25 / 51
運命の悪戯9 sideR
しおりを挟む
それとの出会いは唐突だった。天音から不審者に押し倒されたことを聞いてから、凛太朗は、彼女の送迎を欠かすことなくしていた。
その日は、いつも通り彼女を送った後、駅の近くにある大型書店に寄ろうか、コンビニで飲み物を買うついでに、欲しい雑誌だけを購入しようかと迷っていた。その結果、後者を選んだことが、最大の分岐点になった。
凛太朗が向かったコンビニは、学校から天音の家へと通じる道の間にあった。交差点の角にあるそのコンビニは、周囲の学校に通う学生たちも利用していた。道を渡り、コンビニに入店しようとすると1人の若い男が出てきたところだった。凛太朗の横を通過する。その瞬間、男の残り香が鼻孔から入り、凛太朗の記憶を強制的に、そして鮮明に呼び覚ます。
先日、天音の言っていた“人工甘味料がいっぱいのお菓子”というのは、ショッキングピンクの色をしたキャンディーのことで、それは彼女の兄が海外土産として、彼女に渡したものだった。見た目こそ女の子が喜びそうな可愛らしいものであったが、味は、日本の食料では感じたことのないほど、味覚が麻痺するほどにしつこいものだった。
そして、最大の特徴は、人為的に作られた、纏わりつくような甘ったるい香りだった。2人して、そのキャンディーを「一生忘れない程の強烈な味」と評していたにも関わらず、天音に聞いたあの時は、凛太朗は、このことを忘れていた。しかし、男とすれ違ったことで、天音と記憶の共有ができた。
凛太朗は、すぐに店内の窓際の書籍コーナーに向かった。目的の雑誌のことなど、とうに忘れていた。男がどこに行くのか確かめるためだ。確かめて何になるのか、そこまで考えるほど余裕はなかった。しかし、天音に危害を加えたであろう男がどんな人物なのか、確認する必要があった。
男は、店外に設置された喫煙所で煙草を吸いながら、スマートフォンを操作していた。2本目に火をつけると、次は、電話をし始めた。最後まで吸い終わらないうちに、男は、灰皿に煙草を押し付け、そのまま歩き始めた。凛太朗は、何も買わず、一定の距離を保ち、その男を追う。
男が向かう先には、天音の住まうマンションがあった。マンションが見え始めたところで、男は明らかに周囲を気にしている素振りを見せた。凛太朗の方を1度、振り返ったものの、興味がなさそうにすぐに前方に視線を向けた。しかし、女子生徒の集団が通りかかると、それが中学生であろうと凝視していた。男は、女子学生を探しているのか、狙いは、天音ではなかったのではないか、そう思えるほどだった。そのまま男は、天音のマンションのエントランスに向かうのが見えた。もしかして、住民だったのだろうか、犯人であると思ったのは、凛太朗の思い違いだっただろうか、そう思った矢先、すぐに出てきた。中に入れないことが、わかったからであろうか。そして、男はゆっくりとマンションを見上げると、元来た方向に戻らず、そのままマンションを通り過ぎた。男のこれまでの行動は、凛太朗の目には不審に思った。女子学生を狙っているのなら、別にこの地域でなくてもかまわないのではないか、あえて、この周辺で探す素振りをするのは、襲った天音を狙っているように思う他なかった。しかし、天音のことを知っているならば中学生の集団を凝視する理由は、見当がつかなかった。マンションに足を踏み入れたものの、すぐに出てきたことも理解はできなかった。
凛太朗は、悶々とした気持ちで男の後ろ姿を見つめ続ける。
男は、身長が高そうに見えるが、猫背であるため凛太朗と視線が同じくらいであるように見えた。歩き方は、蟹股気味で、靴底の外側部分が歪に減っていた。ずっと一緒の方向に歩き続ける凛太朗を1度見た切りで、気にも留めなかった上、全く警戒心を抱いていないようだった。凛太朗は、電話を続けている男が一体何をそこまで夢中になり話し続けることがあるのだろうか気になり、距離を詰めた。
『そうだろ、俺は、一途だ。だからな、あいつも忘れられないし、こいつも忘れられない。ああ、今日も会えなかった。女の所に通うなんて、いつの時代の恋愛だよ。柄じゃねぇよな。でも、ちゃんとプレゼントは用意している。』
饒舌に話し続ける内容は、複数の相手に恋心を抱いているのか、と思えた。
『言ったら面白くねぇだろ。はぁ、押し倒すのは、路上じゃなくて、ベッドの上が良かったよなぁ。……え、未遂だよ。邪魔が入ったんだよ。そのまま逃げられた。まぁ、でも、それだけじゃあ、俺は動じねぇよ。』
男は、そう言いケラケラと笑う。凛太朗は、男の話しているのは、天音のことだと確信する。男を前にし、天音とは正反対にすごしているその姿に、怒りがふつふつと湧き上がる。
“許せない”それ以外の感想は、凛太朗にはなかった。
男は、長い下りの階段へと向かっていた。そこを降りると、凛太朗が普段利用する路線とは別の駅があった。おそらく電車に乗ろうとしているのだろう。そして、男は赤々とした夕焼けと共に消えていった。
その日は、いつも通り彼女を送った後、駅の近くにある大型書店に寄ろうか、コンビニで飲み物を買うついでに、欲しい雑誌だけを購入しようかと迷っていた。その結果、後者を選んだことが、最大の分岐点になった。
凛太朗が向かったコンビニは、学校から天音の家へと通じる道の間にあった。交差点の角にあるそのコンビニは、周囲の学校に通う学生たちも利用していた。道を渡り、コンビニに入店しようとすると1人の若い男が出てきたところだった。凛太朗の横を通過する。その瞬間、男の残り香が鼻孔から入り、凛太朗の記憶を強制的に、そして鮮明に呼び覚ます。
先日、天音の言っていた“人工甘味料がいっぱいのお菓子”というのは、ショッキングピンクの色をしたキャンディーのことで、それは彼女の兄が海外土産として、彼女に渡したものだった。見た目こそ女の子が喜びそうな可愛らしいものであったが、味は、日本の食料では感じたことのないほど、味覚が麻痺するほどにしつこいものだった。
そして、最大の特徴は、人為的に作られた、纏わりつくような甘ったるい香りだった。2人して、そのキャンディーを「一生忘れない程の強烈な味」と評していたにも関わらず、天音に聞いたあの時は、凛太朗は、このことを忘れていた。しかし、男とすれ違ったことで、天音と記憶の共有ができた。
凛太朗は、すぐに店内の窓際の書籍コーナーに向かった。目的の雑誌のことなど、とうに忘れていた。男がどこに行くのか確かめるためだ。確かめて何になるのか、そこまで考えるほど余裕はなかった。しかし、天音に危害を加えたであろう男がどんな人物なのか、確認する必要があった。
男は、店外に設置された喫煙所で煙草を吸いながら、スマートフォンを操作していた。2本目に火をつけると、次は、電話をし始めた。最後まで吸い終わらないうちに、男は、灰皿に煙草を押し付け、そのまま歩き始めた。凛太朗は、何も買わず、一定の距離を保ち、その男を追う。
男が向かう先には、天音の住まうマンションがあった。マンションが見え始めたところで、男は明らかに周囲を気にしている素振りを見せた。凛太朗の方を1度、振り返ったものの、興味がなさそうにすぐに前方に視線を向けた。しかし、女子生徒の集団が通りかかると、それが中学生であろうと凝視していた。男は、女子学生を探しているのか、狙いは、天音ではなかったのではないか、そう思えるほどだった。そのまま男は、天音のマンションのエントランスに向かうのが見えた。もしかして、住民だったのだろうか、犯人であると思ったのは、凛太朗の思い違いだっただろうか、そう思った矢先、すぐに出てきた。中に入れないことが、わかったからであろうか。そして、男はゆっくりとマンションを見上げると、元来た方向に戻らず、そのままマンションを通り過ぎた。男のこれまでの行動は、凛太朗の目には不審に思った。女子学生を狙っているのなら、別にこの地域でなくてもかまわないのではないか、あえて、この周辺で探す素振りをするのは、襲った天音を狙っているように思う他なかった。しかし、天音のことを知っているならば中学生の集団を凝視する理由は、見当がつかなかった。マンションに足を踏み入れたものの、すぐに出てきたことも理解はできなかった。
凛太朗は、悶々とした気持ちで男の後ろ姿を見つめ続ける。
男は、身長が高そうに見えるが、猫背であるため凛太朗と視線が同じくらいであるように見えた。歩き方は、蟹股気味で、靴底の外側部分が歪に減っていた。ずっと一緒の方向に歩き続ける凛太朗を1度見た切りで、気にも留めなかった上、全く警戒心を抱いていないようだった。凛太朗は、電話を続けている男が一体何をそこまで夢中になり話し続けることがあるのだろうか気になり、距離を詰めた。
『そうだろ、俺は、一途だ。だからな、あいつも忘れられないし、こいつも忘れられない。ああ、今日も会えなかった。女の所に通うなんて、いつの時代の恋愛だよ。柄じゃねぇよな。でも、ちゃんとプレゼントは用意している。』
饒舌に話し続ける内容は、複数の相手に恋心を抱いているのか、と思えた。
『言ったら面白くねぇだろ。はぁ、押し倒すのは、路上じゃなくて、ベッドの上が良かったよなぁ。……え、未遂だよ。邪魔が入ったんだよ。そのまま逃げられた。まぁ、でも、それだけじゃあ、俺は動じねぇよ。』
男は、そう言いケラケラと笑う。凛太朗は、男の話しているのは、天音のことだと確信する。男を前にし、天音とは正反対にすごしているその姿に、怒りがふつふつと湧き上がる。
“許せない”それ以外の感想は、凛太朗にはなかった。
男は、長い下りの階段へと向かっていた。そこを降りると、凛太朗が普段利用する路線とは別の駅があった。おそらく電車に乗ろうとしているのだろう。そして、男は赤々とした夕焼けと共に消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる