サウザンド・ジョブ・オンライン ~あるみならい僧侶の話~

アヤマチ☆ユキ

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第1章 はじまりの街 編

031 みならい僧侶 <04/03(水)PM 11:26>

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 『ミスターチキン』でササミカツ丼を食べて『MAXHP上昇効果』を得た俺は、そのまま はじまりの街[スパデズ]周辺で一番『人気が無い』と思われる狩り場、街の右上、北東部の森の切れ目辺りから少し森の中に入った地点で、ひたすら『イルカモネ山猫』LV5に攻撃されては、治癒魔法[ヒーリング]による回復を行い、「治癒での経験値稼ぎ」と「治癒回数稼ぎ」を行っていた。


 「………」『ミスターチキン』でササミカツ丼を食べて1時間が過ぎた頃だ。これから徐々に上昇していたMAXHPが元に戻っていくだろう。
 残りMPを確認すると、こちらも20%をきっている。

「…治癒魔法[ヒーリング]」
 タイミングを計り、HPを全快させる。そして……

「フハハハ… さらばだ明智君、また会おう!」
 と、どうでもいい事を言いつつ、南に向かって逃走をはかる。
 『イルカモネ山猫』は「待てコラ」とばかりに、逃げる俺の背中に『爪』の一撃を加えてきたが、気にせず走り続けて森を抜けた。


 周囲にはブーブーと、たくさんのスイカ… 『シマブタ』LV2達が鳴いている。
 念のため、もう少し南まで移動してから治癒魔法を唱え、最後の背中への一撃を回復してから、適当にその場に寝転がった。

 『ギルドカード』を持って「出て来い」と念じる。(※ちなみに『インベントリ』と同様のシステムなので、「ペットを出したい」という思いがあれば、言葉はある程度どうでもよい)

「ご主人さま?」
 ギルドカードからシュルンと出てきたミケネコは、少し戸惑とまどっている様だ。
 寝転んだまま胸の上に乗せて、背中をサラ~ッ、サラ~ッと撫でてやる。しばらく撫でていると、落ち着いてきたのか胸の上で丸くなった。

「大丈夫だ、まわりのスイカ?が盾になる。山猫どもにはちょうどいい目くらましだ」
「あとで やきはらう?」
「焼き払わない」
 ……時折ミケネコさんのデータベースが、どうなっているのか疑問に思うが、これは『考えたら負け』…というやつだろう。

「とりあえずこのままMPを全回復させる。一応 山猫どもが来ないか警戒していてくれ」
「は~い」
 寝転がって夜空を見ながら、胸の上で丸くなっているミケネコの背中を撫でる。

 「………」治癒魔法[ヒーリング]……
 『みならい僧侶』の時から使用出来る、初歩の初歩の治癒系魔法である。この魔法は「僧侶職を象徴する」…という事もあり、かなり優遇されている。
 まず〈通常状態〉、〈戦闘状態〉の両状態で使用出来る。消費MPが少ない。スキル使用後の硬直が少ない。リキャストタイム的な時間がほとんど無い。半端な回復アイテムより回復量が多い…等々だ。
 「優遇されすぎだろ」…と思われるかもしれないが、ダンジョンでの「俺の華麗な活躍」を思い出していただければわかるだろう。
 「回復だけ出来たから、≪どうだ≫というのだ」 …な感じである。
 事実TJOゲーム時代も、特に他職からの批判などは無かった。むしろ…
「もっと攻撃魔法を強化してやれよ」的な同情すらあった。

 そう、実は『みならい僧侶』にも攻撃魔法はある。
 ツカサさんが使用していた… 火球[ファイヤーボール]、魔力の矢[マナアロー]の劣化版ともいえる『存在価値のわからない』魔法だ。

 理力塊[ランプフォース]。
 『みならい僧侶』の時から使用できる…『誰も使わない』攻撃魔法である。
 「術者の精神力の塊を、対象1体にぶつけてダメージを与える」…というこの魔法は、『使い勝手』は火球[ファイヤーボール]、『属性、威力』は魔力の矢[マナアロー]
 つまり「無属性の玉が直進し、低威力のダメージを与える、追尾性能は無い」両者の『悪い所だけ』を合わせた素晴らしい魔法である。
 『火属性』であれば、序盤は火に弱いモンスターが多いので、まだ活きる場面があったかも知れないのだが、『無属性』なため…『≪どんな敵≫にも安定して弱い』。
 これもある意味、万能、オールマイティーである。ヤマコウちょっと屋上に来い。

 某掲示板において、理力塊[ランプフォース]の話題が出るたびに…
「回復だけしてろって事だよwww言わせんな恥ずかしいwwww」
…というAA(アスキーアート)が貼られる始末であった。

 しかしまぁそのおかげ? で『みならい僧侶系スレ』では、「攻撃魔法は完全に無いモノ」とされ、『僧侶』っぽく、モーニングスターやフレイルで戦うスタイル。『モンク』っぽく、素手、グローブで戦うスタイル…という戦闘スタイルが確立されていた。
 そして「魔法でガンガン倒したいなら、キャラ削除して『魔法使い』やれよ」
…でFAファイナルアンサー、というのがテンプレ化していた。

 …かなり話がそれたが、一応『みならい僧侶』にも攻撃魔法はあるんですよ? という事を、説明しておこうかと思った次第しだいである。
 そして治癒魔法[ヒーリング]だが、≪現状では≫強力無比なスキルに思えるのだが、その内に『範囲攻撃、範囲魔法』を使うモンスターが出てくるようになると、10m範囲で対象1人というのでは、いかに消費MPが少ない。リキャストタイム的な時間がほとんど無い…といっても、かなり厳しくなってくる。
 まぁそれがわかっているから他職も「下方修正しろ」等とは言わなかった。「弱体化して、ただでさえ少ない『僧侶』系が減ると、自分達も困る」…というのもあったのだろう。


 おっと…ようやくMPが90%以上に回復したな。
 次の『イルカモネ山猫』を見つけるまでに、どれだけ時間が掛かるかわからないので、完全に100%まで回復させる必要は無い。なんといっても、俺は常に〈通常状態〉だから『常時HP/MPが微回復している』わけだしな。

 説明し忘れていたが〈通常状態〉で何もしないで立ち止まっている状態を『基準』として…
・まず〈戦闘状態〉では回復は止まってしまう。
・〈通常状態〉でも『走る、早足などの高速移動中』は回復速度が落ちる。
・『歩いて移動』でも若干落ちる。
・逆に『座る』か『寝転ぶ』などの状態では、『回復速度が上昇する』…という特徴がある。

 そのため戦闘中の俺は『座る』、『寝転ぶ』訳にいかないので、〈通常状態〉で立ち止まっているわけだ… いつも『面倒だから ぼ~っと突っ立ってる』訳じゃ無いんですよ?


「それじゃまた行くか。ミケネコは寝ててもいいからな」
「みてる~」
「そうか」
 ミケネコのひたいに『ギルドカード』をあてて、収納してから立ち上がる。
 プレイヤーの周囲100m範囲で、宝箱はPOPしないので無駄な行為なのだが、つい周囲を見渡して探してしまう。だが当然?見つからないので、そのまま北の森に向かう。

 先ほどと同様に適当な木の棒を拾い、その辺りの木をコーン、コーンと叩いて『イルカモネ山猫』を誘う。音に反応してやって来たら『森の端から少し森に入った辺り』を目指して『逃走』し、攻撃を食らってはHPを回復する。MPが20%をきったら南に逃走して『寝転んでMPを回復』する。 ……俺はそれをひたすら繰り返していた。


 何度目になるか …南に逃走してきて、視界の右下の方へ意識を向けると<04/04(木)AM 02:30>と表示されている。
 「草木も眠る丑三つ時」…というやつだ。この時間であれば人も少ないだろう。
 俺は一旦街に戻る事にした。MPが減少したまま西に向かって歩いて行き、東門を通って途中さっとクリスタルに触れつつ、そのまま道具屋に向かう。

 歩いている間にシステムメッセージが表示され、ファンファーレが頭に響き渡る。

《おめでとうございます!LVが上昇しました! LV8 →LV9》
《このクリスタルではLV9までしかチェック出来ません、以降は別のクリスタルでチェックを行って下さい。》


 「………」うん、LVは上がった。しかし『僧侶』への昇格条件はまだダメか…もうそろそろだと思うのだが。1回『イルカモネ山猫』に襲われると10回ほど治癒している。
 これまでの『辻ヒール』や[山の洞窟]での治癒回数を考えても、もう100回に到達していても おかしくないはずなのだが? …そんな事を考えつつ道具屋に入る。

「よう兄ちゃん、毎度、こんな遅くに何の用だい?」
 当然の様に道具屋の量産型おっさんに出迎えられる。丑三つ時なのだし、この際『幽霊』でもいいから、お姉さんに交代していてくれないものか…

 『ギルドカード』を持って「出て来い」と念じる。シュルンとミケネコがあらわれる。
 そして『夜の素材収集』の時に、ミケネコが見つけてくれた『ブタスキノコ』を、以前と同様に 1,240Gで売却する。

「毎度~」

 実の所クリスタルで『LVUP、昇格チェック』をするだけで良かったのだが、例によって東口から道具屋に向かうと、自然にその中間にあるクリスタル前を通過出来るので、ついでに売却しに来たわけだ。
 所持金は多すぎても≪デスペナルティのリスクが高くなる≫が、≪少なすぎても不便≫である。はじまりの街[スパデズ]では、大体2,000~3,000Gを持ち歩いていると丁度良い。
 まぁ1,265Gと少し少ないが、明日(もう今日だが)には 出会いの街[ヘアルツ]へ行く予定なので、危険な道中を考えると少し少ないぐらいでもいいだろう。

 「………」デスペナルティで思い出した『復活』についてだが、はっきり言ってぼっちな俺だと【悪魔の証明】に近い。目の前で死んだプレイヤーが居たとして、4つある「どこのクリスタル前で復活するか?」 …わからないからだ。
 ユータローを例にあげると、今後ユータローに出会えれば「復活出来る事は証明出来る」が、ユータローに会えなかったとして、復活してないから会えないのか? 別の街のクリスタルで復活して、別の街、ダンジョンに居るから会えないのか? 俺には知りようも無い。

 ささやき(WIS)〔※1〕にしても、居ない相手、間違った名前に語りかけると、『独り言状態』となる。(相手が居ません等のエラーメッセージは出ない)
 突然、募集などもしていないのに、「見知らぬ相手からささやかれても、気持ち悪いので無視してしまう」…というプレイヤーは多い。そのためこれも、居ないので独り言状態になっているのか? 無視されてるのか? …は判別不可能なのだ。
(※ちなみに『相手にブラックリスト(迷惑プレイヤー)登録されている場合は出来ない』と説明にあるが、厳密には『(独り言状態となるので会話は)出来ない』という事で、いくら話しかけているつもりでも、相手には届いていない。「アナタはブロックされています」などと、ストレートに表示してしまうと角が立つから…という事らしい)

 これで人手があれば、4人で4大都市に分かれてクリスタル前を見張り、他のたくさんの人間で各地に散らばり、誰でもいいから死ぬところを目撃すれば、クリスタル前で降って来る、来ないで判別できるのだが… 当然ぼっちな俺では、そんな事は不可能だ。
 そのため「≪復活出来ない≫事は証明が難しい」のである。
 しかし、だからと言ってデスペナルティ対策を考えない訳にもいかない。とにかく最悪を想定して、最善だと思う行動を取るしか無いだろう。


 今回は特に買いたい物は見当たらないので、またミケネコをギルドカードに戻してから、手早くLVUPのボーナス『1ptポイント』をVITに割り振って、道具屋を後にする。

 そのまま早足に東口を目指し、門を抜けて街から遠ざかり、ある程度離れた所で座りこむ。とりあえず一休みして『干し肉』1切れをかじり、『水』を1杯飲んでおく事にする。やはり空腹、喉の渇き、疲れなどがあまり感じられない。無理が出来るのは有難いのだが…

 休憩を終えると、北に進んでそのまま、また北の森に入り、『イルカモネ山猫』との『苦行』を再開する。
 とにかく『みならい僧侶』を卒業してから 出会いの街[ヘアルツ]へ向かうつもりなので、ロクな攻撃手段が無い俺には、これしか方法が無い。

 LVUPとボーナスptを振ったおかげか、丁度『ササミカツ丼効果』があった時と同じぐらいになっている。つまり15%程度のダメージを食らい、18%?程度しか回復しない感じだ。

 これは『死ににくい』という点では良いのだが、『経験値を稼ぐ』という点からは、もはや食らうダメージも回復量も少ない、もっと死亡リスクを負わなければ成長速度が遅い…という事だ。しかし今はどうしようも無いので、AM 05:30頃まで苦行を続ける事にしよう。


-------------------------------------------------------------------------
LV:9(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:1,265G
武器:なし
防具:布の服
所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×4、バリ好きー(お得用)65%、青銅の長剣、樽(中)90%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧


〔※1〕TJOにおいて、ささやき、耳打ち、ウィス(WIS)、ウィスパー(whisper)とは、1対1での会話である。ただしこれは他人には聞こえない『秘密チャット』で、周囲からは何もしていないように見える。
 念話テレパシーを想像してみてもらえるとイメージしやすいだろう。ささやき、耳打ちとはいうものの『距離は無限』で、ログインしている相手ならどこに居ても会話出来る。

 ちなみにパーティチャットなども、そのメンバー内でしか聞こえない一種の秘密チャットである。こちらも距離は無限で、ログインしている相手ならどこに居ても会話出来る。
 秘密チャットであるので陰口にもなりかねなず、また聞こえない者には疎外感を抱かせるので、第三者が居る状態で使用する場合は、その点にも配慮した方が良い。
 補足として、これらは相手にブラックリスト(迷惑プレイヤー)登録されていると出来ない。

火球[ファイヤーボール] ソフトボール大の火球を作り出し、対象1体にぶつけて炎と衝撃によるダメージを与える。

魔力の矢[マナアロー] 術者の魔力そのものを”無属性の矢”として放ち、対象1体にぶつけてダメージを与える、威力が控えめだが追尾性能が高い。

理力塊[ランプフォース] 術者の精神力の塊を、対象1体にぶつけてダメージを与える。


「ご主人さま ほんとうに ≪たえる≫んだね~」
「あぁ、ずっとそう言ってただろう」
「……やっぱりまぞ~?」
「違うっ! 俺を変態に仕立て上げようとするな」
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