどうなろうと、1番の幸せに2人は関係ないって。」
彼の言葉を遮る。聞きたくはなかった。家族の絆を切られるような気分だった。
「都合の良いように捉とらえるな。危険かもしれねぇんだぞ。」
私が素直にわかったと言わないからか、彼の口調が荒くなる。
「……高校生頃も充分危険だったよ。」
「っ、それとこれは……。」
高校生の頃、彼の知人によく絡まれたものだった。もちろん良い人ばかりじゃなく、中には私を陥れようとした者もいた。そういう思い当たる節が彼にはあったようで、たじろいでいた。
「……だからさ、凛太朗に会いに行こう。」
涙を拭い、決心する。2人で話していても仕方ない。私は、今から凛太朗に会って、過去を清算すると。砂浜を歩くと、足元は重くなるはずなのに、この時はどうしてか、軽く感じた。
「絶対に転ぶなよ。こんな時期に濡れたら寒いぞ。」
「うん、わかってる。」
波の動きをまじまじと見つめながら、私が空返事をすると、昴は改めるかのように、咳払いをする。
「……天音、俺と凛太朗にあまり会わない方がいいと思う。」
「えっ、それってどういうこと。」
「言葉通りの意味だよ。いつか、きっとその皺寄せがくることもわかってる。俺も凛太朗も。……だから、天音、
お前は、俺らから離れた方がいい。凛太朗はどう思ってるか知らねぇが、俺は、少なくともそう思う。」
昴の突然の告白に、動揺を隠しきれなかった。彼が、言っている意味が全然分からなかったが、彼の目を見つめると、真剣で、悲しそうな表情をしていた。
「……だから、メールアドレスを変えたんだ。私、日本に帰る前に二人に連絡しようとしたの。」
「“捨てた”んだ。色んな奴に迷惑かかるしな。もし、お前と繋がってたら、連絡するかもしんねぇし。お前の生活を壊したくねぇ。」
「凛太朗も昴も、私が日本に居る時に、ちゃんとけじめ付けれなかったからこうなったんだよね。もっと私がしっかりしていたら翼も居なくならなかったのに。……私ってみんなを狂わせてばっかりだね。」
思っていることを口にすると、声が震えていくのがわかる。
「なるようになっていた、お前は関係ねぇよ。」
「わかんないじゃん。」
「ああ、わからない。お前が居れば、未来は変わっていたかもしれない。でも、もっと悪い未来が待っていたかもしれない。」
そう言う昴の言葉に返事をすることができなかった。もっと悪い未来、については考えてもいなかった。彼の告白がすでに悪い未来であると感じたからだ。それが、彼にとっては、良い未来で、私にとっては、悪い影響しか与えない悪い未来ということなのだろうか。
「再会した日、あの店で懐かしい音楽を聴いた。ノクターン。お前がずっとピアノで弾いていた曲。反射的に音がする方を見たんだよ、記憶って怖いよな。きっと他の音なら絶対に見なかったのに。そしたらさ、お前がいたんだよ。何年経っても見間違えるはずなかった。絶対に関わらないって決めたはずなのに、あの一瞬だけは、あの頃に戻っていた。話しかけてから後悔したよ。……でも、俺が動かなくても、きっと凛太朗は同じ行動をしたはずだ。」
昴は、辛そうに見えた。彼がこんなに顔を歪めているところは、彼の兄である翼が居なくなった時以来だ。
「私は、2人に会えて嬉しかった。心の準備はできてなかったけど、会ったら、嬉しさが勝って、あの頃の複雑な気持ちなんて、小さな問題だったと思えた。今の2人がどうなっていようと私は受け止めるから、もう私の前から消えないでよ。……私から離れたのに、こんな言葉、都合が良すぎるよね。」
涙が頬を伝っていた。
「俺は……お前の幸せを1番に願っている。だから、俺らに関わる―――」
「私は、2人と向き合いたい。さっき昴も言ったでしょ。なるようになってた、お前は関係ないって。私も今、そう思った。私がどうなろうと、1番の幸せに2人は関係ないって。」
彼の言葉を遮る。聞きたくはなかった。家族の絆を切られるような気分だった。
「都合の良いように捉とらえるな。危険かもしれねぇんだぞ。」
私が素直にわかったと言わないからか、彼の口調が荒くなる。
「……高校生頃も充分危険だったよ。」
「っ、それとこれは……。」
高校生の頃、彼の知人によく絡まれたものだった。もちろん良い人ばかりじゃなく、中には私を陥れようとした者もいた。そういう思い当たる節が彼にはあったようで、たじろいでいた。
「……だからさ、凛太朗に会いに行こう。」
涙を拭い、決心する。2人で話していても仕方ない。私は、今から凛太朗に会って、過去を清算すると。砂浜を歩くと、足元は重くなるはずなのに、この時はどうしてか、軽く感じた。
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