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特別な病
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特別病棟の入り口は、セキュリティが強化されたマンションのようだった。一つ目の入り口は、自動ドアになっているが、またすぐに扉があった。そこは、文字盤とインターホンが設置されており、部外者が簡単に入れる仕組みではなかった。
案内してくれた担当者は、慣れた手つきで文字盤に触れて、番号を入力したあと、指先を機械の上に乗せていた。静脈認証システムだろうか、しばらくすると、ピッという機械音が鳴り、開錠される音が響く。担当者が扉を開けたので、それに続く。すると、そこはまた小さい小部屋になっており、同じような扉がまた立ちはだかった。担当者は、通った扉を閉めると、再び次の扉を先ほどと同じ方法で開けた。厳重に管理されているのが明らかだった。
2枚目の扉を開けると、そこは開放的なホールとなっており、廊下がいくつかの方向に伸びていた。待合室のようで、端には受付のようなカウンターがあったが、人はいなかった。
「ここから先、きっと驚くことばかりだとは思いますが、あくまで病院ですので、お静かに願います」
念を押されるように、担当者に言われる。もしかすると、崎戸前支部長は、精神を病んでいて、自我を失っているのかもしれない。そう言う姿を見た者もおかしくならないとは限らない。担当者は、それを心配してくれているのであろう。過信するわけではないが、こんなに厳重な場所に連れてこられたことで、覚悟はしている。普通ではない何かが、ここにはあるのだと。ホールから伸びる廊下を歩き、再び扉を開ける。また暗証番号の必要な扉だった。
そして、次の扉は、すりガラスでできた扉だった。スライド式の扉を開けると、他の病院と変わらない空間が広がっていた。複数の患者が広めの廊下の中央に置かれている椅子に座っていた。その光景を見ると、心のどこかでホッとした自分がいた。『なんだ意外と普通じゃないか』そう安堵した瞬間、違和感を覚えた。椅子に座る患者に近づくに連れて、談笑していると思い込んでいたものが、あまりにも静かであることに気付く。そして、一人の患者の横を通り過ぎる瞬間、見てしまった。顔のパーツが皮膚で覆われていることに。厳密に言うと、微かにまつ毛と目があったようにも感じた。僕はすぐに担当者の背中を見つめ、患者から目を逸らした。一体どういうことだろうか、全身に酷い火傷を負ったようにも見えなかった。
「気をつけてください、足元」
担当者に言われて、すぐに足元に視線を向けると、赤黒い紐のようなものが落ちていた。その紐はある患者のパジャマの上着の裾から出ていた。
「あ、また血管出てますよ~」
近くにいた看護師が手慣れたように血管と呼んだ赤黒い紐を持ち、患者の服の中に仕舞い込んだ。
担当者は、すぐに一つの部屋の前で立ち止まり、軽くノックする。
「失礼します。徳井です」
担当者の徳井に続いて入室すると、ベッドの上には、半年ぶりの顔があった。崎戸前支部長は、50代半ばの女性だ。着飾らない雰囲気で、機嫌のいい時と悪い時がはっきりとしており、僕は割と機嫌のいい彼女しか知らない。仕事をテキパキとこなして、定時には帰るスタイルを常に貫き通していた。そんな彼女が今はベッドの上にいる生活をしているかと思うと、胸が痛くなった。
「お久しぶりです。A支部営業部の三神です。この病院に研修で来たのですが、崎戸前支部長が入院していると聞いて伺わせていただきました。僕にできることがあればなんでも言ってください」
何となく感じ取れる、戸崎前支部長のこの空気感は、感情のない無表情、これは不機嫌よりのように感じ取れた。やはり僕のような下っ端が来て、迷惑だったのか、これは早々と退室するべきだと思って、彼女の表情から視線を逸らす。
「あなたが来るとは思っていなかったわ、私なんて一上司にすぎなかったのに。今の支部長に聞いたのね、わざわざこんなおぞましいところに踏み入れさせてしまって、驚いたでしょう。この病棟。最新医療を持ってしても立ち向かえない病ばかり、嫌になるわね」
「あ、いえ、まぁ、驚きました。僕の勉強不足でした」
しどろもどろに答える。どう答えればいいのか、迷う。間違いなく驚いた。おぞましいのも間違いはない、ただ、正直には言えない。それは、崎戸前支部長も何かしらの病を抱えているのは間違いないのだから。
「勉強不足、ねぇ。でも、こういう病は、国もひた隠しにするのよ。私も知らなかったもの。だから、密かに調査が行われているそうよ、私も私なりにこんな体になってから調べてみたの、でも知ったことはわずかなことだけ。進行を遅らせることはできても、退けることは難しい、不知で不治の病」
「いわゆる難病ですか」
「まぁそうね、難病の部類には入るわ、ただ、奇怪ともいえる。非科学的なのよ」
「非科学的……」
「そう、突然変異、まるで呪いのような……呪われた死に際を現在医学で生きながらえてるようなもの、私はそう感じるわ、そんな不可解なものに私は、私は……ゔっ」
そう言って崎戸前支部長は、布団に隠れた腹部を抑える。彼女は、それを抑えるように大きく震える、まるで何かが蠢いているようだった。
「大丈夫ですか、抑えてください」
落ち着いて言ったのは徳井だった。彼の言い方だと、自分自身でどうにかできるものなのだろうか。彼女は、こんなにも苦しそうなのに。
案内してくれた担当者は、慣れた手つきで文字盤に触れて、番号を入力したあと、指先を機械の上に乗せていた。静脈認証システムだろうか、しばらくすると、ピッという機械音が鳴り、開錠される音が響く。担当者が扉を開けたので、それに続く。すると、そこはまた小さい小部屋になっており、同じような扉がまた立ちはだかった。担当者は、通った扉を閉めると、再び次の扉を先ほどと同じ方法で開けた。厳重に管理されているのが明らかだった。
2枚目の扉を開けると、そこは開放的なホールとなっており、廊下がいくつかの方向に伸びていた。待合室のようで、端には受付のようなカウンターがあったが、人はいなかった。
「ここから先、きっと驚くことばかりだとは思いますが、あくまで病院ですので、お静かに願います」
念を押されるように、担当者に言われる。もしかすると、崎戸前支部長は、精神を病んでいて、自我を失っているのかもしれない。そう言う姿を見た者もおかしくならないとは限らない。担当者は、それを心配してくれているのであろう。過信するわけではないが、こんなに厳重な場所に連れてこられたことで、覚悟はしている。普通ではない何かが、ここにはあるのだと。ホールから伸びる廊下を歩き、再び扉を開ける。また暗証番号の必要な扉だった。
そして、次の扉は、すりガラスでできた扉だった。スライド式の扉を開けると、他の病院と変わらない空間が広がっていた。複数の患者が広めの廊下の中央に置かれている椅子に座っていた。その光景を見ると、心のどこかでホッとした自分がいた。『なんだ意外と普通じゃないか』そう安堵した瞬間、違和感を覚えた。椅子に座る患者に近づくに連れて、談笑していると思い込んでいたものが、あまりにも静かであることに気付く。そして、一人の患者の横を通り過ぎる瞬間、見てしまった。顔のパーツが皮膚で覆われていることに。厳密に言うと、微かにまつ毛と目があったようにも感じた。僕はすぐに担当者の背中を見つめ、患者から目を逸らした。一体どういうことだろうか、全身に酷い火傷を負ったようにも見えなかった。
「気をつけてください、足元」
担当者に言われて、すぐに足元に視線を向けると、赤黒い紐のようなものが落ちていた。その紐はある患者のパジャマの上着の裾から出ていた。
「あ、また血管出てますよ~」
近くにいた看護師が手慣れたように血管と呼んだ赤黒い紐を持ち、患者の服の中に仕舞い込んだ。
担当者は、すぐに一つの部屋の前で立ち止まり、軽くノックする。
「失礼します。徳井です」
担当者の徳井に続いて入室すると、ベッドの上には、半年ぶりの顔があった。崎戸前支部長は、50代半ばの女性だ。着飾らない雰囲気で、機嫌のいい時と悪い時がはっきりとしており、僕は割と機嫌のいい彼女しか知らない。仕事をテキパキとこなして、定時には帰るスタイルを常に貫き通していた。そんな彼女が今はベッドの上にいる生活をしているかと思うと、胸が痛くなった。
「お久しぶりです。A支部営業部の三神です。この病院に研修で来たのですが、崎戸前支部長が入院していると聞いて伺わせていただきました。僕にできることがあればなんでも言ってください」
何となく感じ取れる、戸崎前支部長のこの空気感は、感情のない無表情、これは不機嫌よりのように感じ取れた。やはり僕のような下っ端が来て、迷惑だったのか、これは早々と退室するべきだと思って、彼女の表情から視線を逸らす。
「あなたが来るとは思っていなかったわ、私なんて一上司にすぎなかったのに。今の支部長に聞いたのね、わざわざこんなおぞましいところに踏み入れさせてしまって、驚いたでしょう。この病棟。最新医療を持ってしても立ち向かえない病ばかり、嫌になるわね」
「あ、いえ、まぁ、驚きました。僕の勉強不足でした」
しどろもどろに答える。どう答えればいいのか、迷う。間違いなく驚いた。おぞましいのも間違いはない、ただ、正直には言えない。それは、崎戸前支部長も何かしらの病を抱えているのは間違いないのだから。
「勉強不足、ねぇ。でも、こういう病は、国もひた隠しにするのよ。私も知らなかったもの。だから、密かに調査が行われているそうよ、私も私なりにこんな体になってから調べてみたの、でも知ったことはわずかなことだけ。進行を遅らせることはできても、退けることは難しい、不知で不治の病」
「いわゆる難病ですか」
「まぁそうね、難病の部類には入るわ、ただ、奇怪ともいえる。非科学的なのよ」
「非科学的……」
「そう、突然変異、まるで呪いのような……呪われた死に際を現在医学で生きながらえてるようなもの、私はそう感じるわ、そんな不可解なものに私は、私は……ゔっ」
そう言って崎戸前支部長は、布団に隠れた腹部を抑える。彼女は、それを抑えるように大きく震える、まるで何かが蠢いているようだった。
「大丈夫ですか、抑えてください」
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