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第2章 出会いの街 編

042 真っ黄色 <04/04(木)PM 07:40>

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 出会いの街[ヘアルツ]南口1方面で『盗ゾック(斧)』LV8を発見した俺は、『斧』による『切断&衝撃系』攻撃を避け、『打撃、衝撃系』の攻撃である『ショルダータックル』を食らっては、治癒魔法[ヒーリング]で回復を行う『経験値稼ぎ』と『治癒回数稼ぎ』を開始した。
 しばらくしてMPが20%を切ったため、第1回『盗ゾック(斧)君のショルダータックル祭』を終えて逃走し、ミケネコに『僧侶』への『昇格時の強化』について説明してやった。そのうちにMPも95%にまで回復したので再び『苦行』を再開する事にした。


◆◆◆出会いの街[ヘアルツ]『主要街路』イメージ図◆◆◆
※東1、南1の十字路の中心にクリスタル

  2 1
  北北
2西╋╋東2
   ┣┫
1西╋╋東1
  南南
  2 1


「よし、それじゃまた行くか。危険だからカードに入っておいてくれ」
「は~い」
 寝転んだまま首から提げているギルドカードを手にとって、胸の上で丸くなっているミケネコの狭いひたいに押し当て、カードに収納してから立ち上がる。

「まぁ後は≪同じ事の繰り返し≫だし、寝ていてもいいんだぞ」
「みてるよ~」
「そうか」
 視界の右下の方へ意識を向けると<04/04(木)PM 07:43>と表示されている。ミスターチキン[ヘアルツ]店を出たのが PM 06:08だったから、ササミカツ丼の『MAXHP上昇10%』の効果は、すでに半減以下といったところだな。


 先ほどの様に、川ぞいを戻っていくと、前方に”黄色の一つ目模様の兜”を着用した存在の姿が見える。『盗ゾック(斧)』LV8だ。最初に発見した時よりも、こちら側の様な気がするから、POP(出現)地点は元々あの辺りだったのだろう。(攻撃目標ターゲットに逃走されると、MPK防止のため? モンスターはPOP地点付近に戻っていく。)
 つまり、あそこから、もう20mくらい こちら側が、『より逃走の成功率が高い場所』という事になる。ふむ…俺はそこら辺に落ちていた『棒』を拾って、その20mくらいの地点に突き刺した。よし、これで毎回≪この棒の辺りで戦えばいい≫って訳だ。

 そうして俺は、第2回『盗ゾック(斧)君のショルダータックル祭』に参加した。





 何度目になるか、かなりの時間に渡り、『祭』と『休憩してのMP回復』を繰り返していた俺は、引き続き『盗ゾック(斧)』LV8先輩の、ぶつかり稽古かわいがりを受けていたのだが、…前方にプレイヤーが1人で歩いているような、人影があるのに気がついた。
 視界の右下の方へ意識を向けると<04/04(木)PM 09:57>と表示されている。もうとっくにササミカツ丼の効果は切れている。


 「………」ルート的には『南口2』方面からやって来たのだろう。ここ南口1、2方面は、街から出てすぐのところ、丁度、南口1、2の中間地点から南に向かって、ずっと石壁が続いている。確か「かつて南に街を拡張しよう としていた時の残骸ざんがい」とかいう設定だったはずだ。
(┗━━━南門2━━━╋━━━南門1━━━┛ ←大体こんなイメージです)

 この『石壁』により『南口1方面』と『南口2方面』では、出現するモンスターの”種類”や”強さ”に違いがある様になっている。とはいえ、ずっと南……この川の近くまでは『石壁』は来ていないので、深い亀裂で別れている≪南口1と東口1とは違い≫、南口1と南口2は、南のこの川辺りで≪行き来する事が出来る≫様になっている。
 もっとも、ここ出会いの街[ヘアルツ]では「2番目に弱い」という『南口2方面』なのだが、『僧侶』に昇格しMAXHPが倍になった今の俺でも、南口2方面に侵入すると恐らく≪すぐに倒されてしまう≫ほどには難易度が高く手強い(はず)。
 しょせんは方角毎に1、2LV差しか無かった、はじまりの街[スパデズ]の様な感覚でいると、酷い目にあうというわけである。

 そんな『南口2方面』から『1人』で、『こんな時間に』南口1方面へとやって来た。まぁ俺の様に『宝箱、素材収集』というのも考えられるのだが……
 プレイヤー表示は、『LV14 †カムイ† 双剣使い見習い』、そして……

「末期色か……」
「まっきいろ~?」


▼▼▼▼▼ 補足、解説 ▼▼▼▼▼

 TJOには善行悪行値ぜんこうあくぎょうちという要素があり、良い行いでプラスされ、悪い行いでマイナスされる。

 そして≪それ≫はネームカラーで区別される。
青(善良) > 白(一般) > 黄(軽犯罪者) > 赤(賞金首)…である。

 その中で白と赤には濃淡が無く、青と黄色には色に≪濃淡がある≫。
色が薄いほど=その色の特性は低く、色が濃いほど=その色の特性が高い。
 つまり、
『薄い青』であれば、ちょっと善人で、『薄い黄色』であれば、ちょっと悪人、
『真っ青』であれば、凄い善人で、『真っ黄色』であれば、凄い悪人である。

 レッドネームのプレイヤーは『賞金首』であり、賞金目当てや怨恨えんこんで、基本的に万人に狙われる。しかしイエローネームの間は、どんなに『濃い黄色』であっても、≪赤の他人には手が出せない≫のだ。
 無関係なプレイヤーが手を出せば、自分がペナルティを受け、イエローネーム、レッドネームになってしまう。(ただし手は出されないが、売買などに応じてくれない、ピンチでも助けてくれない、募集への参加を断られる等はある)

 軽度の犯罪などの場合、最初は『ごく薄い黄色』だが、悪行に応じて少しずつ色が濃くなっていき、『真っ黄色』になると『最終警告』、次にどんな些細な悪さをしても、レッドネームとなり『賞金首』となる。

 この事から… 真っ黄色まっ・きいろ = 末期色まっき・いろ とも呼ばれており、悪自慢したい厨房な方が「うはwww俺、もうすぐ末期色だよwwwやべぇwwwww」等と、某掲示板で草を生やしては、ウザがられていた…とかなんとか。


 ちなみに…『ごく薄い黄色』というのは、≪ちょっとした無知≫でなる事も多い。
 例えばTJOでは、一般的なRPGの様に、他人の家のタンスや宝箱をあさるのはもちろんNGだし。許可も無く他人の家などの物品を手にとって、持ち出してみたりしても窃盗等にみなされる。
 また許可の無い他人の家、敷地等への侵入も『不法侵入』となる。これは『廃墟』『遺跡』等の『ダンジョン』と判断が難しいため、不用意に侵入しようとすると…

《〈警告〉許可無く立ち入ると不法侵入となります》
 …などと警告が表示される。無視して入れば善行悪行値がマイナスされ、そのうち守衛がやって来る。

 これらは一見厳しく、面倒なルールにも思えるが、つまりは≪そういった≫『新たな街に着く度に、街中の家を一軒一軒調べまわり、タンスやツボ、宝箱を漁らなければならない』などという≪面倒な作業≫が、全く必要の無い≪親切設計≫とも言える。
※「別に強制じゃない」等と反論があるかもしれないが、ほとんどのゲームにおいて『やったら得』じゃなく、『やらないと損』なのだから、≪強制しているも同然≫であろう。

 また、冷静に考えてみれば、「世界中を街から街へと旅をしながら、行く先々の家々に勝手に忍びこんで、装備やアイテム等を根こそぎ奪い、盗みを働く一団」…とか「どんな広域窃盗団だよw」という慣習である。そりゃヤマコウ〔※2〕なら廃止するだろう。

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「まぁ、真っ黄色まっ・きいろ = 末期色まっき・いろは、限りなく赤に近い黄色…極悪人だな」
「わるもの~?」
「そうだ」

 「………」今のところ、†カムイ† とやらは様子を見ているようだ。こりゃ『俺が食らうダメージ』を調べているんだな。

 『はじまりの街[スパデズ] ~ 出会いの街[ヘアルツ]』間で話した様に、TJOでは他のプレイヤーに対して救援出来る事は、『辻ヒール』、『辻バフ』くらいである。
 一応『みならい魔法使い』系のツカサさんなら〈戦闘状態〉に切り替えれば、まやかしの切れ味[フロードシャープ]〔※1〕などを掛ける事も出来るが、不用意に〈戦闘状態〉に切り替えると、相手側も「PKか!?」と不安になってしまう。

 だから〈通常状態〉のまま、回復、支援出来る『みならい僧侶』系以外は、基本的に援護をしないのだ。
 そのため『危険な街道』の時の様に、不安を煽らないためにも、『他者の戦闘時は速やかに立ち去る』というのが、TJO経験者の常識、ローカルルールの様なものだった。


 ……ようは『みならい戦士』系の、『双剣使い見習い』なんぞに、『出来る事など何も無い』…のである。
 いや『悪事』ならある。『横取り行為』や『PKプレイヤーキラー行為』などだ。

 しかし『末期色』で極悪人ではあるが『レッドでは無い』、……とすると『MPKもどき』の可能性が高いだろう。
 つまり、戦闘中のプレイヤー(俺)の被ダメージを見て、タイミングをはかって≪俺が死なない程度に攻撃≫する。そして『戦闘中のモンスター盗ゾック(斧)LV8』に、俺のトドメをささせる。
 そうすれば当然『他プレイヤーを攻撃した』という罰則ペナルティは入るが、ただ『他のプレイヤー(俺)を攻撃しただけ』であり、『(俺に)トドメをさし殺害したのはモンスター』なので、†カムイ† は≪一発レッドにはならない≫…というわけだ。

「……マサにカスだね」
「まさにかす~?」
 だが、逆に考えるとTJO経験者であれば『戦闘中のプレイヤー、パーティに近寄らない』というのは常識である。
 それでも『近寄ってきて』、しかも『何も出来ない職』で、『何を言うでもなく眺めている』……とか、「俺これから、何か悪い事しますよwwww」と宣言している様なものだ。(何か用件があるなら、さっさと語りかけてくれば良い)

 ようするに『TJO未経験者』で、しかも2番目の街で既に『末期色』という…どうしようも無い悪人の初心者プレイヤーだろう。……まぁ名前もアレだし(※個人の感想です)
 おまけに何故だか、『ただ自分が相手を殺害しなければ良い』という…よくわからない≪勘違い≫をしている様だ。

 …となると、少しTJOの洗礼を授けてしんぜよう。悪事、犯罪には厳しい『ヤマコウクオリティ』〔※2〕の真髄を味わってみるといい。


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LV:10(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:5,665G
武器:なし
防具:布の服
所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×24、バリ好きー(お得用)95%、樽(中)100%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧、青銅のブーツ


〔※1〕まやかしの切れ味[フロードシャープ]
 半径10m範囲内の〈戦闘状態〉の対象1人が装備している武器の品質を、『その戦闘中に限り+1する』(効果は重複しない、+9には効果が無い)
 魔法力により対象の武器の鋭さを増し、切れ味をあげる。あくまで切れ味だけであり属性などは付与されない。何故か切れ味の無い武器でも効果はあるので安心。

 『戦闘時の専用魔法』であるのと、『〈戦闘状態〉の相手にしか効果が無い』ため、両者が〈戦闘状態〉にならないとならず、戦闘前にあらかじめかけておく事が出来ない。
 (おそらく悪用しての交換サギなどの防止のためであろう。〈戦闘状態〉では取り引き行為は出来ない)
 低品質では+1の効果はさほどでも無いが、元が高品質であるほど効果が高くなる。また長期戦が予想される場合には、使用する、しないで総ダメージにかなりの差が出てくる。

〔※2〕TJO総合統括プロデューサー 山岡 光一 ヤマコウ(通称)(CV:小山力也)
 長所短所、メリットデメリット、リスクリターンといった事を重要視する。
 挑戦者魂チャレンジスピリット開拓精神フロンティアスピリットを評価し、停滞、安定、マンネリを嫌う。TJOの理念に大きく影響を与える人物。

 彼の理念により、ただ得する、ただ損する、何のリスクも無いのに強力、苦労したのに儲けが無い…などといった『理不尽さ』が、ほぼ存在しないゲーム性となっている。強力な攻撃、効果には必ずなんらかのリスク、代償を伴う。
 またゲーム内、ゲーム外を問わず、悪事、犯罪行為には厳しい。過去作でも迷惑行為、RMTチートbotなど、容赦なくBANしてきた実績を持つ。



「やまこうくおりてぃ~ …って、なに~?」
「ヤマコウはなぁ……まぁ神様みたいなものだな」
「かみさま~?」

「あぁ基本的に、この世界の全てに『ヤマコウの理念』が反映されている」
「このせかいのすべて~?」
「そうだ、≪おっさんおばちゃん祭≫なのも、全部ヤマコウのせいだっ!」
「ご主人さま …くやしなき~?」
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