【完結】アポロンの花【番外編あり】

みさか つみ

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番外編 これはきっと、親心。2

 
 ウイと昴は、一緒に店を出る。深夜であってもこの街は賑わう。人に紛れながら、2人は道で拾ったタクシーに乗り込む。

 「車、どうするの?」

 「凛太朗に取りに行かせる。ついでに仕事も任せる。」

 思いついたように昴が言う。少しくらい凛太朗に押し付けても、恨まれることはないだろう。それよりも、今まで肩代わりしていたことを感謝してほしいくらいだ。

 「それ、大丈夫なの。あの子に迷惑かからない?」

 「明日……今日は、金曜だろ。天音は仕事だし、凛太朗が仕事で遅くなっても駄々こねたりしない。」

 昴や凛太朗に曜日はあまり関係ないが、天音は、普通の会社員だ。平日は、問答無用で働かされる。

 「そうかもしれないけど。淋しい思いはさせたくないわ。」

 「ホント、過保護だよな。今も昔も。」

 「あなたもでしょ。あ、そうだ。私も明日、休もうかしら。」

 「は、稼ぎ頭が、そんなのダメに決まってんだろ。華金だぞ。」

 「嫌よ、休むわ。すごくイイコト思いついたから。」

 「……イイコトねぇ。」

 意味深に言うウイの言葉に、昴も薄々気付く。これは、長年、ウイと過ごした特許だと言える。そうと決まれば、凛太朗にメッセージを送る。




 翌日の夕方、天音は、定時に仕事を終えるとすぐに会社を出た。スーパーに寄り、適当に食べられそうなものを購入する。今日の客人は、何が好みか全くわからなかったが、あれば口にしてくれるだろう、そんな思いで購入する。
 自宅は、先月から引っ越したS区にある高層マンションだ。凛太郎の強い要望で、天音が凛太郎の家に引越し、同棲がスタートした。
 天音は、家に帰ると急いで着替え、掃除をする。見られて恥ずかしいものはないか、部屋のあちこちを歩き回っていると、インターホンが鳴る。モニターに映ったのは、昴だ。天音がエントランスのロックを解除すると、昴は、すぐにここに到着するだろう。ソワソワとした気持ちで待っていると、5分と経たない内にすぐに再びインターホンが鳴る。ドアを開け、出迎えると両手に紙袋を持った昴と天音とは初対面であろう、つばの広い帽子を深く被った花束を抱えた女性、ウイが立っていた。
 戸惑いながらも、2人を部屋の中に通す。昴とウイは、お邪魔します、と軽い口調で部屋の中に入る。

 「ごめんなさい、何もなくって。」

 そう申し訳なさそうな声で天音は、言う。

 「気にするなって。俺が凛太郎に仕事を押し付けて、勝手に来ただけだから。なぁ?」

 そう言った昴に、話を振られたウイは、深く被ってきた帽子を上にずらし、表情を露わにする。

 「ええ。……突然、ごめんね、天音、久しぶり。」

 ウイが真っ直ぐに天音を見る。

 「えっ。」
 
 突然、見覚えのない人物に久しぶりと告げられ、目を見開く。考えるが、わからない。そう言われ、脳内に浮かぶのは、あり得ることはない、希望だけだった。

 「やっぱり、わからないか。」

 目を伏せ、悲しそうな表情をする。2人の間に沈黙が流れる。昴は、カウンターキッチンの前で紙袋から買ってきたものを手に取るが、目線は2人が気になって仕方がない。黙って見守っているが、いつ助け舟を出そうか機会を伺っていた。

 「あの、その、あなたって、翼……な、訳ないか。ごめーーー」

 ウイは手にしていた花束を床に落とし、天音を抱きしめる。強く、長年の想いを胸に。

 「僕は翼。ごめんね、天音。急にいなくなって、大変だったのに、放っておいて。近くにいてあげるべきだった。」

 消え入る声でそう言う。天音は、ウイの胸の中で涙を流す。

 「びっくりした、ほんとに。まさか、会えるなんて、思ってなかった。ほんと、翼、なんだよね。」

 涙を流しながらも、笑っていた。嬉しい気持ちで胸が溢れていた。




 「おい、翼、昨日ニヤついてたのに、なんで会った側からこんなシリアスな空気にするんだよ。俺の身にもなってくれよ」

 テーブルの上に食事を並べている天音の横で、昴はウイに小言を漏らす。

 「あら、今の私は、ウイよ。間違えないで。」

 花瓶に花を生けながら、ツンとした表情で答える。

 「チッ、面倒な奴。」

 ウイは、天音と話した二言ほどだけ、翼であった時の言葉遣いに戻った。

 「翼…ううん、ウイ。今までどうしてたの?」

 3人でテーブルを囲み、ウイの話に耳を傾ける。幼い頃からあった性への違和感、性転換のための家出、今は夜の店でホステスとして働いていること。天音にとっては、衝撃的な事実ばかりだった。

 「天音がスイスから帰ってきたって知って、私は嬉しかった。でも、今更私が出てきたところで、何になるのってすごく迷ったわ。でも、凛太郎のこととか、天音知ったでしょ。だからね、私もって思っちゃって。自分勝手だってわかってたけど、それでも……」

 「ううん、私は、会いたかったよ。ずっと翼が気になって、いつも、心のどこかで翼を探していたの。凛ちゃんみたいに、街でバッタリ会えたらなって、そんなバカみたいな希望持ってた。でも、まさか、そんな。」
 
 「ごめんな、天音。俺も、傷つけたくなくて、知ってても言わなかった。だって、驚くだろ。性別変わってるなんて。」

 「うん、でも、私、翼が女の子に興味あるの、知ってたよ。だって、私、何回も一緒に買い物行ってたじゃん。トレンドに詳しくて、オシャレで、大人で。私、こんなお姉ちゃんがいたらなってずっと思ってたんだから。」

 「じゃあ、夢が叶ったって思っていいのかしら。」

 「うん。ねぇ、今度一緒にどこか遊びに行こうよ。」

 「そうねぇ、久しぶりに一緒に買い物行きましょ」

 「やったぁ」

 本当の姉妹のようにウイと天音は、笑い合った。昴は、その様子を酒の入ったグラスを傾け、苦笑いを浮かべながら見ている。
 この場にはいない凛太郎は、まさか家に昴とウイが訪れ、約10年越しにウイの真相を明かしているなど到底、思ってはいないだろう。
 3人での食事は、高校生の頃を思い出す。あの頃は、お互いにバイトや学校で忙しく、同じ時間に食事をすることは少なかったが、やはり同じ屋根の下で過ごすのは楽しかった。

 「天音、私、これからはあなたを守るから。凛太郎に嫌なことされたらいつでも来なさい。何なら、今夜から来てくれてもいいわ。」

 「そんなこと言ったら凛太郎、天音のこと監禁するから、やめとけよ。」

 「凛ちゃんそんなことしないよぉ。」

 懐かしさを胸に、一生忘れないであろう最高の再会となった。

 
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